鮫VS元魔王
テルスって自分的にはラテュロスより好きです
「クッ、クソ」
すでに内臓はボロボロのはずだが、悪態をつきなんとか立ち上がるテルス、だが、隙が多すぎる
「悪いが1分で終わらすぜ」
再度風の魔法を、今度は固めた拳に回転と共に纏わせる
更に
「フッ」
事前に足の裏に圧縮しておいた風を解き放ち、風掌により開いた距離を即座に潰す
更にその最中、脇を固め、ボクシングのフォームを作る
この間、実に一秒未満
「5秒で十分だったか」
瞬間、風を纏った神速の連撃が、テルスの体を嵐のように穿った
人が人を打つ音とは到底思えないほどの爆音が響き渡ると同時に、テルスが膝から崩れ落ちた
「ヘッ・・・・・ブ・・・・」
「うん、イメージ通り、こうも上手くいと逆に不気味だね」
(本来は顎ぶち抜いたほうがよかったんだろうけど、さすがにあれやると、起きなそうだからな)
元々コイツの戦力が高いことはわかっていた、そしてただの驕りたがぶるバカではないことも
だから念には念を入れ、不意打ちによる決着
起きたコイツはラテュロスを責めるだろうが勝利は勝利、それは揺るがない
早速テルスを運ぼうと、ユダの方を見る
だが、ユダは目を合わせてはくれず、ただ俯いていた
そのなにか言いたげな表情の真意を探るのと同時に
テルスの拳が致命的な距離まで迫っていた
それの存在とユダの表情の意味を悟ったのと同時に、ラテュロスは先程のテルスと同じように、否、それ以上の速さを持って殴り飛ばされた
「ッッッッ!!」
なんとか受け身には成功したが、凄まじい膂力だ、鉄球が激突したかと思った
だが、それ以上に驚きなのか
(・・・・ダメージが、浅い、浅すぎる)
そう、たった一撃食らっただけで少しフラつくラテュロスに対し、テルスはダメージこそ負っているものの、その全てが軽傷だ
「魔法、いや能力か・・・・?」
「惜しいな・・・・・ 私の固有能力が魔法を強化するもの、が正解だ」
(・・・・・なるほど、魔導系の能力か)
固有能力には、その能力の概要に沿った系統がある
と言っても、かなり曖昧なものだが
その中でも、魔導系能力は線引きがしやすく、その内容は他と比べてとてもシンプルだ
魔導系能力を端的に説明するとするならば、魔法でも再現可能な固有能力といったところだろうか
例えば炎を出したり操ったりする固有能力、こういうのがわかりやすい例だろう
なら他の固有能力より劣っているかと言われると、これが意外とそうでもない
現に、ラテュロスはその力に苦戦していた
「チッ、さびいな」
その光景はほんの数秒前と比べるとまるで急に氷河期がきたようにのように変貌していた
「ほらほら!! 私は一分で十分じゃなかったのか!?」
すると、テルスの魔力が大気を軋ませ、黒板を引っ掻くような音と共に、10本以上の氷の大剣が生まれ、その全てが束になり、ラテュロスの命を刈り取りにかかる
とはいえ、その動きはあくまで単調、10本あろうが束ねられている以上一本と動きはそう変わらない
とはいえ
(このペースでやられると不味い、さすがに洒落じゃすまなくなってきた)
それを裏付けるように、ラテュロスの体には無数の霜が降り始めていた
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
話しは180度変わるが、固有能力には、副次能力というものがある
魔法系能力の最大の強みはこの副次能力の数にこそあると言っても過言ではない
通常の固有能力の副次能力の数は一個、多くても二個程しかないが
魔導系副次能力平均三個、多いときは五個もきいたことがある
例えば、先程の炎の固有能力で言うのなら、炎の魔法の魔力消費減少、威力の上昇といったところだ
だが、これは
「さすがに、おかしすぎだろ!!」
今までのを観測していても、おおよそ全ての属性の魔導系能力と言われて納得してしまうほどの手数と威力だ
もしかしたら本当にそうかもしれないが
(だとしたら、出し惜しみは悪手だな・・・・・・)
本気を出す、そう決意したラテュロスの雰囲気が明らかに変化する
テルスもそれを感じ取ったのか、明らかな防御体制に入る
だが、調整した創造支配者は、奴のように火力によるごり押しに重きをおいていないので
「そいつは、悪手だ」
すると、先程のように風による爆発的加速を用いて、開いた距離を縮めんとするラテュロス、しかし奴もそれは想定していたのか、即席の長剣2本と先程の大剣が、距離を詰めるラテュロスを潰しにかかる
先程のラテュロスならば、この波状攻撃に致命傷を食らっていただろう、何せこちらは素手なのだ、例え対処出来ても、体へのダメージは免れないだろう
そう、素手ならば
「・・・・・・・『創造』」
「ッッッ!?」
