11. 王女の役目
二人の睨み合いに挟まれ、気疲れしながらも美味しいお菓子に罪はないと食べることに集中しているとノーティスから大きなため息が聞こえてきた。
「いつまでいるつもりだ?この辺りはセルヴァン皇国と違って日が暮れるのが早い。」
「そうですね。本当はもう少しティアナ王女とご一緒したかったのですが、次回を楽しみにします。また会ってくださいますか?」
「もう会わせるつもりはないよ。」
声に振り返ると怒気を纏ったノアが見え、その後ろにはアーシャの姿が。
二人で何処かにいっていたということはやっと愛瀬が始まったのだろうか。
恋人同士にしては距離感が遠い気もするが、知らない間に仲良くなったようだ。
「ティアナは僕のだと言ったはずだ。他を当たってくれないかな。」
「それは無理です。ティアナ王女との件は父も了承していますから。」
「君の父上がどうであれ、こちらにその気はないよ。」
「ノーティス王はどうお考えですか。互いの国にとっても悪い話ではないですよね。特に各地で争いが起きている現状では国同士の結束が必要不可欠かと。」
「確かにそうだな。」
「父上!?」
「ノアも理解はしているだろう。」
「それは…。」
ノーティスの言葉に苦虫を噛み潰したような表情をしながら返す言葉に詰まってしまう。
それもそのはず。
私の知る物語通りであれば同盟国であるセルヴァン皇国にも属さない戦を生業とする部族が存在し、常に背後を狙い続けているのだ。
彼らに対抗できる軍事力を誇るセルヴァン皇国にとってはそこまでの脅威はないが、争いを好まないこの国では必要最低の兵力しか保持していない。
だからこそセルヴァン皇国の皇子と婚姻することは王女であるティアナの責務だ。
それは彼女も理解し、婚約していたはず。
ただ作中ではセルヴァン皇国と婚約と記載されていただけで、どの皇子と結ばれるかは描かれていなかった。
ブラコンであるティアナにとって、この婚姻は望むものではなく。
それが余計に兄と結ばれるアーシャを妬む原因だったらしい。
推しであるノーティスと穏やかに過ごせることだけを願っていたが、物語は待ってくれないようだ。
彼の性格は分からないが、見た目が良いというだけでも好条件というもの。
ここで我が儘を言って塔に幽閉される未来に繋がってしまっては意味がないとノーティスから打診された場合は一つ返事で了承しようと心に決めていると父の視線がこちらに向くのか見えた。
「そんなに美味しいのかい?」
「え?」
「確かに美味しいな。ノアも食べてみるといい。」
「そんな場合じゃ!」
「私の意見は以前から変わっていないさ。ティアナを嫁に出す気はない。病弱で外にもあまり出られない幼少期を過ごしているというのに将来まで決まっているなど酷なことだとは思わないか。」
「そうですね。ティアナ王女から想っていただければその心配もなくなりますから。」
自信満々にそういう彼にとりあえずすぐさまノーティスと離されることはない事に安堵するのだった。