絶望と切望
「ホォ・・・・・・・・・」
愛銃であるリボルバー二丁を構えながら、オプロはラテュロスに預けられたゴーグルで、戦況を見ていた
ラテュロスがつけていたこのゴーグルは、彼女とノースの二人の中心に展開している『眼』と繋がっているらしく、二人の状況ははっきりと見える
だからこそ、オプロは唇を噛む
(あの二連撃をかわすような化け物に、俺の一撃を当てられるのか?)
ラテュロスにぶん投げられたあの時、彼女は俺にしか聞こえない声で言ったのだ
『私が必ず隙を作る。最後はお前が決めろ』
おそらくだが俺のスキルを知っているためだろうが、だからといって無茶振りにもほどがある
(────────いや。迷うなオプロ!! 女の子がからだ張ってるんだぞ、頑張れ頑張れイケるイケるイケる!!)
とはいえ距離は離れすぎている、発射から着弾までの時間で、ノースは100%避けることができるだろう
だが、それは“一発”ならの話だ
俺は二丁のリボルバーを同時に構える
(まだ待て、決して焦るな。焦ったら全てが水の泡だ)
生唾を飲む音が頭のなかで嫌なほど響く。脂汗が吹き出し心臓が早鐘のように鳴り響く
そして、遂にそのときは訪れた
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「ハァハァ・・・・・・・・ ウボェ!!」
ノースの一撃に、何回目かもわからない血反吐を吐く
(あーくそ、ダメだな、全く攻めさせて貰えねぇ)
一応奥の手がないことはないが、使用しても今のこいつに通用するイメージがまるでわかない
そのためのオプロだったが、提案した私が隙を作れない
なら魔術具を使えという話だが、そもそもラテュロスは攻撃用魔術具をあまり用意できていない。先ほどの斧と小太刀で最後だ
その武器すら、ダメージを与えられなかった
「・・・・・・・・・・いや、そうじゃないよな」
正直に言えば怖いのだ、自分の策が失敗するのが、自分が死ぬのが
笑い話だ、これが初めてでもないだろうに
何度も失敗した、何度も死にかけた。今更何を恐れるのか
もしかしたらこれはただの現実逃避かも知れないけど、それでも
(体は、動く)
ラテュロスは手に持ったカリクビに魔力を流し込む
そして与える。形を、インスピレーションを
“二対式不定形小太刀”。その二刀に刻まれた能力の名は
『超形状記憶変化』
(『千変万化』。“ワイヤーソード”!!)
ノースの大鉈と、ラテュロスのクビカリが激突する瞬間
クビカリが、ほどけた
「!?」
ノースは、受けるはずの反動がこず、僅かに体を固める
そしてラテュロスは糸と化したクビカリに魔力を込め操り、ノースを拘束する
(今だ、オプロ!!)
ラテュロスが拘束を完了した瞬間、森の奥から銃声が響く
だが、本来リボルバーではこの距離は有効射程の遥か外。ノースに着弾する前に落下してしまう
だが、だからこそのオプロの能力なのだ
オプロが持つ固有能力。その能力は
“回転を自在に操る”。オプロ曰く
『操廻』
通算十二発の弾丸の雨が、ラテュロスごとノースを射殺さんばかりに殺到した
ドチュ
嫌な音を響かせ、ラテュロスに弾丸が突き刺さる
だが、来ることはわかっていたためなんとかダメージは最小限だ
とはいえ、蓄積していた傷も相まって、ラテュロスは膝から崩れ落ちる
(とはいえ、これで──────)
「悪いな」
それは勝利という、甘く、そして確実に心を弛緩させる猛毒により落ちかけていたラテュロスの思考を叩き起こし、恐怖させるには十分すぎるほどの囁きであった
「こちとら、普通じゃねえんでな」
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ノースはその体格などで誤解されがちだが、人間種ではなくドワーフである
生まれはかなりの規模を誇る村の村長の息子で、鍛冶の才能には恵まれなかったものの
商才。軍才。戦才。おおよそ天才と呼ばれるには十分なほど、彼は才能に満ち溢れていた
民や父に次期村長として持ち上げられ、まさに順風満帆の人生──────に、なるはずであった
それは、10歳の誕生日のことであった
ドワーフは10歳を成人として、神に祈りを捧げ固有能力を得るというのが通例であった
ノースも例に漏れず、村の教会で祈りを捧げた
だが、いつまでたっても神の祝福は舞い降りなかった
刻咎者
1億人に一人の確立で生まれる、神になにかを奪われたもの達である
ノースの場合は、固有能力の簒奪
村民の反応は驚き軽蔑など様々だったが、一つの結論にまとまった
大聖堂。特別施設揺り篭への引き渡し
刻咎者は例外なく大聖堂への引き渡しを義務付けられていた、神へと許しを乞い、奪われたものを返してもらうため
だが、それはあくまで表の理由だった
揺り篭へとつれてこられたノースは、まずここでのルールを説明された後、チョーカーを付けられた
紅い、独特の紋章が付けられたチョーカーで、揺り篭に収監されているすべての者達が同じものをつけていた
だが、その生活は別に何か悪いところがあるわけでもなかった
むしろ村長の息子として暮らしてきたノースからしても高い水準のせいかつだったと思う
一日に一回の検査、外出の禁止以外はぐらいしか、不便だと思うものもなかった
だが、おおよそ平和な揺り篭の中でも、同世代の子供に比べて遥かに身長が大きいことや、ドワーフということもあり、ノースはかなり浮いていた
食事も、遊びも、勉強すら一人
今日もまた、一人寂しく食事を食べる
だが、そんなノースに
「ニーハオ」
その特徴的な言語に、ノースはつい食べていたものをつまらす
何とか水で詰まっていたものを流し込むと、少し涙目になりながら、後ろを振り返る
だが、次の瞬間にはノースは涙も寂しさも全て吹き飛ぶことになる
艶がかかった黒髪に、見ただけでも分かる柔らかさを誇る肌
そして、特徴的な濃青と銀色のオッドアイ
ノースの視界が、急に色を取り戻したように明るくなり、体が熱をもってくるのが分かる
その瞬間ノースはこの運命の子に恋をした




