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2. 父と兄


「ティアナはどれがいい?」


テーブルに準備されたティースタンドを横目に笑みを浮かべるノア。

下から順にサンドイッチ・スコーン・ペストリーと並んでいるが、どれというのはどういう意味だろうか。

アフタヌーンティーの正式な手順は下から順に食すとどこかの雑誌で目にした記憶がある。

とはいえ、元々は貴婦人のつまみ食いから始まった文化ゆえにそこまで厳密にマナーを守る必要がないとか。


「お兄様は何を食べられるのですか?」


「僕はスコーンかな。この季節は果物が美味しいからね。」


「何の話だ?」


「父上、早いお戻りですね。」


「ティアナが待っているからな、当然だろう。」


開かれていた扉から現れたノーティスは優しげな笑みを浮かべこちらへと腕を開きながら歩み寄ってくる。


「お父様!」


その腕の中に娘として飛び込んだ私だが、内心は口元が緩みっぱなしだ。

推しの彼にこれほど大胆に抱き着くことが出来るなんて本当にティアナに転生したことは役得でしかない。

このまましばらく堪能しようと思っていたのだが、後ろから誰かの手に引かれ離された。


「…?」


「ティアナ、父上にだけずるい。僕にもそれやって。」


「何を言っている。これは父である私だけの特権だ。」


「それこそ何を言っているのですか。僕はティアナの兄ですから。抱き着いて貰うことは当然の権利です。」


「「ティアナはどう思う?」」


「あ、あの私は…。」


「困ってしまっているじゃないか。」


「父上のせいでしょう。」


「ノアが諦めれば丸く収まることだ。」


「父上が僕にも権利があると認めてくだされば済むことです。」


よくわからないが二人の無益な争いが始まってしまったことに軽くため息を零す。

ティアナの幼少期はこうして育てられていたのだろうか?

そうだとしたら年齢を重ねるごとに二人が離れてしまったことに気持ちが追い付かず、ヒロインに悪行の数々を実行したのも頷ける。

漫画にこのシーンは描かれていなかったと思うが、裏では起きていたのか。

そんなことを考えながら使用人の一人に促されるまま席へ付き、準備されていたジュースで喉を潤していた。

その姿にやっと気づいた彼らは先ほどまで火花を散らしていたとは思えないほど満面な笑みでこちらへと歩いてくる。


「すまない、ティアナ。君に寂しい思いをさせてしまったね。さあ楽しいティータイムを始めようか。」


「ごめんね、ティアナ。君が一番なのに…。」


「いいえ、それは良いのです。ですが、私のことでお話合いは必要ありませんよ?お父様もお兄様も大切な存在ですから。」


「「ティアナ!」」


何が二人を突き動かしたかはわからないが、すごい勢いで抱き着かれなんとも複雑な気持ちである。

確かにどちらに嫌われても私が幽閉される未来を変えることはできない。

とはいえ、あまり目立つような行動をしてヒロインから嫌われるのも困るのだ。

私としてはファザコンとしてノーティス至上主義を貫き、私とノアは付かず離れずの一般的な兄妹のままヒロインとの逢瀬が始まることを願っている。

そんなことを考えながらも先程から主張しているお腹にどうしたものかと視線を彷徨わせていると二人が気付いたのだろう。

やっと離れてくれた。


「ずっと寝ていたからお腹が空いただろう?サンドイッチが美味しいよ。」


ノーティスの言葉でお皿に盛りつけられるサンドイッチの数々。

フォークとナイフで食べるなど初めての経験だが、そこは王女であるティアナに転生しただけあって身体が覚えているようだ。

いただきますと挨拶を済ませてから口の中へと含めば、パンの柔らかさに驚いた。

高級生食パンを食べたときと同じ食感に思わず声が漏れる。


「美味しい…。」


「ティアナ今なんて!?」


「とても美味しかったので…もしかして何かご無礼でも?」


「ち、違うよ!」


「美味しいという言葉を初めて聞いたからね。私もノアも驚いてしまったんだよ。」


「そうでしたか…。料理を作ってくれている方々にとても申し訳ないことをしていたのですね。ごめんなさい。」


「謝ることはないよ。」


「そうだよ!これから伝えていけば大丈夫。」


「はい。これからはそう致します。」


「あ、本当にこれ美味しいね。」


「そうだな。パンを変えたといっていたが、なかなかだ。」


2人も同じようにサンドイッチを食べ始めたようで美味しいと零すと立っていた料理人であろう男性が嬉しそうに笑みを浮かべているのが見えた。

良かった。

やはりすでに悪役王女の頭角は出していたようだ。

こういうところも早めに修正しよう。

そう思いながら美味しいサンドイッチに舌鼓を打つのだった。

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