会合
魔獣の群れを一蹴した後。ラテュロス一行はゴーレムのプラズマ片手に、近場の森を徘徊していた
その道中で
「カカカ、強いなぁお前ら。これなら合格も夢じゃない」
「御託はいいよ、なんだこの試験。ルールもくそもないのか?」
「おっと忘れてた、ルールならあるぜ。説明してやるから、まずは離せ」
鷲掴みで宙ぶらりんの状態だったプラズマが拘束を外れ、地面へと着地する
「とはいえ五級試験は受験者の数が半端じゃねえからなぁ、ルールはただ一つ。」
プラズマはモフモフとした手から、光輝く板を取り出す
「一週間このカードを奪い合い、最終的なポイントの合計の上位のパーティー、先着100名が四級の資格を手にする。ほらよ」
プラズマから全員にカードを投げ渡される
「大事にしろよ、それはお前らの未来へのライセンスだ」
ラテュロスは手の中に掴むカードをポケットにしまい、全員と顔を見合わせる
そして
グゥゥゥゥゥゥ
「・・・・・・・・・まずは飯にするか!!」
盛大に響き渡った腹の虫に、全員がその言葉に賛同したとき、プラズマが呆れた顔をしていたのはまた別の話
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「よおー 調子どうよ?」
「・・・・・・・・・・」
場所は変わり、ここは試験会場のはるか上空に位置する。ギルド本部である
何故上空にあるのかは、これを建設したギルドマスターのみが知っているらしいが、そんなことは今はどうでもいい
今大事なのは、そのギルド本部の一室に揃っている面子のことである
まあ一室と言っても、軽くダンスホール程のサイズがあり
その半分をプールのような大きさのスクリーンが占め。もう残り半分はテーブルと椅子がセットで浮いているという珍妙なものであるが
そのテーブルの一つに、人影が2つ
一人は眼を引くほど美しい長髪を後ろでまとめ、柔らかなローブに身を包む切れ眉の美男子
その者に、粗野で質の悪い服を纏った、盗賊のような風貌の男が絡んでいる
端からみればナンパや言い寄っているような、とにかく健全なイメージは沸かぬ場面だが、本人達の間には、見るものが見ればしっかりとした信頼が垣間見える
男は問いかけに反応しないことに慣れているのか、さほど気にせず隣に座る
「始まったなぁ五級試験、なあシンス、お前の所の新人、すげぇ強いって聞いたが、俺の所とどっちが強いと思う」
「・・・・・・はぁロジカ、君はもう少し語彙を増やすなりして教養を広げたまえ。支部長として、それでは外聞が良くない」
そう、ここに集まっているのは、各地方から集まった支部長達である
その内、本部から近場の支部に事を構えているのがこの二人
では何故ここにギルドの中間管理職が集まっているのかというと
スクリーンは一つの大きな画面があるのではなく、テレビ程の大きさの画面が無数に存在している
そして、この二人のテーブルには五つほどの画面が備え付けられている
そこには人が写っており─────そしてその中には、今正に試験を受けているラテュロス一行の姿もある
ここは、支部長達が自ら推薦したものや、他の支部長達が推薦したもの達を見定める場
まあぶっちゃけた話、本人達にとっては野球のテレビ観戦とさほど変わらない娯楽のようなもので。酒を飲むものや賭けに興じるものも少なくはないのだが
そしてそれはこの二人も例に漏れずの手には、ジョッキに並々に入ったビールとワイン。そしてツマミが握られている
は皿からナッツを数欠片口に放り込みながら、無愛想な同僚に話しかける
「・・・・・・まあ、ワンオーワンなら厳しいでしょう。集団戦かつ明るい時間帯ならあるいは─────そっちの見解は」
「同意見だ。とはいえ"二つ名"持ち同士の戦いだからな、絶対はない」
"二つ名"
