4. 準備
王家主催のお茶会は王女であるティアナを主体として開催される所謂女子会のようなものらしい。
部屋の内装や調度品は勿論、ティーカップやお菓子までも望み通りにすることができる。
そのため、お茶会が行われるたび相当な金額が動いていたという話は小説にも描かれていた。
王家の財力を誇示する絶好の場であり、他の貴族たちを圧倒したいという彼女のプライドから始められたものだが、私には全く理解できない。
そもそもインテリアのセンスは皆無な上に、ティーカップなんてお洒落というのはわかるが、マグカップで飲んでも同じだとすら思っている。
「ティアナ。カーテンはどんなものがいい?好きなものを取り寄せるぞ。」
「このままで良いです。」
「そうか。ではティーカップはどうだ?」
「いつもお客様に使われるもので問題ありません。お菓子もシェフの方にお任せします。」
「ティアナ、まさか私に遠慮しているのか?」
「いいえ?」
「では何故要望を言わない。」
「お茶会の本来の目的は親睦を深めることですよね?お部屋を飾り付けたりしなくてもお話は出来ます。それに私はインテリアに詳しくありませんから。」
「好きなようにすればいいのだぞ。ティアナのためだけの茶会だ。」
「ありがとうございます。」
「部屋やティーカップを新調しないというが、まさかドレスも仕立てないつもりか?」
「はい。まだ着たことのないドレスもたくさんありますから仕立てる必要はないかと。」
「…。」
「何かお気に触るようなことでも…?」
無言になってしまったノーティスに不安になっていると腕を取られ、そのまま胸の中へと引き込まれた。
一瞬何が起きたのか分からなかったが、推しのノーティスに抱き締められているのだと理解するのと同時に顔に熱が集まるのを感じる。
ティアナの身体を労るような優しい包容に改めて役得を感じながら彼の大きな背中に腕を絡めようと手を伸ばしてみたが、何かに阻まれているようだ。
何だろうとそっと視線を向けてみると明らかに怒気を持った視線をこちらに向けるノアの姿があり、彼によって手を掴まれる。
「ノアか。どうした。」
「執事が父上を探していましたよ。」
「あぁ、書類にサインしろとでも言うのだろう。問題ない。愛しのティアナを甘やかすので忙しいんだ。」
「大丈夫です。僕が代わりにティアナを甘やかしますから。さあティアナ。父上はお忙しいからね。こちらにおいで。」
満面の笑みを浮かべ、大きく手を開いて待っているようだ。
こちらに来ること前提のようだが、私としてはこのままノーティスに甘えていたいというのが本音である。
とはいえ、迷惑を掛けるのは色々と問題かと仕方なく離れれば彼から残念そうな表情が見えた。
その姿にもう一度抱きつきたい衝動に駆られながらも、理性でなんとか耐える。
「ティアナ?」
「お父様にご迷惑をお掛けするのは私の本位ではありませんから…。」
「迷惑になるわけが無い。ほら、戻っておいで。」
優しいその言葉にもう一度抱き着いてみると、先程より少し小柄な抱き心地に違和感を覚え、閉じていた目を開けてみる。
そこに居たのはノーティスではなくノアの姿だった。
「…お兄様?」
「可愛いティアナ。次は僕の番だよ。」
「ノア、私からティアナを奪うとはいい度胸だな。」
「父上が御公務に戻られないと皆が困ってしまいますからね。僕はそのお手伝いをしたまでです。」
「…仕方ないな。ティアナ、少し席を外すが無理はしないように。」
「はい。」
「いい返事だ。」
満足気に口元に弧を描いたノーティスは開けられた扉へ向かって歩き出すのだった。