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15.憂鬱な夜

 ウェス・ジェームズは憂鬱だった。一番の理由は、ハイガーデンの夜会に参加すること。これは親交の深い家しか招待されないから、いつもの独り身同盟の仲間もいない。気難しい連中ばかりで口を開けば跡取りのこと。何か聞かれても面倒だから今までクロエを連れてきたことはなかった。


「ねぇ、どれがハイガーデンの伯爵? 」


 そして、()()の存在だ。どこから聞きつけたのか、ベスは夜会への参加に並々ならぬ意欲を示していた。それどころか、自分を"婚約者"として紹介してほしいというのだ。やんわりとそれは無理だと伝えたのだが、理解しているかどうかは怪しい。また暴走しないように、しっかりと見張っておかなければ、そう考えるだけで胃が痛い。


「……まだ来ていないようだよ」


 その()()()()()()()()()に会うのも憂鬱なのだ。常々ハイガーデンのことを田舎だと揶揄っているが、実はコンプレックスからだったりする。ハイガーデンの伯爵はウェスと同い年だ。人形めいた整った顔立ちに、洗練された上品な佇まい。彼が一度姿を現せば、その場にいた誰もが目を奪われる。それでいて、誰に対しても気さくに声を掛け、民からも絶大な支持を受けている。まさしく、非の打ち所がない。挨拶程度しか顔を合わせたことはないが、ウェスはそんな伯爵が嫌いだった。


「ねえ、ウェスは話したことあるんでしょう? なんて名前だっけ……」


「忘れた」


 ーー名前なんて知るものか。


 ベスはすっかり噂の伯爵に夢中だ。忙しなく視線を彷徨わせて、彼の姿を一目でも見ようと必死になっている。大抵の女性はみんなそうだろう。隣町まで噂されている美男子なのだから。

 クロエはそんなことに興味がないようだったが、こうなることが嫌で連れて来られなかったともいえる。


「どうしてそんな機嫌が悪いの?」


 ベスはウェスに非難の目を向けた。いつもなら優しくできるのに、今のウェスにはそんな余裕などなかった。


 ああ、面倒だ。


 そればかり頭に巡っていた。クロエなら、こんなことで喚いたりしない。彼女なら、どうしただろう?


 きっと、ウェスに小さく会釈をする紳士ににっこりと笑いかけているだろう。中央にある料理にはしゃいで見せる。それできっと、二人分のレモネードを持ってきてくれる。


「……ベス、歩き辛いよ」


 目の前の老紳士が会釈をしても、ベスの目には映っていないようだった。ウェスと腕をしっかりと絡ませたま、ツーンと澄ましている。巷では"媚を売らない強い女性"、というものが持て囃されているようだが、ウェスには理解できなかった。


 ここは暑すぎる。


 隣を歩く、ベスの横顔はひんやりと冷たい。


 そういえば、伯爵にはある噂があった。少し前に婚約破棄したらしいというものだ。いつも彼の隣にはツーンと澄ました美しい女がにこりともせずに立っていた。

 それを聞いた時、いい気味だと思った。でも、今は違う。


「少し、飲み物をとってくるよ」




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