それはギルドから与えられる称号である
"二つ名"を与えられれば確実に史実に名を刻むことが出来るとすら言われている
他にも依頼の優待権や貴族に匹敵する政治的地位の保障など、まさに至れり尽くせりだが、当然選ばれるのはごく僅か。十年に一度現れれば御の字という程の存在である
「それが同時期に二人、更には五級からの輩出ですからね、確かにわからない─────『氷像』と『黒蜘蛛』・・・・・・勝利の女神は」
「どっちに微笑むんだろうなぁ」
心底楽しそうな様子で二人は酒を酌み交わす、その視線は、二人の男に注がれていた
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試験が始まってから、随分と時間がたった
夜は更け、魔獣達の鳴き声が深夜の森に響き渡る
その合唱の合間に、人の声が、ひぃ ふぅ みぃ・・・・・両の手では数えきれないほどの声が、夜の森に消えていく
それは悲鳴か、はたまた今酒を酌み交わしているもの達のような、酔いの回った狂笑か
そして、その騒がしい集団の中心に、男が二人
一人は黒いドレッドヘアを後ろでまとめた、鋼のような黒光りする筋肉を纏った男
相対するのは、対照的に純白の軍服と、透き通るようなライトブルーの髪をおろした。女と見紛うような美貌をもつ男
美女と野獣という言葉を体現したような状況だが、二人の間にあるのは、警戒と侮蔑だけである
そしてこの男達こそ、ドレッドヘアの方が、『黒蜘蛛』ノース・アスノーヴァ
向かい合っている男が、『氷像』クダヴァー・アロガンス。
今まさに、二人の支部長が話し合っていた二人である
先に話を広げたのは、クダヴァーの方である
「ノース殿。一ヶ月前の申し出、受けてくれる気になりましたでしょうか?」
その問いに、ノースは答えず、薄ら笑いを浮かべたまま酒を口の中に流し込む
クダヴァーその態度に対して言及はしなかったものの、明らかな不満を雰囲気に出しつつも、あくまで声は冷静で揺れた様子はない
「私とあなたにとってこんな試験はあくまで通過儀礼。ならば協力し、効率的な合格を求めるべきなのではないのでしょうか?」
「・・・・・・・もいい」
「・・・・・・今、なんと?」
「もういいっつたんだよ。はっきり言えよ、自分の駒になれってよ」
「・・・・・・・・・」
ノースが吐き捨てるようにクダヴァーの心中を言い当てると、初めて、クダヴァーの顔が少し崩れる
それを知ってか知らずかノースは更に畳み掛ける
「それに申し出とかなんとか抜かしてたが、あんな上から目線の命令文でそれは無理があるだろ。とにかく俺はお前を潰す気だからな。わかったらとっとと・・・・・・・と」
ノースは嘆息するような声と共に、首を少し後ろへと傾ける。そして
キン!!
ガラスが割れるような音と共に、ノースの顔の正面の空気と、後ろの木々達が凍りついた
それをやったのはもちろん──────
「─────交渉決裂だな。盗っ人風情が我が慈悲をはね除けるとは・・・・・断罪だ」
「やっと本性表しやがったかタヌキ野郎。ついでに後ろの連中も前へ出せよ、うちの傘下どもの腹の足しにしてやるからよぉ」
その言葉に、森からは闇夜紛れるように艶消しが施された全身鎧を纏った集団が現れる
だが、直前まで酒を飲んでいたノースの部下が、近場にある武器を手に取り、雄叫びをあげる
飲酒により上がった血行のせいか顔は赤く、血走った眼でクダヴァーの兵達を見据える
「オラお前らぁ!! コイツら全員売捌して宴のやり直しじぁぁぁぁぁぁ!!」
「勇士達よ!! 不浄なる盗人を滅せよ!! 首一つにつき金貨百枚の恩賞を約束しよう!!」
お互いのボルテージが最大に上がった時。月光にさらされた森の中で、鮮血と雄叫びの混じり合う狂宴が幕を明けた




