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6. 風邪

ノアが現れてからのお茶会は穏やかなまま終わりを迎え、除け者にされていたヒロインであるアーシャとは庶民的な話で盛り上がってしまい彼女以外の令嬢が帰った後も薔薇園を散歩しながら会話を楽しんでいた。


「ティアナ様は隣町にあるクレープ屋さんには行ったことありますか?季節のフルーツと生クリームを巻いたもので、片手で食べられると人気なんです。」


嬉しそうに話す彼女だが、私にとってはクレープと言えば片手で食べられるのが当たり前の感覚だ。

しかし、今の私は王女ティアナ。

食べられるとしてもお皿に盛られたクレープシュゼットくらいのもので、炎のパフォーマンスであるフランベに驚いたのはつい先日のこと。

名前くらいは知っていたが、実際に見るのは初めての経験だった。


「あの…。」


「?」


「ティアナ様さえよろしければ、今度ご一緒しませんか…?」


「もちろんです。」


不安そうな顔で問いかけるアーシャにそう答えれば満面の笑みが見える。

早速来週にでも行けるよう準備を進めると約束してから迎えに来た馬車に乗って帰っていく彼女を見送れば、少し肌寒くなった気温に喉に違和感を感じながらも大事になると面倒だと気にしないことにした。

いつも通りノーティスとノアの3人で夕食を済ませ、日課にしている読書をしてからベッドで就寝したはずだったが、寝苦しさで何度も目が覚めてしまったため寝た気がしない。

鳥のさえずりが聞こえ、そろそろ起きようかと瞼を開いたが久々に感じた身体の不調にため息が出る。


「ティアナ、良かった。目を覚ましたようだな。」


「…お父様?」


「あぁ、夜中に酷い熱があると聞かされた時には驚いた。茶会は少し無理をさせてしまったか。」


「そんなことありませんよ。とても楽しい時間が過ごせました。」


「そうか。だが、まだティアナの身体には早かったようだな。医者はしばらく安静にするようにと言っていた。」


「しばらくとはいつまででしょう?次の週に隣町にお出かけする約束をしているのでそれまでには…。」


「隣町に出掛ける?誰が許可を出した。」


「…ダメですか?」


出掛ける件を口にすると急に態度が冷たくなったノーティスに驚いた。

私の記憶では可愛がられていたとはいえ、城下町は勿論。

隣町に自ら出向いて煌びやかなドレスや宝石を買い漁る描写があったはず。

城に呼び寄せることもあるが、気分転換という名目で彼女が馬車で移動する姿を何度か見た。

それこそノアとアーシャが出掛ける姿を見かけるのも外出しているときだった。

出掛ける理由は漫画に沿ってないとはいえ、当然許しを得られると思っていただけに困る。

発熱してしまったのがいけなかったのか。

でも、彼女の病弱な身体は今に始まったことじゃない。

あまり描かれていなかったが、無理をして寝込むことだって多かったはずだ。

そんなことを考えながら彼の出方を伺っていると気付いたのか。

口元が緩むのが見えた。


「そんな不安そうな顔をしないでくれ、ティアナ。私としても行かせてあげたいところだが、熱がある状態では無理だろう。」


「熱が下がれば行ってもいいのですね!」


「そうだな。…熱が下がってから3日。それ以降なら許可するが、経っていなければ諦める。それでいいな?」


「はい。」


「いい子だ。さあ、目を閉じてもう少し眠ろうか。」


何度も優しく撫でられるうちに意識が微睡んでいくとそのまま深い眠りに落ちていく。

どれくらいの時間が経ったのだろうか。

ひんやりとした額が心地よく、ゆっくり目を覚ますと厚手のカーテンを閉め切った部屋はダウンライトのみがつけられており、薄暗い。

ゆっくりと身体を起こしてみれば、少し重いとはいえ大分楽になっていた。

サイドテーブルに用意されていた水で喉を潤すと、チクチクとした痛みに風邪を引いてしまったのだと理解する。

転生前の身体であれば食事と睡眠で翌日には治っていたが、病弱のティアナであることを失念していた。

そんなことを考えていると控えめなノック音と共に扉が開かれる。

眠っていると思っていたのか。

視線が合うとその瞳が見開かれ、駆け寄るようにベッドへと向かってきた。


「ティアナ、起きたんだね。まだ横になっていないとダメだよ。」


「お兄様、風邪がうつってしまいますよ?」


「それで治ってくれるなら大歓迎さ。」


満面の笑みでそう言いながら、優しい手つきでベッドに戻され、首元までしっかりとブランケットを掛けられる。

近付いてきた顔に思わず目を閉じるとこつんと当たった額。

推しがいくらノーティスとはいっても、整った顔立ちの彼が迫れば顔に熱が集まるのを感じた。

離れながらまだ熱っぽいと、サイドテーブルに準備されていた氷水に浸したタオルを額に乗せられる。

少し冷たいが火照った身体にはちょうどいい。

あれだけよく眠ったはずなのに再び感じる眠気にそのまま目を閉じるのだった。

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