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試験当日

城塞都市カルカス・ソーナー。その近辺に位置する湖、グリル湖。通称“魔海”


湖なのに海、と思うかも知れないが、この湖、とにかく広く、そして深い。つまり言い表せないほど大きいのでである


その大きさ(スケール)は向こう岸が見えないほどで、さらに海産物の種類が豊富かつ、底を着くことを知らぬため、市場の海産物の約二分の一を占めている


が、それだけで終わらないのが異世界だ


“魔海”はその名前の通り、魔が住まう海のような湖である


“魔海”は魔力の濃度がかなり高く、強力な魔獣が跋扈(ばっこ)している。


だが魔力濃度が高い故に、ここでとれる海産物の品質は最高クラスであり、漁師や、漁師が護衛を依頼したギルド員強く惹き付ける。という意味でもここは“魔海”と呼ばれる


そしてそんな海に、一つの魚影(ぎょえい)、いや“人影(じんえい)”が1つ


バシャア!!


「・・・・・・ふう」


少し伸びた、その特徴的な青髪と、巨大な靭尾をふって水を振り払う


元々持っていた整った顔を、“可愛い”から“美しい”へと変えて、成長した獣──────テルスの手には一枚の網が握られている


そこにはまだ生きのいい生魚やカニなどの甲殻類が一杯に詰まっている


テルスはそれを軽々と持ち上げると、慣れた様子で走り出す


しばらくすると小さな小屋が見え始め、そこにはいかにもなかが良さそうな老夫婦が、こちらに気付き手を振っている


二人は目の前に凄まじいスピードで現れたテルスに何ら驚くこともなく、テルスの持つ網を受けとる


「いやぁいつもすまないねぇテルスちゃん。どうも最近体が動かなくて」


「ほんと、テルちゃんが居なかったら私たち廃業するところだったから。はいこれいつもの」


そう心底嬉しそうにそう言う老夫婦に、テルスも優しい笑みを浮かべる


そして、大きな革袋を受けとる


「毎度あり」


そのずっしりとした重さを感じると、テルスは短く礼をいい。また凄まじいスピードで、町へと戻った


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おっ、テルス今日もバイトは終わりか? あいつならいつもの場所だぞ」


「わかった」


いつもの暇そうな門兵の前を素通りし、繁華街へ走り抜ける。その足取りに迷いはなく、目的地をはっきりと見定めいる


しばらくすると、鼻腔に鉄が焼ける独特の匂いが香り始め、鋼鉄に覆われた真四角の建築物が現れる


同じく鋼鉄で出来た扉を軽々と開けると、鉄を打つ音や水が蒸発する音などが鼓膜を叩く


そして、その奥の作業室に歩を進めると


「姉御、もう行く時間だよ」


「ん? もうそんな時間か?」


小柄で筋肉質なドワーフの集団の中で、明らかに場違いな少女──────ラテュロスに、テルスは苦言を(てい)


頭に着けているゴーグルを外し、そこ新緑色の瞳をこちらに向ける


「うん、もう一時間もすれば着くって、だからシャワー浴びに行こ?」


テルスのラテュロスに対する口調は、この期間でかなり崩れていた。まあその内の姉貴分への愛情は増長しているが


「そだな、じゃあ私上がりますね」


そんなことは露知らぬラテュロスは、ドワーフに一言入れ、鍛冶工房を後にした


少し歩くと、粘土で出来たような不格好な店が見えてくる


扉を開け、カウンターに座る初老の女性に銅貨を六枚、山なりに指で弾く


落ちてくる銅貨を苦もなくキャッチすると、しわくちゃの手を部屋の奥の扉へと向ける


それを見届けると、その方向に歩を進め、『女』と簡潔に書かれた扉を開ける


中は脱衣所になっており、その奥のロッカーに手を掛ける


そこには衣類や軽食などが保存されており、中を軽くあさり、タオルを引っ張り出す


そして汚れた服を脱ぎ放ち、綺麗にたたんだあと、使い捨ての袋に詰め込む


慣れた様子で袋をロッカーに詰め込むと、その奥のシャワー室へと歩き始める


とはいえ汚れを落とすだけなので、髪と体を軽く擦ったら、体を拭う。後は手から魔法で温風を出し、締めに冷風を吹きかけ、ロッカーへと戻る


洗濯をして優しい香りがする下着と服を着る


その服は当初の村娘ファッションではなく、実用性に富み、かつ美しい二人にマッチするように作ったオーダーメイドである


「じゃあ、私は最後の買い出しに行くか」


すると、ラテュロスが不意に虚空に手を伸ばすと、その背丈を優に越えるバックが出現する。なお通行人やテルスはその光景に慣れているので、特段なにかを言うことはない


バックをテルスに預けると、テルスが入ってきた門とは反対側の門へと歩き始める


途中でチーズやパン等の食物を多めに買い取り、歩き続けていると


「あ、二人とも久しぶり!!」


そう元気に話しかけるのは、初めてここに来たときにリンゴをくれた気前のいいおばちゃん────もといリンさんであった


「それにしてもあんたらがここに来てもう1ヶ月だけど・・・・・成長が早すぎやしないかねぇ?」


リンさんがそう言うのも無理もなく、中学生くらいの身長だった二人は、二人とも高校生ほどの体躯へと急成長していた


そして、その過程でテルスの背が自分の背を越えそうでラテュロスがひどく焦っている。というのはまた余談である


リンさんに別れを告げると、遂に門を抜け、堂々と鎮座する馬車が目に入る


ギルドの紋様が入った馬車、と、聞かされていた通りだ


中に入ると、その中には三人組のパーティーが腰を落ち着かせていた


一人は全身鎧(フルプレートメイル)の頭部の鎧だけを外しており、さらされている顔は少し髭を蓄えた三十代後半のおっさん。という感じである


もう一人は急所を守る最低限の鎧に身を包んだ、銀髪赤目の男


最後の一人は純白のローブに身を包んでおり、黒髪を緩くまとめ、丸眼鏡に金眼と独特な姿をした少女


その三対すべての瞳がこちらに注がれるなか、テルスとラテュロスの二人は特段気にした様子もなく三人とは反対側の椅子へと座る


だが、ラテュロスは内心少し冷や汗をかいていた


なぜなら


「よお、新入り」


明らかに、あっち側がこちらを歓迎する雰囲気ではなかったからである


ラテュロスは心中で、この試験が難儀になることを予見して、歯を食い縛るのだった





























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