タクヤンの……霊圧が……消えた……ってマジですか?
結局数時間程で依頼の薬草集めは終わった。
何とか夜になる前に街に帰ってこれた。
でも自宅に帰るのは明日にするしかないな。
夜に飛行魔法で高速移動するのは非常に危険だ。
さて、ゴチンコのギルドで薬草のチェックをしてもらおう。
そう思っていた時であった。
夕暮れの街中になぜか涙声が聞こえてくる。
「うっ、うっ、うっ、うっ……タクヤン、すまん。俺のせいで」
なんだ、ゴチンコのおっさん。
石の前に花添えてるし。なんかの儀式か?
「あのー何してるんですか?」
ゴチンコのおっさんは俺に突然話しかけられ、「うわぁー」と叫び飛び退いた。
「た、タクヤン!お前!無事だったのか!?」
「いや、薬草取るだけですし」
ゴチンコのおっさん、目を見開いて驚いてるよ。
なんでよ?薬草よ?薬草取りに行っただけよ?
「タクヤンさん!?」
なんかもう1人驚いた顔をしている人がいる。
「あ、ローラさん」
ローラさんは俺を目にとめると全力で走り寄り、勢いそのまま俺をギュッと抱きしめた。
「あぁ、タクヤンさん!無事でよかった!」
戦場から帰った夫の出迎えかよ!
どんだけ過保護なの、このギルド!
何度も言うけど、薬草取ってただけだよ!
「あのー照れるので離してもらって。それとこれ、依頼の薬草です」
俺がそう言うと、ローラさんは顔を真っ赤にして俺から離れた。
「わ、私ったら、すいません。じゃ、じゃあギルドに入ってください」
ギルドに入るとなんか知らないおじさんが受付に座っている。
2人以外に従業員いたのか。
「ルードさん。受付ありがとうございました」
ルードと言われた男、鎧着てる。
受付なのに。
「いや、いいんだよ。今ゴチンコさんに酒代もらったし。ゴブリン討伐のお金もあるし、今日は久しぶりに豪勢にできるよ。それじゃあこれで」
そう言って受付のルードさんは帰って行った。
野草チェックの手続きはすぐに行われた。
ローラさんが素早く野草を確認する。
手際が良い。
ローラさんも野草鑑定士の資格持ってるのかな?
優秀な受付だ。
このギルド何でこんなにさびれてるんだろ。
「はい。確かに確認できました」
ローラさんから銀貨一枚を手渡される。
「あー、登録の手数料引かれて無いですよ」
俺がそう言うと、ゴチンコのおっさんが異様にご機嫌で言ってきた。
「いいって事よ。登録料は俺からルーキーへの依頼初達成のご褒美だ!」
何だろう、めちゃくちゃサービスされてる気がする。
まぁ悪い気はしないけど。
その後ローラさんにはもう一度「無事で良かった」と目に涙を溜めながら言われたし、ゴチンコのおっさんもなんか鼻がツーンとしてる感じだった。
このギルドは新米冒険者の初依頼を、初めてのお使いかなんかと勘違いしているのかな?
まぁそれはともかく、思いがけず銀貨1枚が手に入ったぞ!
どうせ今日は家には帰れないから安い宿をとって、飯と酒を豪勢に!
それともいっその事、この銀貨で初風俗とか行ってみるか?ロンギヌスの槍の効果をもっと試したいし。
いやでも銀貨1枚だと格安風俗になるな。ちょい不安。
そんな事を考えていると、ゴチンコのおっさんが、何か閃いたという顔つきで俺の方を見た。
「それでな、ルーキー、お前に一つ頼みがあるんだが……」
「えっ!?」
なんかゴチンコのおっさんの頼みって悪い予感しかしないんだけど。
「ちょっと話せるか?」
そう言っておっさんは奥の部屋を指差す。
2人っきりで話?
結構真剣な話なのか?
ローラさんは頭にはてな浮かべてるし、話の内容は知らなそうだ。
……まぁ別に今日は家に帰れないし時間はあるから、話くらい聞いておくか。
俺はゴチンコのおっさんに案内されるまま、会議室と思われる奥の小部屋に入った。
おっさんはドアを閉めるとすぐに話を始める。
「単刀直入に言う。明日開催されるギルド対抗の御前試合の予選に出場してほしい!」
「えええ!!」
ギルド対抗の御前試合。4年に1度行われる大イベント。
全国各地のギルドから代表が集まり、冒険者の中で誰が1番強いのかを決める。
そういえば予選の時期だったか。
武道館で行われる決勝トーナメントは国王も観にくる。
「いや、無理ですよ!」
大会にはもちろん鷹の爪ギルドからも参加があるし、正体がバレる可能性もある。
「頼むよ!大会に出ればギルドの宣伝になるんだ!あ、そうだ!出場してくれたら、ローラの胸揉ませてやるから!」
「…………」
「……尻の方がいいか?尻でもいいぞ!」
「…………でも、もうエントリー終わってるからいきなりは出れないでしょ」
「いや、実はな、うちのギルドの新人がルーキー枠で出場する予定でエントリーしていたんだが、バックれやがったんだ。お前はそいつとして大会に出てくれればいいから!悪いが顔は隠してくれ!」
ふむ。
別人として、顔を隠して出場ならバレる心配はなさそうだ。
全国の猛者が集まるわけだ。
どうせすぐに負けるだろうし、出場するくらいいいか。
「分かりました。出ます」
「お!そうかそうか!悪いな。もしもルーキー大会で優勝したら、ローラを一晩中好きにしていいからな!ありがとありがと」
……魅力的な誘いだが、ローラさんの意思を無視している気がする。
「ところで、俺は何て名前で大会に出ればいいんですか?」
「おお、そうだそうだ。あのバックれ新人がエントリーした名前は……『混沌を主る漆黒の翼†ジェイド』、だな」
「え?」
「タクヤン!お前は今から、『混沌を主る漆黒の翼†ジェイド』だ!!」
第一章 「終」
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