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舎弟ができたってマジですか?

ローラ視点


マリサさんがギルドに戻ってきたかと思うと、続けて見知らぬ金髪の少年がギルドに入ってきた。

少年は黒いローブを着ている。

金髪、少年、黒いローブ?ってまさか!?


「ここはさっき話した私のお兄様が所属するギルドだから、お行儀良くして」


マリサさんはボソリとそう少年に言う。


「わかりましたマリサ姐さん!何か俺にできる事はありますかね?」


「とりあえずギルド長とローラさんを呼んでくるから、あなたが知ってること、全部話して」


こうして、私とお父さんは呼び出され、会議室で話をする事になった。


「つまり、マリサさんの人柄に、惹かれたヒル君は、そのブレーメンって言う組織を抜けてついて来ちゃった。で合ってる?」


「そういうことっす!俺マリサ姐さんの舎弟なんで、マリサ姐さんの世話になってるギルドの人って事は、俺にとっても世話になってるのと同じなんで、雑用でも何でも言いつけて下さい!」


「子供がそんな事気にする必要ないのよ」


思わず私がそう口にしてしまうと、ヒル君は眉を下げて言った。


「お言葉ですが、今は辞めちゃったブレーメンなんですが、俺はそこで5歳の頃から仕事してきました。そこら辺の甘っちょろい大人なんかと比べて、自分はよっぽど大人だって思ってますから」


そう胸をはって言うヒル君の言葉を聞いて、私は悲しくなった。


5歳の時からそんな仕事をしていたなんて……。

色々と考え方が変わってしまうのも無理はない。


「とりあえず詳しい話が聞きたいから、食事でもしながら話しましょう」


私はちょうど用意していた食事を皆んなに振る舞った。


ヒル君は自分の前に置かれた食事を見て。


「えっ?これ俺も食べていいんすか?」


と言った。


「もちろん。好きなだけ食べて」


ヒルくんは、パーッと顔明るくし、食事にがっついた。


「うま!うまいぜ!こんなの食べた事ねぇ!!」


普通の家庭料理なんだけど、余りにヒル君が喜ぶので恐縮してしまう。


お父さんはやはりタクトさんの事が気になるようで、早速ヒル君に質問する。


「つまり、アトム教会の本部がタクトを狙ってるってことだよな?」


「そっすね。そうなります」


「でもちょっと待ってくれ。どうしてタクトが教会に狙われなくちゃならない?だってアトム神はスキルの神様だぞ?我々にスキルを与えてくださっているのはアトム様で、タクトは神からロンギヌスの槍を授かった勇者なんだ。教会から狙われる理由なんてないはずだが」


「確かにそうなんすよね。俺も命令を受けた時はジェイド、いや、タクトさんが異端だって聞いて、はいそうですかって感じで受けました。でもマリサ姐さんが嘘なんかつくはずないんで、教会が嘘言ってますよね。今教会を抜けて冷静に考えてみると、最近の教会は、確かになんかちょっとおかしい気がするんですよね」


