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3. 薔薇園と棘

成長とともに病弱な身体が少しずつ改善されていく感覚にガッツポーズをしながら、日課にしている庭の散歩に繰り出した。

ノーティスの部屋から見える範囲という制約付きではあるが、自室に閉じ籠もり続けたここ数年は暇で仕方がなかったと思い出しながら侍女のニコルとともに薔薇園を訪れている。

漫画に描かれていた時には気にも止めていなかったが、実際に見ると本当に綺麗だ。

感心しながら歩いていると一つだけ枯れかけている白薔薇を見つけた。

つい気になって手を触れるとチクリとした痛み。

なんだ、棘が刺さったのかと特に気にしていなかったが、発狂するような勢いのニコルに驚いた。


「ティアナ様!!薔薇には触れないで下さいとあれほどお願いしましたのに…!」


「そ、そうだったね。でもちょっと血が出たくらいだから大丈夫…。」


「ティアナ。」


後ろから聞こえてきた声に振り返ると少年から青年へと成長したノアの姿が見える。


「お帰りなさいませ。」


「ただいま。手、見せてご覧。」


何をするつもりなのだろうと首を傾げながら右手を差し出すと、片膝を付いてから小さく出血する指先をぱくりと咥えると舐め取られた。


「っお兄様…?」


「ちゃんと消毒してもらったほうが良いけど、とりあえずの止血だよ。それで?どうして怪我をしたのかな。」


「枯れかけていた薔薇をつい触ってしまって…ごめんなさい。」


「謝ることはないよ。部屋に戻ろうか。」


謝ることないと言う割には不機嫌そうな顔をした彼にそのまま抱き上げられる。

指をほんの少し怪我しただけで、自分の足で歩けると抗議の声をあげてみたが、完全に無視されているようだ。

そのまま医務室へと連れて行かれ、丁寧に包帯を巻かれているのを眺めながらここまでする必要があるのかと疑問を持つ。

とはいえ、今のノアに逆らえばもっと不機嫌になってしまうだろう。

手当てが終わると再び抱き上げられ自室のベッドまで運ばれていった。


「…他に痛いところはない?」


「ありませんよ。」


「そう。なら良かった。」


「ティアナ!」


「お父様?」


「薔薇園で怪我をしたと聞いた。平気か?」


「これくらい何とも…。」


「小さくとはいえ血が出ていましたよ。医務室で手当しましたがこのように包帯を…。」


「可哀想に、痛かっただろう?ニコル、ティアナの怪我が治るまで外出は一切禁じる。」


「かしこまりました。」


「一切…?お庭もダメですか?」


「…っ。そんなうるうるした瞳で見られると私も心苦しいが、少し我慢してくれないか。心配し過ぎて私の職務に影響するからな。」


「私のせいでお父様にご迷惑をお掛けするわけには参りませんね。わかりました。」


「迷惑ではないぞ。それに外出は禁じるが、その間ニコルと茶会用の新しいドレスを仕立ててはどうかな?手配しておこう。」


彼はそう言うと包帯をされている指先にキスを落としてから名残惜しそうに出ていく。

執務の途中で抜け出してきたのだろう。

父であるノーティスは勿論、兄のノアも日増しに過保護度合いが上がってきている気がしてならない。

本当は怪我を理由に父へ抱き着こうと考えていたのだが、あのタイミングで痛かった等と言えば、それこそ二度と外出出来なくなるだろう。

ノーティス至上主義を貫きたいが、悪役王女も軟禁王女も願い下げである。

これくらいの怪我なら治癒に一週間も掛からないし、その間にノアとヒロインが初めて出逢うお茶会もあるのだ。

ただの妹として隠れて観察するくらい許されるだろう。

そんなことを考えながら笑みを浮かべるのだった。

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