”氷像”の最後
遅すぎてすいません
「・・・・・・・はぁ?」
すっとんきょうな声を出して誤魔化しているが、もしかしてバレていないとでも思っていたのだろうか
「ふっふざけるなッ、ふざけたことをぉぉ・・・・・・」
「“神器”使いなのに“神器”使った方が弱いだなんて、何の冗談だい?
君が”二つ名“なら、君に打ち勝つボクたちだって”二つ名“になっているはずだろう。
だがこの稼業で食って数年たつが、そんな誘いは一度もない」
結局のところこれなのだ。影から二人の戦いを見ていたが、正直、コイツは“神器”による燃費の悪さのせいで、あまり大技や搦手などを使えず、相対的に弱く見えた
魔力消費が少なく制御も容易な《氷風》を多用していたのがいい証拠だ
コイツの魔力総量なら、“神器”の使用にさえこだわらなければ大規模な氷属性魔法を連発出来されて、どちらが勝っていたかわからなかっただろう
「魔力の量で多少“神器”を使えたから影武者に選ばれたのかもしれないが」
「・・・・・・・多少?」
「そんな弱さで、“二つ名”持ちをかたろうとするなんて甘すぎるな」
「・・・・・・・・よ・・・・わ・・・・さ?──────ふざけるなぁぁアぁぁあぁ!!」
「うおぁ!?」
刹那。まるで壊れた蛇口のようにクタヴァーの体から高濃度の魔力が吹き出す
「殺す。殺す、殺す、殺ス殺ス殺スコロスコロスコロス!! 脳ずいぶちまけて髪の1本すらこの世に残さず粉砕してくれるぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「おいおいやべぇぞ、あんな魔力の塊どうすんだよ!?」
確かに、これは通常ならかなりヤバイ。今のクタヴァーはいわば限界まで水を貯めた風船。少しの刺激ですぐ爆発する危険な状態だ
しかも吹き出してくるのはただの水ではなく。高濃度に圧縮され、人体に深刻な害を及ぼす魔力の奔流─────────まあボク達は死ぬだろう
「まあそれも──────ボク相手じゃなきゃの話。『権限強奪』起動」
「粉砕された肉を豚のエサとし、一族郎党ミナゴロし・・・・・・てぇ・・・・・・」
周囲の魔力がクタヴァーへと集まると、とたんに糸の切れた人形のように力なく倒れる
「なっ何が・・・・・・・・・」
「ほんの少しキミの周辺の魔力の性質を変えた。言葉で表すなら、そうだな・・・・”接触した魔力と打ち消し合う”って感じかな?」
ようは中和だ。『権限強奪』による魔力の絶対支配は汎用性が高いのだ
まあ今のボクでは出来て中和空間を維持できるのは1分程度、範囲も狭い。
それに魔力を外部へと放出せず、身体強化だけならば、この技は防げる
まさにこのシチュエーション。相手。その全てがピッタリはまったゆえの奇跡みたいなものだろう
「まあ奇跡だろうが、勝ちは勝ち。さて、ポイントを渡してもらおう・・・・・」
「うがぁぁあぁぁぁぁ!!」
そうして優しく降伏勧告をしていると、身体中から血を吹き出し、奇声をあげながらクタヴァーが襲いかかってくる
しくじった、動けないと思って油断していた
やられる
「と、思うことなか───────れ!!」
「ふごぉ!!」
胃の内容物を吐き散らかしながらクタヴァーを穿ち吹き飛ばしたのは、何を隠そうこのボクの魔杖─────に偽装していた鎚矛だった
「ほげぇ・・・・・・・・あびゃぁ」
「交渉決裂というわけね──────気は進まないが、無理やりにでもカードを・・・・・」
「まっまて!! 貴様らこんなことをしてただで済むと思うなよ・・・・・・・私は大貴族アロガンス家の次期当主だぞ!!」
ん? アロガンス家って確か・・・・・・・
「・・・・・・・・・・」
「やっやめろ!! そっそうだ金をやろう。100だろうが1000だろうが莫大な金貨を用意しようじゃ・・・・・・」
「《光撃》」
「・・・・・・・あぇ?」
もういっそ清々しいほどに命乞いをするクタヴァーの前を、一筋の光が通過した
「あっああッァアァァァァァァ!! うでぇ、私のうでがぁぁぁあアぁアァ!!」
これにはさすがに呆気にとられた、というのも、アスピダがクタヴァーがいまだ未練がましく持っていた”神器”を持つ手を吹き飛ばしたからだ
そして、アスピダが普段の調子からは想像できないほど底冷えした声、瞳でクタヴァーに剣を向けた
「これが最後の忠告だ・・・・・・ポイント置いて、消え失せろ」
「ひっひい・・・・・・・うわぁぁぁぁぁぁ!!」
その憎悪すら感じるほどの声音に心底恐れを抱いた様子で、クタヴァーは情けない悲鳴をあげながら暗き森へと走り去っていった
2位にふさわしいポイントを溜め込んだカードを残して
「────────────めずらしいね。君があんな態度とるなんて、あんな態度とるなら殺しとけばよかったんじゃない? それともやっぱ殺しは・・・・・・・・・」