ラテュロスが能力の行使を命じ、能力もまた、主の命令に歓喜の叫びをあげながらそれを創りだす
瞬間、致命の氷の演舞が、黒鉄の閃光に切り裂かれ、本来の形である魔力と水になって空気に溶ける
それを目にし、数秒固まったテルスだったが、すぐに建て直し、今度は炎も交えた演舞を披露しようとするが
ラテュロスには、その数秒は遅すぎた
黒い閃光が、無知で強き鮫を切り裂いていた
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(初めて起きた時、それは私の地獄の始まりだった)
鮫女こと、テルスは自分の目覚めをそう評する
人とは不思議なものだ、無知なままでも、誰かに必要とされることを望むのだから
例えそれが、恨みや妬み、疎ましさであっても、そこに愛があると信じて
テルスは、奴隷商に入ったときから無人島につくまで、ずっと眠っていた
それこそ、管理人から廃棄の話が出るほどに
だが幸か不幸か、そんなテルスにそそるものがあると思った貴族が、廃棄の話を揉み消したお陰で、テルスはただ眠る日々を過ごしていた
だが、なぜかそれが無人島にきた途端に治った
それをよしとしなかったのが、テルスとは別のところで生活していた奴隷達だ
のうのうと寝ていた癖に何で自分たちと同じように飯を食べているのだと
時々性性格が変わったのも、その物達の負の感情は悪意へと姿を変えた
元々テルスを知っていたもの達は境遇を知っていたため反抗したが
ホルスの一声がなければ、今頃テルスはそのもの達のいじめでここにはいなかったかもしれない
だが、それでも陰口や陰湿な嫌がらせ等は抑えきれなかった
そしてそれすらも、何もわからないテルスには過剰なまでの悪意だった
(起きてから持っていたものは、妙な能力と言葉の発っしかた、あとは簡単な語句だけだった)
ある時、ここから出るもの達がいると聞いた
チャンスだと思った、こんな嫌な思いはもうたくさんだと、乗せて貰おうと思ったが
結局たどり着くことが出来ずに呆然とした
そんなときだった、美味しそうな匂いが漂ってきた
それに釣られ、大きな箱が見えてきて
中を開けると、そこにはたくさんのご馳走が入っていた
いじめでご飯も抜かれていたテルスにこれに抗う術はなかった
これが、こんな状況になった経緯だった
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「・・・・・・・うぅ」
思い目蓋を開けると、木漏れ日が目に刺さるように自らを照らす
咄嗟に目をつぶったが、慣れてくるとその光の暖かさが感じられるようになる
「おっ、もう起きたのか?」
その声にテルスは体を震わせる、が、それにともないかなりの激痛が走る
「イッ!!」
「そう、動くなよ、深くは無いとはいえぶった切られてんだから」
目が慣れてくると、そいつの顔を見れるようになる
クリーム色の美しい毛布のような長髪に、先程の木漏れ日のような緑色の瞳の猫女、自分を負かした、ラテュロスとか言う奴
思えば、コイツとの出会いは最悪だった
眠っていたのに起こされて、いきなり怒られて、訳もわからず知ってる言葉と態度で接したら何故か戦うことになって
いきなり不意打ちしてきて
そして、負けた
それはもう文句のつけようもなく
(・・・・・・・悔しいなぁ)
テルスはその自分が抱いた感情に驚く
後悔は、自分に無いものだと思っていたから
「・・・・・・私、どうなるの?」
やっぱり、また売られるのだろうか?
当然だ、自分はコイツを傷つけた
それとも殺される?
そうかもしれない、いずれにしても、自分はひどいことをしたのだから
だから、どんな罵倒だって受け入れ・・・・・・
「あー それ今じゃなきゃ駄目?」
「・・・・・・・・・はい?」
と、つい間抜けな声が出てしまい、咄嗟に口をおさえるが、それを見て、ラテュロスは、指を口に当てクスクスと笑う
その仕草に赤くなると、ラテュロスもそれに釣られるように笑みを深める
「取り敢えずほら、腹減ったからさ、飯作ったんだ、お前も食えよ、腹減ってんだろ?」
そういって、ラテュロスは串をさした魚を差し出してくる
油が焼けた香ばしい香りに、よだれを禁じ得ないほどの逸品
だが、なぜだろうか? それ以上に
(何でこいつが、この人が、懐かしくて、こんなにも愛おしいのだろう)
「その後でいいからさ、お前のこと教えろよ、さっきの敵は今日の友、何てね」
そうやって歯を見せて笑うその顔が、テルスの白黒の人生を色付けていったような気がした
ちなみにテルスがユニークスキルに関して知っていたのはホルスに教えられていたからです
ホルスは他にも初期の兎女とかの幼い子供に自衛の手段としていろいろ教えていました




