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7. 馬車

父から出されていた熱が下がってから3日という条件を満たすのにギリギリのラインだったが、何とか許可をもらい朝の準備を整えていた。


「ティアナ様、本当に町に行かれるのですか?まだ御身体が休息を求めているのでは…。」


「ふふ、もう大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。」


「い、いいえ。私はただ、ティアナ様が体調を崩されたらと…。」


「私もそれが心配なんだ。やはり次の機会に…。」


「お父様…行ってはいけませんか?」


「…っも、もちろん無理しないなら問題ないさ。」


「良かった…。では、行ってまいります。」


「気を付けるんだよ。」


当日に断るなんて失礼な真似はしたくないと少し悲しげな表情を浮かべれば、効果抜群だったようだ。

笑顔で送り出されたことに安堵しながら、準備が整ったという馬車のあるエントランスへと移動する。

後ろから聞こえる足音。

何となく嫌な予感がして聞こえないふりを決め込んでみたが、いきなり感じた浮遊感に驚いた。


「ティアナ、僕を置いて行くなんて感心しないな。」


「お兄様。」


「うん、今日もティアナはかわいいね。」


「ありがとうございます。本当に来られるのですか…?」


「どうしたの?僕が一緒だと不服?」


「い、いいえ!ただ、お兄様が行かれるのなら是非アーシャさんとお二人で…。」


「アーシャ?誰だろう…。僕はティアナのクレープを食べる姿が見たいだけだよ。君が行かないなら僕も城で過ごすさ。」


一瞬考えるような表情を見せたが、記憶の片隅にもないようですぐに切り替えてそんな事を言い始める。

これ、本当に小説の世界に転生したんだよね…?

ティアナを含め、彼らの成長段階からして愛瀬が始まってもいい頃のはずなのに。


「ティアナ様!」


「アーシャさん?」


「どうしても待ちきれず、お迎えに上がってしまいました!ご迷惑でしたか…?」


「いいえ!ありがとうございます。私も楽しみにしていたのでとても嬉しいですよ。あの、お兄様。そろそろ降ろして下さいませんか…?いつまでもこのような姿では恥ずかしいですし。」


「気にすることはないよ。まだ病み上がりで無理は禁物だからね。このまま馬車に乗ろうか。」


当然のようにそう言われ、コーチに乗り込んでいく。

広い作りとはいえ、器用に乗り込んだものだと関心しているとアーシャが席についたことを確認して馬車が動き始めた。

心地よい揺れと少し開けられた窓から入ってくる風に眠気を感じ、あくびを噛み殺していると前に座っているアーシャの視線を感じる。


「ティアナ様、お茶会の後に体調を崩されていたとか…。もう大丈夫なのですか?」


「ええ、すっかり良くなって今はとても元気です。アーシャさんはお変わりありませんか?」


「良かった…。もし無理されているならと思って心配しておりました。私は田舎育ちなので体力には自身があります!」


「へえ。君、田舎育ちなんだね。」


「すみません。ちゃんとしたご挨拶もまだでしたよね…?アーシャ・ルーゼンベルクと申します。」


「そう。君がティアナの言っていたアーシャか。僕はノア・アルト・オルカトラ。改めてよろしくね。」


「よろしくお願いいたします。」


「ティアナは君のことが気に入っているようだから、仲良くしてくれると嬉しいな。」


笑顔で話す彼らに原作とは違えど、親交を深めるにはいいきっかけになったのではないかと内心ニヤニヤしながら二人を見守っていると隣から手が伸びてきた。


「君にも兄弟はいるのかな。僕にとって妹のティアナは何にも代えがたい存在なんだ。亡き母と同じで身体が弱いからね。とても心配だよ…。」


「私にも身体の弱い弟がおりますので、お気持ちはよくわかります。」


「弟さんがいらっしゃるのですか?」


「はい。名をクリストフと言います。」


その言葉に首を傾げる。

ヒロインに病弱な弟がいるなんて初耳だ。

漫画内でノアが彼女の屋敷を訪ねるシーンもあったが、両親以外の描写はされていなかったはず。

しかし、アーシャ本人がそういうのであれば弟がいるのは確かで、私の記憶が飛んでいるのだろうかと小さくため息を溢した。


「歳はいくつなの?」


「今年で13になります。」


「ティアナと同じ年頃だね。身体が弱いと何かと大変だろう。僕で良ければ何時でも相談にのるよ。」


「ありがとうございます!」


話の内容は喜ばしいものではないが、二人の良い雰囲気に席を外したい衝動に駆られながらあまり熱い視線を送るのも邪魔するかと窓の外へと移すのだった。

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