映画館のチケット売り場の前で行われた婚約破棄……じゃなくてただの迷惑な話
これは『なろうラジオ大賞3』応募用の作品です。
ジャンルは『コメディー』に、しています。
それは、映画館のチケット売り場の前で飛び交いました。
「……と言うわけで、バタケー王女! 貴女との婚約を、ここで破棄しようじゃないか!!」
「なんという名案でしょう!」
事の起こりは、約一時間前に遡ります。
「納得がいかん!!」
叫び声を上げ、チケット売り場の女性店員に噛み付くのは、この国の第二王子『ハチャ=メッチャ』王子でした。
「いえ……ですから、先程も申し上げました通り、このラブラブ半額割は、お付き合い中の男じ……恋人たちが対象でして、王子様のような既婚者は該当しないんですよ」
女性店員は、自身の両の手の平を、理由を説明しながらハチャ王子の方へ向け、懸命に宥めます。
ですが、得心いかないハチャ王子は、後ろに控えていた自分の妻『オハナ=バタケー』王女を自分の胸に抱き、こう返すのでした。
「我々の心は、常に恋人同士だ!!」
「ですわ!!」
「関係ねぇよ」
女性店員は思わず顔をしかめ、悪態をついてしまいますが、すぐに営業スマイルを取り戻します。
「とにかくですね、駄目なものは駄目なんですよ」
「なぜ駄目なんだ!?」
「ゴールしてるからだよ」
ハチャ王子のあまりの諦めの悪さに、女性店員の右こめかみの辺りには青筋が立っていました。
「そうか! 分った! 全て分ったぞ!!」
「あ、これ、分かってないやつだ」
「私が、今ここでバタケー王女の婚約を破棄すれば良いのだ!!」
「やっぱり……」
呆れたように深いため息をつく女性店員。ですが、ハチャ王子は特に気にする事なく、バタケー王女の方を振り向き……冒頭の言葉を発するのでした。
「あのですねぇ……今更、婚約破棄なんかできる訳ないでしょ」
「な、なぜだ!?」
「なぜですの!?」
「いいですか? 婚約破棄というのは、婚約中の二人に適用されるものであって、貴方がたの様に約束を守った者には使われないんですってば」
「こ、ここでも夫婦の壁かあぁ!!」
「一体どうすれば良いんですのおぉ!?」
「本当に馬鹿なんだな、この二人……」
女性店員は、軽蔑する様な目で二人を見つめます。
「ううむ……心も駄目……婚約破棄も駄目……一体どうすれば……」
是が非でもラブラブ半額割を受けたいハチャ王子。その体は、自然とカウンターの前を右へ左へと行き来し……そして、こう口を開きました。
「最早……これしか手はないか……」
「まだ、何かあるんですか?」
「妻夫割30でお願いします」
「妻夫割30でお願いします」
「最初から、それ選べよ!!」
……おしまい。