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7.別れ

 ハイガーデンに着く頃には、すでに日が暮れ始めていた。途中の倒木の所為で回り道をする羽目になったからだ。あれほど楽しみにしていた美しい庭も、暗くなり始めた空の下ではほとんど見ることが出来ない。


 古い合鍵を使って屋敷に入ると、一切人の気配のない空間はがらんとしていて、どこからともなく冷たい風が吹き込んでくるようだった。底冷えのするような寒さだ。


 ーー何もかもなんて、うまくいかないものね。


 薄暗い部屋の中、クロエは荷物も解かずに大きなロッキングチェアに体を預けると毛布にくるまり目を閉じた。不思議と涙は出なかった。ただ、少しの解放感と寂しさが一気に押し寄せて来て体が動かせない。


 八年か……。


 クロエは静かにため息を吐いた。別れとはもっと、辛いものかと思っていた。思っていたより頭の中は冷静だった。


 両親や友人になんと言おう? 誰もが私たちは結婚するものだと思っていた、私だってそうだもの。でもこれで良かったのだ、きっと私は結婚に向いていない。


「……そもそも恋愛にも」


 クロエは小さく呟いた。そして毛布を頭まですっぽりと被る。世界中の全てから隠れてしまいたかった。



 目を閉じていたのは、ほんの二、三分の間だけだと思っていた。部屋がすっかり暗くなっていた。少しの月明かりを頼りに、持ってきた荷物を手繰り寄せる。中から蝋燭を一本取り出した。どうやら眠り込んでしまっていたらしい。


「……うう、寒い」


 自分の肩を抱き寄せるようにして、暖炉に火を付けようと近付いた。だが、そこには薪が一本もない。


「やだ……嘘でしょう?」


 クロエは血の気が引いて行くのが分かった。こんな寒い夜に火を起こせないなんて……!

 そういえば、母が『薪がなければ死んでしまうわよ』と言っていた。いつも備えておきなさい、と。


 確か外の薪小屋にはまだたくさんあったはず。


 外はとっぷりと暗くなっている。風が強く吹き付ける音が、なんだか恐ろしい怪物の唸りの声のようにも聞こえてくる。


「……仕方ないわね」


 このままでは凍えてしまう。クロエは勇気を出して薪を取りに行くことにした。毛皮のコートをしっかり着込むと、足早に薪小屋に向かう。幸いにも、月明かりがクロエの足元を照らしてくれた。


「……あったわ!」


 少し湿気ってはいるものの、ペネロペが蓄えていた薪が大量に積まれている。ふわっと木の香りを感じると、安堵感に泣いてしまいそうだった。


 クロエはほっと胸を撫で下ろすと、急いで薪に手を伸ばした。その瞬間だった。


「そこで何をしている?」


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