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プロローグ(2)

 中学校に入学してからは変わった。周辺地域の沢山の小学校から集まるのだから、俺の過去を知っている人の方が少ない。


 だから怪物になってしまった俺は人の皮を被る事にした。たまに手袋を外して吐き気を我慢しながら人の心を読み、周りの人達に嫌われないよう、疎ましく思われないように皮を調整しながら、人らしく振舞った。

 それでも噂を聞いて面白半分でやってくる者はいた。


「白石って心が読めるって噂聞いたけどどうなの?」


 そんな時は決まってこういうのだ。


「おいやめろって、黒歴史なんだから思い出させるなよ」


 かつての自分を鼻で笑い、かつて信じていた正義を冒涜した。捨て去った過去だ、どうせなら再利用しよう、と何処か痛む胸から目を逸らして面白おかしく人の皮に色を着けた。

 それが幸を奏したのか、次第に掘り返す人は居なくなった。


 怪物は人の皮を巧みに被り、人間社会に上手く溶け込んだ。安っぽい友情、安っぽい青春を演じ、内心では唾を吐きながら中学生生活を過ごした。


 高校受験が視野に入る頃になると、俺の被った人の皮も違和感が無くなるほどに馴染んだ。もう誰も俺が怪物だとは思わないだろう。

 俺は家庭内では居ないものとして扱われていた。話しかけられる事もなく、俺から話しかける事もない。不仲になってしまった夫婦関係も改善されることは無く、会話そのものが存在しない冷えきった家庭環境だった。

 

 そんな生活の中進路を決める頃になると、珍しく両親が話しかけてきた。

 

「この高校にしなさい」


 俺は進路相談をするなんて何だか普通の家族らしいではないかと思い、心の奥底に沈んでいた何かをふわりとくすぐったような感じがした。

 ――両親が持ってきた、県外の有名高校のパンフレットを見るまでは。


 世間体さえなければ、もっと早く捨てたかった怪物を高校受験を利用して県外に捨てることにした、言葉にすればただそれだけの事だった。


 それからは本当の顔さえ忘れて人のフリをしながら受験勉強を頑張った。それなりに偏差値の高い学校だが普通にやれば受かるだろう。だがもし落ちてしまった場合に他の学校へ通えるかと言うと、両親が許さないだろうなと思った。それ故に、落ちる訳にはいかず、ひたすら勉学に励んだ。


 その結果、無事に合格した俺は中学校の卒業式の日を迎えていた。式が終わった後、人らしくクラスメイトと写真を撮ったりお互い時間があったら絶対会おうな、と心にもない事を言って回った。時間はあったとしても、わざわざクラスメイトに会いに行く時間などないのだ。

 

 力なんか使わなくてもわかる、泣きながら抱き合う女子、笑いながら肩を組む男子、彼ら彼女らも同じように卒業しても会おうなどと、うそぶいている。

 結局ここに居る奴らは場の雰囲気に呑まれ、自分たちが物語の主人公になったかのように勘違いして言っているのだ。


 ヒーローになったと勘違いしていた幼き頃の自分と同じだ。自分の勘違いを押し付けて、皆で同じ嘘を吐く気持ち悪い生き物。なんだお前らだって十分怪物じゃないか。


 俺はそう薄ら笑って、三年間通った中学を後にした。

 家に帰ってからは忙しかった。勝手に纏められていた荷物を持ってその日のうちに県外にある一人暮らし用に宛てがわれたマンションに引っ越さなければならない。


 四月から通う高校近くにある2LDKのマンション、それが俺に与えられた新しい檻だった。


 一人で暮らすには十分すぎる広さで、誰もいないこの檻の中ではもう鎖は必要ない。着けていた自宅様の手袋をゴミ箱に放り投げた。素晴らしき哉一人暮らし、何も気にせず自由に家の中で過ごせるなんていつの日以来か。恐らくは五歳が最後だろう。俺は久しぶりに羽を伸ばすのだった。どこか膿んでしまった心からは目を逸らして。


 高校入学後は中学の頃と違い、人付き合いも正直に嫌厭する様になった。悪目立ちしない程度に他者と関わり、人の皮を調整しながら擬態したのだ。もう本当の顔は忘れてしまった。自分が何をしたかったのか、何を目指していたのかも俺はもう覚えていない。


 学校に勉強、そしてバイトと慣れない生活に四苦八苦して、ようやく慣れた頃には高校を入学して一年の月日が流れていた。

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