「いや、そういうのじゃない・・・・・なんか殺すのもアホらしくなったというか」
そう言うアスピダの目は、先程とうってかわって複雑そうな光を宿している
理由がわからない訳ではない。アスピダは、ギルドに所属しているということに、ある種の誇りを抱いている節がある
”二つ名”とまで言われるクタヴァーがあの様でショックを受けたのかもしれない
「気にしすぎないようにね、世の中腐ったミカンだけじゃない」
「わかってる・・・・・・・わかってるんだ」
とても勝者のものとは思えないアスピダを目に、ボクの心もまた、それにつられるように痛くなったのだった
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「はあ・・・・・・・・あぁ、あぅいあぁあ!!」
先程までは興奮で感じなかった、体をかき混ぜられるような痛みに悲鳴をあげながら、這う這うの体で私は森を進んでいた
「ころ、してやるぅぅぅ・・・・・・コロシテ、ヤルゥ・・・・・・」
あのゴミどもへの怒りが呪詛のように湧き出てくる。
とはいえ今は体力を回復させなければ・・・・
「クタヴァー様!!」
「────────!?」
そうして木にもたれ掛かっていると、見覚えのある白い鎧が現れる
言うまでもなく、私の部下。しかもこいつは自分のひとつ下の階級の隊長だ
「きっ、貴様・・・・・盗賊どもは?」
「殲滅完了致しました。それよりはクタヴァー様、その傷は?─────それに、神器も」
「そっそれは今はいい!! それよりも何をもたついている、さっさと治癒魔術師を呼んでこい!!」
「───────────受けたわりました。その前にクタヴァー様。応急措置をおこないたいのですがよろしいですか? これでも私には医療機関に在籍した経験がございます」
「おぉそうか!! ならば早く私の傷を治せ!!」
私にもツキがまわってきた。そうだ、そもそもあれは敗北ではない。戦略的撤退、そのための演技。全てはこうして油断した奴らを確実に仕留めるためなのだ!!
どういたぶってくれようか、まず男は奴隷へと落とす。しかもただの奴隷ではない。
東の大迷宮”深淵”の調査奴隷。極刑よりも辛いと言われるあの地獄へと叩き込む
女は少し楽しんだ後、浮浪者にでも渡せばようだろう
「フッフフ・・・・・・・私をコケにした大罪。絶対に償わせて・・・・・・・・」
「ではクタヴァー様────────失礼」
「───────────は? ガハァ!!」
それは、腐っても”氷像”のクタヴァーならばわかるはず、いや知っていたことだった
それが頭から抜けていたのは、自分が治った後の、愚か者への処置で頭がいっぱいだったからか、はたまた、この者達に、少しでも情が沸いたからか
どちらにせよ忘れていたのだ──────この者達が、金という餌を与える契約のもとで、全力で薄っぺらの忠誠を見せる
盗賊以下の畜生という事実をを
「はぎっ─────────ひぃ」
「いやークタヴァーさんよ。あんたには感謝してるんだぜぇ」
そうペラペラな感謝の言葉を向けるのは、私を治療しようとした者だ
その声には先程まで私を甲斐甲斐しく世話を雰囲気を微塵も感じさせぬ。ある種の幼稚さを感じさせる。無邪気で残酷な声であった
「きっ貴様・・・・・・・・こんなことをしてただですむと・・・・・・・」
「済むさ。あぁそうだあんたには言ってなかったよな。て言うか俺らが情報規制をしてたんだが───────あんたに、ビックニュースだ」
「・・・・・・・・・なん、だ?」
「あんたが散々スネかじってるアロガンス家だが────────丁度今さっき、乗っ取った」
「のっ、乗っ取っただと!! 冗談でも許されんぞ!!」
「ところがまさかそのまさか。おまえに金で雇われて一年。ゆっくり蝕んでいった、半月も前には家の権利はほぼ俺のものになったよ。
後は次期当主のお前が当主となり、数年したら立場を譲ってもらうつもりだったんだが・・・・・・・・・」
「ギェエエエエエエエエエエエエ!!」
長々と話してくれてくれたお陰で溜められた魔力を一点に集中し、氷の短剣を作り出す
「死ねぇエエエエエエエエえええ!!」
「やれやれ・・・・・・・ほれ」
「ブッ!!」
隊長はまるでコバエでも払うかのような動きと共に、私を大きい吹き飛ばした
「・・・・・・・・・ふむ、中身が悪いだけで器てしては最適か」
もうろうとする意識のなかで、顔をつかまれ、体を高くあげられる
「喜べ。お前を次の宿主へと任命してやろう───────■■」
「あっぎいぃぉぉあああ!!」
体に何かが入ってくる。それはまるで、心に土足で踏み込むような。とにかく不快な何かが入ってくる
「あア。ワガ王よ、スベテヲ。ハはなるダいちに還しまする」
それがクタヴァー・アロガンス。”氷像”と呼ばれた男の最後に聞いた言葉だった
不穏な予感・・・・・・・




