二面の盤上
「なる、ほど・・・・・」
「・・・・・・・意外と驚かんのだな。もっと腰を抜かすかと思っていたが?」
「脳の処理が追い付いていないだけです・・・・・・この間に本題に入って欲しいのですが、脳の現実逃避が終わったら、『ループ』とか、それに伴う被害とか、とにかくそれどころじゃなくなるので・・・・・」
「あいわかった」
ツバキは弛緩した顔を再び締め直し、円環戦記の原本を開き、その中の行の一つを指差す。そこには
『戦いの幕開けは敗者から、傑物集まりし聖地に
て、大戦の火蓋は切られる。これ絶対の理
勝者の軍勢、軍靴響かせ傑物を母なる大地へと返す。
奪われし敗者の鏖殺を以て、この前哨戦は幕を閉じ
る。これ理にあらず』
「傑物の集まる聖地・・・・・・・・なるほど確かにこれは、無視して事実だった場合の被害は、人類側の被害は取り返しのつかないことになる」
膨大な情報により一周回って脳が冴え渡っているユダは、文字を見終わった瞬間全てを察する
その様はさながらツバキの軍師である
「ああ─────────この時期は一年に一回の、一ヶ所にもっとも傑物が集まる大祭」
二人は目と声を合わせる
「「ギルド主催の選抜試験」」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「対策はとってるんですよね?」
「勿論だ、私選りすぐりの実働部隊を配置している・・・・・・・のだが、一つ問題がある」
「問題とは?」
一際思い悩む様子を見せるツバキに、ユダは困惑の声をあげる
そこまでの対策をとっているのなら、何も問題のない気がするが
「足りないんだ」
「え?」
「一から四までは問題ない。だが、“ギルドのふるい”と呼ばれる五級試験の受験者を敵勢力から守るには、試験会場が広すぎる上、ワシ直属の兵は少なすぎる」
おっしゃる通り、というのがユダの正直な感想だ。五級試験は受験者の数は毎年億を超える。いくらギルマスの私設兵だろうと、さすがにそこまでは守れないだろう
「先に言っておくが、他の勢力に助力は頼めん。五級はその上の階級と比べて低く見積もられやすい、見捨てろと言われるのが関の山だろう」
ギリッ・・・・・・ ユダの歯が軋むおとが部屋に響く
正直、今すぐにでも五級試験の護衛を申し出ればいいだけの話だ
あの二人の安全を考えるならそれが一番だとわかってはいる
だが、この人がわざわざその話をするということは、行くな。ということだ、何か策があるということだ
それでも、ただ安全を祈ることしか出来ない自分の不甲斐なさに、ツバキの目も憚らず、ユダはうつむき
「頼むから、無事でいてくれよ」
誰にも届かない懇願が、ユダのなか木霊した
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「久しぶりだね、このメンバーが集まるのも」
開口一番に楽しそうに笑う“それ”を一言で表すなら、“煩雑”という一言だろう
見た目はタキシードと黒いシルクハット、柔らかな声。その二つを並べると、かなり物静かな印象を受ける
まあ腕が通常の人間の三倍の六本であることと、顔が墨で塗りたくったように黒い凹凸の少ない顔に、顔と口が福笑いのように張り付いてることを除けばだが
そして、そんな異形に話しかけられる二人?も、また異形だ
一人? はまるで王宮に飾られるような美しい装飾を施された全身鎧。だが、鎧は糸が切れた人形のように、無機質な椅子に背を預けている。
もう一方は一応人の形をしているが、その顔や体は痩せこけ、肌には幾つもの斑点模様が浮き出て、一見しただけで不健康だとわかる見た目をしている
そしてその二人の黒顔に対する反応は、黙殺
黒顔も慣れっこなのか、多腕一つ一つであきれを表現しながら、勝手に話を進め始める
「計画は順調だよ。選抜試験? だっけか、その会場も押さえたし、いやぁ、『惑星』の軍全部使っちゃったけど、私、殺されちゃわないかなぁ、ねぇ『病魔』」
すると病魔と呼ばれた不健康男は、さも不機嫌といった様子で
「うるさいよ『人類』。お前の言葉は空っぽで面白くない、僕に話しかけるな」
「でも今後のための大事な計画の会議なんだよ? 同胞の意見を聞くのは当然じゃない?」
「直接じゃなくても書面上の会話で十分だろう」
「それやったら怒ったじゃないか?」
「それはお前がふざけた絵をのせたからだ!!
ッッッゲホ!! ゴホ!!」
ビチャチャ
声をあらげると同時に、テーブルに黒ずんだ血をぶちまける
黒顔・・・人類はその様子を何てことのない様子で見つめるだけで、鎧・・・・惑星
に関しては関わろうともしていない
その様子を病魔は恨めしげに見つめながらも、口をぬぐい、人類に話を進めるように促す。話を聞く気になったらしい
その様子を嬉しげに見つめながら、人類は、テーブルに左側三本の腕をつく
「まあ、話すことと言っても、ただの事後報告になるけどね。盤面は完全なる詰みだ、僕達の当初の目的は、ほぼ達成したと言っていい─────────零級は、そのあとゆっくり殺していこう」
「零級・・・・・ ああ、お前が僕達の最大の壁になると言っていた奴らか」
「まあね─────さすがに、今の私たちじゃ、相手にならないよ。まあただ───────」
そう言って、人類はその多腕を組むと
「全てが終われば、奴らは血に染まる世界の中の、血だまりの一つになっているだろうがね」