それ以上の情報は無く、私はもちろん、お父さんもマリサさんも考え込んでしまった。


「あれ?ローラさん、なんでローラさんだけご飯を食べないんですか?」


そう、ヒル君が声を上げる。


「あー、私はさっき食べたから大丈……」


といったところで、私のお腹がグーっとなんてしまう。

私は恥ずかしくて、みるみる顔が赤くなっていくのを感じた。


本当のことを言うと、マリサさんとヒル君が来たので、自分の分のご飯がなくなってしまったのだ。


ヒル君は私のお腹が鳴るのを見て、食事をする手を止めてしまった。


「そういうことですか……これローラさんの飯だったんですね」


そう言って、心底申し訳なさそうな顔をするヒル君。


「だ、大丈夫だって!まだまだ材料があるから後で私自分で作って食べるから!」


「本当に、すいませんでした!」


何も悪くないのに頭を下げるヒル君を見て、私は今日まで信じていた教会に、沸々と怒りが湧き上がってきた。


そんなタイミングで、マリサさんが言う。


「私はお兄様のところに行って、これまでに判明した事実を伝えてきます」


「あ、じゃあ俺も行きます!」


「あなたはお兄様を殺そうとしたんでしょ?あなたがいるとややこしくなるだけ。おとなしく留守番していて」


マリサさんは出かける前に、「ちょっと」と言って私を呼び出した。


「あんな感じだからもう悪さをしないと思うけど、一応リナにアイツが暴れたら止めるよう言っておくから」


そう言って、マリサさんは、タクトさんのところに行ってしまった。


「マリサ姐さんが帰ってくるまで暇ですね。なんか俺手伝うことありますか?」


大丈夫だからゆっくりしてていいから、と言うと、ヒル君は口をへの字に曲げた。


「じゃ、じゃあギルドの掃除お願いしようかしらね」


私がそう言うとヒル君は、


「掃除は俺、得意なんです!」


そう言ってヒル君は風魔法で小さな旋風を発生させる。


それは正確にギルドの端から端までをゆっくりと動き、塵を巻き込んでいく。

あっという間にギルドのすべてのゴミが集まってしまった。


「すごい!」


「風魔法だけは誰にも負けない自信があるんですよ」


「ほんとだよ!すごいよ!ヒル君ありがとう」


お礼を言われるとヒル君はキョトンとした表情をしたが、エヘヘと照れ臭そうに笑ってで見せ、


「俺近くの下水の掃除もしてきますから!」


と言って駆け出した。


「そんなことまで大丈夫だから」


「任せてくださいよ!下水掃除だって、風魔法で一瞬ですから!」


ヒル君は本当にいい子だ。


少し世間を知らないところがあって、変な勘違いをする事もあったが、いろんな仕事を積極的に手伝ってくれて、半日かかる業務がたった2時間で終わってしまった。


私個人の仕事も、ヒル君が雑用をやってくれたおかげで、粗方終わっていた。


「お父さん仕事大体終わったから買い物に行ってきてもいい?」


「おう、いいぞ」


「買い物にヒル君も連れて行きたいんだけど。今日頑張ってくれたから何か買ってあげたいの」


心配性のお父さんのことだから、二人っきりはまずいと言うかと思ったのだが、お父さんもヒル君の熱心な仕事ぶりや生い立ちなどを聞いていたため。


「好きなもの、なんでも買ってやれ」


と快諾してくれた。


「じゃぁ私ヒル君を呼んでくるから」


ヒル君はギルドの敷地で草取りをしていた。


「ヒル君。一緒にお買い物に行ってくれない?」


「もちろんいきます!」


こうして私は、ヒル君と買い物に出かけることになった。


買い物は食料や雑貨などだっだが、ヒル君が瓶詰めになっている七色の金平糖を物珍しげに見ていたので、砂糖菓子はなかなか高級品で家ではめったに買わないのだが、思い切って購入し、


「今日頑張ってくれたお礼」


と言ってヒル君に渡した。

すると、


「こんなの受け取れないっすよ!」


と手をブンブン振り受け取りを拒否した。


「いいから受け取って」


と半ば強引に押し付けるように金平糖を渡すと、ヒル君はにっこり笑って、


「俺これ一生大事にして家に飾っときます!」


と言った。


「飾っていたら食べられないでしょ」


と私が返すと、


「そっか!」


とまの抜けた返事をしたので、私は可笑しくて笑ってしまった。

そんな私を見て、ヒル君もケラケラと笑った。


そんなこんなで買い物を終えて帰ろうとしたその時であった。

ヒル君が、


「まずいっすね……つけられてます」


そう物騒な事を言い出した。


「つけられてる?誰に?」


「分かりません。でも多分1人です。仕掛けてくる気は無いかもしれません。逃げますか?」


とりあえずギルドまでたどりつければ何とかなるのだが、ギルドに着く前に襲われるのはまずい。


「ちょっと走ろうか」


「はい!」


私たちはギルドまで足を早める。


人気のない道を通ってしまうとそこで襲われてしまうかもしれないので、遠回りでもなるべく賑やかな通りを、と思って進んだのだが、不思議な事に、一人、また一人と人がいなくなっていく。


いつの間にか、私達以外誰もいなくなってしまった。


「な、なんで?」


ヒルくんがガタガタと震え出した。


「こ、こんな事できるの、あいつしかいません……」


「あいつって?」


そう私が言うとほぼ同時に、低い良く通る声が通りに響いた。


「ヒールー。お前強くなったな、俺の尾行を察知するなんて、100点だ」


そう言ってヒル君と同じ黒いマントを着たスラッとした長い茶髪の中年男性が、どこからともなく姿を現した。


マントのせいで体つきは見えないが、身長は190くらいありそうだ。


ヒル君はそいつを見て足をガタガタ振るわせ、歯をガチガチと鳴らしている。


「あの人誰なの、ヒル君……」


「きょ、教会のナンバーワンの実力者、ラーチさんです……」


「そうだよぉ、ラーチだよ。ヒル、俺は悲しいよ。戦いのイロハを1から10まで叩き込んでやったのは俺なのによ。まさか裏切るなんて……マイナス1000点だ」


ヒル君のこの怯え方、尋常じゃない……


「ただまだチャンスがある。ヒル、お前そこの女殺せ」


「えっ?」


なんて事をヒルくんにさせようとしているのだ、この人は!


「そこの女殺してその首持って帰れば、俺から大司教に話通してやるよ、裏切りじゃなくて潜入だったって」


ヒル君は青ざめた顔で、しかしはっきりと言い放った。


「できません。お、俺にこの人は殺せません……」


震えながらもそう言うヒル君を私はぎゅっと抱きしめた。

男は表情も変えずに続けて話し出す。


「んー……そうかそうか……じゃあ皆殺ししかないか……嫌だなぁ。俺殺しって嫌いなのよ、汚れちゃうから」


そう言ってヘラヘラする男。


こんなやつに……ヒル君は殺させない!


「ヒル君、安心して。実は私めっちゃ強いんだからね」


私は震えているのを悟られない様に、なるべく気丈に、少しでも安心させようと無理やり笑顔を作って言った。


「で、でも」


「……ごめんね」


私はヒル君の胸に隠し持っていた魔法石を押し当てた。

その瞬間ヒル君は魔法石から発せられた空間転移魔法に巻き込まれ、どこかに飛ばされてしまった。


「な、なんだと!?」


男は驚いている。


前に襲われた時に、何かあった時にと思い、古道具屋に一つだけあった空間転移魔法が封じ込められている魔法石を買って持っておいたのだ。


「あーやられたよ、意外と度胸あるね、君。気に入ったよ、世界で一番強い、僕のフィアンセにならないか?」


「お生憎ですけど、世界一強い彼氏なら……間に合ってますから!」

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