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第55話 心ときめく贈り物!

 流星群の興奮さめやらぬ中、私達はぺちゃくちゃとおしゃべりしながら広間へと戻った。全員がどっとテーブルに殺到し、すぐさまパーティが再開される。


「うっし、今年初の乾杯だーっ!」


 イアンとメイベルは嬉しそうにジョッキを合わせ、エリオットとディアドラはお皿に料理を山と盛りつけ始めた。まだまだ元気の有り余っている友人達に苦笑して、ガイウス陛下と顔を見合わせる。


「リリアーナも何か食べるか?」


「ううん……やめておくわ。こんな時間に食べたら胃もたれ間違いなしだもの」


 笑って断りながらも、きょろきょろと辺りを見回した。

 むしろ私が今欲しいのは、冷えた身体を温める――……


「どぉぞ姫ちゃんっ! 超超超薄めのウイスキーお湯割りだよぉ! はちみつ入りだから甘々で美味しいよっ」


 跳ねるように駆け寄ってきた料理長のデニスが、湯気の立つカップを私に差し出した。そばかすいっぱいの顔をほころばせる。


「わっ、ありがとう! ちょうどこういうのが飲みたいなって思ってたの!」


「ま、待てリリアーナ! これ以上の飲酒は危険……っ」


 慌ててカップを没収しようとした陛下から身を躱し、思いっきりあかんべえする。


「超超超薄めだから大丈夫ですっ! いっただきま~す!」


 これ見よがしにずずっとすすると、途端に身体がぽかぽか――……は、一応してはくるんだけども。えっと、これは……。


 じっと考え込み、恨めしげにデニスを見やった。


「お酒の味なんてほとんどしないわ。ちょっと控えめすぎなんじゃない?」


「姫ちゃん意外に酒豪だね!?」


 ずっこけるデニスの後ろから、「飲み過ぎはよくないぞ、リリアーナ姫」と強面ヴィー君もやってきた。ひょいと真っ白な箱を私に手渡す。


「……え?」


「新年の贈り物だ。開けてみてくれ」


 いかめしく告げられて、大急ぎでカップをテーブルに置いた。わくわくと箱を開くと、赤と白のしましま模様のキャンディが出てきた。


「わっ、可愛い! ありがとうヴィー君っ!」


「ヴィー君!?」


 なぜだか陛下が(たてがみ)を逆立てて絶叫する。きょとんと彼を振り返った。


「どうかされました?」


「……いや。何でも……」


 呟くように答えたかと思うと、今度はぺしゃんこに巨体を縮めてしまう。ああっ、せっかくの毛並みがっ!


 わしゃわしゃと一生懸命に手櫛で掻き回せば、少しずつふかふかが復活してきた。しおたれた丸いお耳もひと撫でして、やっと満足して身体を離す。


「ヴィー君にはお菓子作りでお世話になったんです。――そうだわ!」


 忘れてた!

 私もクッキーを配らないと!


 贈り物を入れた籠は自室に置いたままだ。取りに戻ろうと踵を返しかけたところで、「探しものはこれですかぁ!?」とメイベルが両手で抱えた籠を差し出した。


 あら、と嬉しくなって籠を掴む。


「持ってきてくれたの?」


「ええ、あたしも自分の分を取りに行かなきゃならなかったので! ジョッキ一気飲みしてすぐ行ってきたんですよぅ!」


 ケタケタと楽しそうに笑う。……うん、さすがメイベルは酔っぱらっててもデキる侍女だわ。


 感謝と共に、メイベル用のクッキーを取り出した。彼女の華奢な手にぽんと載せる。


 ふんわりとドレスをつまみ、丁寧に辞儀をした。


「昨年は本当にお世話になりました。メイベルが付いてきてくれたから、私とっても心強かったわ」


「リリアーナ殿下……っ!」


 紫紺の瞳をまんまるに見開いたメイベルは、感極まったように声を詰まらせる。ぐしぐしと目をこすりながら、何度も何度も頷いた。


「こちらこそ……っ。あたしの方が毎日楽しくて、もうランダールに骨を埋めるつもりになってるんですよ。これからもどうぞ、よろしくお願いします……!」


「メイベル……!」


 二人で手を取り合って泣いていると、「泣きジョーゴの酔っぱらい主従だねっ!」とデニスが余計な茶々を入れてきた。感動の場面に水を差すんじゃないわよそこ。


 メイベルは照れくさそうに居住まいを正すと、一抱えほどもある大きな包みを持ってくる。「どうぞ」とはにかみながら差し出した。


「ありがとう! 何かしら――……あら!」


 クリーム色の、ふかふかとやわらかな枕が出てくる。飾り文字で『リリアーナ』と刺繍してあり、名前の横に添えられたお花の刺繍も愛らしい。


 感嘆の吐息をついて、色鮮やかな刺繍糸を指でなぞる。


「とても上手ね……! 早速明日……じゃなくて、もう今日ね。今日のお昼寝から使わせてもらうわ!」


 はしゃぎながら枕をくるりと裏返す。……んん?


 隅の方に黒い文字で何かが書き連ねられていた。これも刺繍で、よくこんなに小さな文字が縫えるものだと感心してしまう。


 顔を近付け、よくよく覗き込み――……


「…………」


「どうですかぁ!? ひと針ひと針、怨念を込めて縫ってみたんですぅ!」


 メイベルの言葉が耳を素通りする。わなわなと震えながら、枕を強く抱き締めた。


 そこには、こう記されていた。



 ――健やかなお昼寝を。寝息いびき歯ぎしり退散。



「……素晴らしいわ、メイベル……!」


 これでもう、「ふしゅーるふしゅーる」な寝息を心配せずに済むというものっ!

 大喜びで枕ごと彼女に抱き着くと、メイベルも安堵したように頬をゆるめた。


「よかった。これでもう、あたしも『ちょっとでも寝息を立ててたら起こしてねっ』なぁんて面倒な命令を守らなくていいですね?」


「もちろんよっ。今この時をもって撤回するわ!」


 ふんぞり返って宣言して、それから二人同時に噴き出した。声を上げて笑っていると、賑やかに騒ぎながらイアン達もやってきた。


「よお姫さんっ。オレからの贈り物だぜ!」


 ……ああ、語尾が「だぜ」の券ね。


 お礼を言って封筒を受け取る。そしてエリオット作のリボンでおめかしした蛇の像と、ディアドラ作の城下町の地図も。


 広間のそこかしこで、楽しそうにプレゼント交換が行われていた。私も収穫にほくほくしながら、山程作ったクッキーを配って回る。


 金色リボンの最後の一箱だけを残し、よし、と笑顔でガイウス陛下に駆け寄った。


「――ガイウス陛下っ。今から私と逢い引きしませんかっ?」

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