円環戦記
その部屋は異様な雰囲気に包まれていた
部屋にいるのは二人。だが、その二人には決定的なまで状況に格差があった
一人は漆を塗られた机いっぱいに広がる懐石料理を肴に、人が一人入れそうなほど大きなひょうたんの酒をガブガブと飲み干している
そしてもう一人は、体のあちこちの切り傷から血を漏らしながら、食事をするもう片方を睨んでいる
その睨む男。ユダは静かに目をおろした
何故この男がここにいるのか?
ラテュロス達と別れたこの男は、自らの能力で転移門を作り出し、ここへと飛んだのである
ここに来た理由の一つとして、今目の前にいる呑気に飯を食べてる奴に、勧誘されていたというのがあるのだが、それはまあ置いておいてだ
とにかく転移門で飛んだユダはすぐさまコンタクトを取ろうとしたが、そこで待ったをかけたのが、他でもない目の前のこいつなのである
自分の配下になりたければ、自分に一太刀いれてみろ。と
勧誘してきてる身で何を上から目線で言っているんだと困惑したが、まあ身寄りもないので渋々従い、指定された場所へと赴き───────────現在に至る
カチャ
鳴り響いていた咀嚼音が収まり、代わりに箸を置く音が響く
すると、目の前の女性が立ち上がる
ユダは身長が190後半とかなり大きいのだが。相手方はそれと同じ程度の巨躯を持っている。さらに先程自分を刻んでくれた、その巨躯をゆうに越える、2メートル後半はあろうかという大太刀を腰に下げ、悠々と自らを見下ろす
「いやぁ斬ったまま放置して悪かったなあユダ殿、何せ・・・・・ゲプ、鍛練のあとの昼食だったものでな。」
そう呵呵大笑といった様子で笑うと
「まあそう睨むな。もともとお主には配下になってもらうつもりよ、何せうちは常に人手不足なのでな」
じゃあ何故刻んだのか。という言葉を飲み込み、ユダは痛む体に鞭をうち、礼を言う
「気にするな、お前には体を治したらやってもらうことが山のようにある。そのままで構わんから話を聞いてくれ」
ユダは首をかしげる
「・・・・・・聞き及んでいた感じと違いますね、貴方が仕事をしないとギルド内で噂になっていたのですが─────────ねえ、組合総督、ツバキ・ササユリ殿」
すると、心外と言わんばかりにギルマス──────ツバキは両手をあげる
「書類仕事をしてないだけで大袈裟な。ワシにはワシの仕事があるのよ───────────あと、ワシの名前は笹百合椿だ、二度と間違えるな」
少し声に険を含ませ念を押すように言うと、すぐに声に柔らかさを取り戻す
「ところで話しは変わるが、ユダ殿は『円環戦記』を知っているか?」
不意にツバキがそう思い出したかのように問いかけてくる
「───────そりゃもちろん、有名なポエムですよね。子供の頃からよく読んでますよ、何せ考えさせられることがおお─────────」
「なら、それが事実だと言うことは?」
「・・・・・・・・・は?」
「どうやら知らないようだな。なら、今から言う話は、心して聞いてほしい。君の仕事にも影響するからな」
そう言って、ツバキはゆっくりと、読み聞かせるように語りだした
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『人と神。これ切り離せぬ繋がり。これ絶対の理
人と神。二つは時に融和し、時に互いを憎悪する。
これ絶対の理
人と神。互いは呼び名を変えていく、その名、これ理
にあらず
人と神。これらは憎み、殺し合う。どちらが勝つか、
これ理にあらず
序章の愛と終章の憎しみ───────幾星霜。幾星霜と、円環り続けて。終わりなし』
シェイクアム・ウィリスピアが品評会に出したこのポエム。円環戦記は、世界的文化遺産として、今でも語り継がれている
「──────────それが、実話? 何かの冗談ですか? 失礼を承知で言いますが、面白くない冗談ですよ」
「いや、決して冗談ではない。というより、ユダ殿が知っているこの本の情報は全て間違っている」
本? その言葉に違和感を覚えたユダの顔を見て、無理もないという顔で得意気に話し出す
「まず、円環戦記を書き記したのはウィリスピアではなく。ジトウと呼ばれる占い師だ」
「占い師、ということは────────」
「お察しの通りだ、奴は未来から過去に至るまで、全てを観測する力を持っていた。その情報の全てを綴ったのが─────この『円環戦記』だ」
ゴトリ・・・・・と重厚感漂う音を響かせ、ツバキは一冊の古ぼけた本を差し出す
ゴクリ・・・・・ と、ユダの喉が鳴る
確証はないが、妙に納得して、確信した。これが原本だと
信じきれている訳ではない。が、ツバキの瞳には、こんな突拍子もない話が真実だと、根拠もなしに信じさせる何かがあった
「では、何故そんな国家機密の塊のような本の一説が、文化遺産に登録されているのですか」
「話すと長くなるが・・・・・・・まあ簡単にいえば、本そのものを盗み出そうとした奴が、誤って1ページ落としちまったみたいでな。
あの時は、情報統制が間に合わず、本の情報は隠せたが、紛失したページの内容が世に出回っちまったて訳だ」
「それはまあ、ご愁傷様で・・・・・・・」
「本当にあの時は大変で──────っと、話がそれたな。とにかく、この本が本物というのは信じて貰えたらしい」
「まあ、信じるしかないでしょう。で、それを話すってことは、その原本に何かヤバイ未来が書かれていたんですか?」
すると、突然ツバキは困ったように頭をかく
「んー まあな。とはいえまだ、机上の空論の域をでない。ただ・・・・・・・・・」
「ただ?」
「この説が真実だった場合─────────ワシらは、今回。大敗を喫するかも知れんのだ」
その言葉の違和感に、ユダはすぐに気付く
「待ってください、“今回”、とはまるで、前にも同じことが起こったような・・・・・・・」
「察しがいいな・・・・・・・その通りだ、人と神は何度も何度も、血を血で洗う大戦を繰り返している──────ユダ殿よ、何故、この円環戦記の情報は、世間に出回っていないと思う?」
すると、ツバキは目を伏して、どこか申し訳なさそうに、唐突にユダにそう問いを投げかける
その問いにユダは何かあると感じ、思考の海に身を落とす
何故、円環戦記の情報が出回っていないのか
未来の情報がもたらす新しい災いを防ぐため?
この情報を独占するため?
本人がそれを望まなかった?
またはその全て?
『序章の愛と終章の憎しみ───────幾星霜。幾星霜と、円環り続けて。終わりなし』
(もし、この一説が、本当に言葉通りの意味だとしたら?)
カチッ!!
乾いた音を鳴らして、ユダのもつすべてのピースが繋がった
バッ!! と、ユダはとっさに顔をあげ、正面のツバキを凝視する
もし、今自分が立てた予想が正しいのなら、上記に上げた3つがもたらす被害など比較対象にならないほど、
円環戦記の内容の公開に伴うデメリットは、想像を絶することとなる
どうか間違っていてくれと願うユダの視線を、ツバキは伏していた目を開け真正面から受け止める
だが、その目に映るのは、この仮説を正しいと断ずることができる根拠のみだ
「もう気付いているだろ・・・・・・・この世界は、人と神との争いのなかで、何度も滅び、興るを繰り返している。君らで言うところの───────」
『ループ』。という奴じゃ
この設定出すか迷いましたが、これしか話を完結させられなさそうなので、使いました
ブックマーク&最高評価お願いします!!!!




