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自室内困惑

「助けておくれ……」


 そんな声が聞こえた気がした。

 烈人れつと……と、自分の名を呼ばれた気もした。


「…………ん?」


 自室のベッドから上半身だけを起こして周囲を見回す。

 いつの間に寝たのか思い出せない。

 服は学ランを着たまま。

 家に帰ってきて、仏壇に線香をあげたところまでは覚えているけど、そこから先はよく思い出せない。


 口の中がカラカラだったので、とりあえず台所で麦茶でも飲もうとドアを明けたところで立ち尽くした。


「…………は?」


 目の前にはフローリングの廊下ではなく、石畳の空間が広がっていた。

 ウチの家はとある事情で「住宅」というよりも「ビル」と呼んだ方が適切な構造をしているが、別に豪邸ではない(むしろボロい)ので、こんな体育館……まではいかないが、ウチの高校の室内練習場くらいの広さの空間は存在しない。

 ビフォー・アフターのレベルじゃない。

 なんということをしてくれたのでしょう。


 待て。

 これは、寝て、起きて、二度寝して。

 そんな時に見がちな「意外と自由に動ける夢」なのかもしれない。

 一度、部屋のドアを閉め、再度開ける。

 石畳のままだ。

 一歩踏み出すと、石がひんやりして気持ちいい。

 同時に、靴を履いていないことに気づいた。

 いや、部屋の中にいるのだから靴を履いていないのは当たり前なんだけど、ドアの先の石畳はどう考えても家の玄関につながっているとは思えない。

 一度室内に戻って、押入れの中から中学の時に使っていたバスケットシューズを探し出して、履いた。


 押入れの中は普通に存在していることに安心し、はっとして「窓の向こうは」と思い、カーテンを開けると、ガラスの向こうは石の壁だった。


「一体どうなってんだよ……」


 言いながら改めてドアを開けると、そこには白い人が立っていた。


「うわあぁ!」


 完全に油断していた。

 驚きのあまり、尻もちをついてしまいケツが痛い。

 そんな僕の様子を見て、戸口の白い人は表情を買えず、僕の方をじっと見ているだけだった。


 白い人。


 そう、確かに色白だけど白人というわけではない。

 身につけているのは英国調メイド服に似たエプロンのようなドレスのような服をまとった女性。

 その九割が白かった。

 頭頂部でぴっちりとお団子にしてある銀髪と、エメラルドのような翠色の瞳がとても映えて美しい、二十代くらいの女性に見えた。

 理想的な弧を描いた凛々しい眉の下にある目は少しキツい印象で、かけているメガネで眼力を収束してビームが撃てそ――。


「ほわあっつ!?」


 撃ってきた! 本当に撃ってきた!

 今まで怖い人にメンチ切られたことはあっても、ビームを出されたことなんてなかった。

 赤黒く光った光線は、カーペットに穴を開けていた。今はぶすぶすと煙を立てている。

 一体何が起きているんだ!?

 まだ部屋から一歩しか出ていないのに、どんな状況かも理解できていないのに、問答無用でメンチビーム撃ってくるお姉さんに遭遇するなんて!

 これは、「夢だ」とか言ってると、かなり早い段階でバッドエンドになるやつだ。

 そんなのはグッドエンドを見てから回収するもんだろう。


「くそぅ! やってやる、やってやるぞ!」


 さっきシューズを出すときに見かけた木刀(日光山と書いてある)を押し入れから出し、振り返って青眼に構え――る前に「ひゅっ」という音がして白い人のメガネが光った。

 そして、どうやらビームを受けたらしい刀身の先っぽから半分が折れ、僕の眉間を直撃した。


「いでぇっ!」


 よろけて後ずさり、木刀を取り出すために開け放った押入れに倒れ込んだ。

 布団が入れてあったから痛みはなかったが……。


「はっ!?」


 ゆっくりと白い人が部屋に入ってきて、僕の前に立った。

 もうダメだ。

 結局バッドエンドらしい。

 短い人生だった……とは思わない。

 エキセントリックな家庭で「普通に」育ったせいで、僕は自分の存在意義のようなものを見いだせないでいた。


「なあ浦梨うらなし、お前の親父ってさ――」

「浦梨くんのお母さんて――」

「お前の妹――」


 僕はいつも「家族の付属品」だった。

 そんな家族を見て、きっと自分も何者かになれると思っていたこともあったけど、途中で投げ出した。

 目の前の立つ、白い人のメガネに光が収束していく。

 祖母ばあちゃんが待ってる天国には行けるといいな。

 そう祈りながら、目を閉じた。

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