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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

猿の手

作者: ゆき

部活用に書いたものなので行間とかそこらへんがおかしいかもしれませんが気にしないでください、


・・・16000字って短編でいいんですかね?

「ようこそ私の店へ」


「今宵お出しさせていただきますは少し奇妙な料理」


「皆様もよく知る右手を料理したもの」


「それでは、どうぞごゆっくりお楽しみくださいませ」




「ふぁ~」


 僕は大きなあくびをしながら通学路を歩いていた。昨夜・・・というか今朝か?アニメを一気見したせいでめちゃくちゃ眠い。結局何時まで起きてたんだっけ?というか何で学校なんかに行かなきゃいけないんだ。


 たったったったった


 後ろのほうから軽快なリズムを刻むステップが聞こえてきた。その音に気づいた僕は回避行動をとろうとするが、時すでに遅し。奴は僕にタックルをかましてきた。「おっはよ~」という気軽げな挨拶と共に。


「久しぶりだね~。元気してた?」


 僕は背中をペシペシと叩いてくる彼女を睨みつける。いや、普通人のこと叩かないでしょ。いくら幼馴染でも。節度をもとうよ。節度を。


「うん。とりあえず背中を叩くの止めてもらってもいいかな?あと、毎朝タックルしてくるのも。それに、土曜に学校会ったんだから久しぶりでもないだろ。」


僕の返しが気に入らなかったのか、彼女はむっとしたような表情を作る。・・・わざとらしい。


「もぉ。細かいよ!そんなんだからモテないんだよ!なーちゃんは!」


 そう声を張り上げながら僕の隣を歩き出す。そろそろその呼び方止めてほしいんだけどなぁ。さすがに高2にもなってなーちゃんは恥ずかしい・・・ってか、


「それ今関係ないよね!?それにそんなこと言っておいて、花恋だって告白されたことないだろ」


 僕の言葉を聞いた花恋はなぜか勝ち誇ったように胸を張る。・・・成長したな、花恋。何がとは言わないけど。うん。言わないけど。・・・あれ?これ何の話だっけ?


「そんなことないもんね~だ。私はモテモテだもん。なーちゃんと違って」


「へーそうなんだー。初めて知ったー」


 ガンッ!


 いった!え?は?今、脛蹴られたよね!?人体ではありえないくらいの音が聞こえたんだけど!?


「フンだ」


「それ声に出して言うことじゃないよねぇ!?」


 僕は花恋に蹴られた所をさすりつつ、ふぅとため息を吐いた。

事実、こいつめっちゃモテるんだよな。いや、昔は読書ばっかりしてるような眼鏡っ子だったからそんなことなかったんだけど。今はコンタクトに変えて、陸上部のエースまで上り詰めてる。元々目立たなかっただけで美形だったから注目を集めてからは一瞬だったな。

今はもう学校外にまでファンクラブあるらしいし・・・非公式だけど。学校内はファンクラブ超えて親衛隊になってたし。

・・・そんなもん、アニメでしか見たことなかったよ。


「まぁモテるかどうかなんて今はどうでもよくて」


「自分から始めたのに!?」


「・・・なーちゃんしっかり寝た?目の下、くますごいよ?」


 僕の質問は無視ですかそうですか。あぁー睡眠かー。とってないな。だって新しい本を買ったんだよ?シリーズ全巻。まぁまだ完結してなかったんだけど。もう興奮して睡眠どころじゃなくなるでしょ!本が好きな人なら分かるはず!


「本読んでたんだよ。家出る直前まで」


 あぁ。あの本面白かったなぁ。もうほとんど読んじゃったし。早く新刊出てくれないかなぁ。それまで何読もうかな。あの雪とかいいなぁ。いやでも、家にあるのをもう一回読むのでもいい。う~ん悩ましい!


「え、オールしたの!?だめだよしっかり寝ないと!体壊しちゃうよ!」


「あーうん。そーだねー」


 やっぱり最近流行の異世界ものかな~。いや、ここは王道の恋愛ものっていう手も・・・。


 花恋の注意に空返事で返しながら、次に読む本のことを考える。すると突然、視界内に花恋の顔がドアップで映し出される。それに気づいて僕の体がびくっと震えた。心臓の鼓動が早くなる。なんせ学校でも有名な美人さんの顔。それが自分の顔にくっ付きそうな位置にあるのだ。僕じゃなくてもこうなるだろう。


「その顔はしっかり聞いてないでしょ!」


「き、聞いてるよ」


 僕がそう答えると彼女は疑うような視線を向けてくる。な、何だよ!


「はぁ。全く。いつからこんなにオタクっぽくなっちゃんたんだろう。ちっちゃいころはこんな感じじゃなかったんだけどなぁ」


 花恋は顔を戻しながらそう呟いた。僕に聞こえるように、わざとらしく、大きな声で。え?なに?嫌味なの?


「いつの話ししてるんだよ。それ小3のころだろ?八年もあれば変わるわ。ってか、そんなこと言ったらお前だってあのころは陰キャだったし、運動神経もよくなかっただろ」


「今は違うも~ん」


 楽しそうにスキップしながらそう言った。・・・昔はもっとこう・・・大人しかったはずなんだけどなぁ。いつからこんなにチャラい感じになっちゃったんだろう。


「それじゃあ私部活あるから先行ってるね~」


 そう言って花恋は颯爽と走り去っていった。ほんと変わったな。昔は学校の活動とか嫌々やってるイメージだったのに。まぁいい変化だしいいか。そんなことを考えながら僕は鞄の中から読み途中の本を取り出して読み始める。・・・これ花恋に見られたら叱られそうだな。




「よ!納艮」


 学校に着くとすぐにそんな声をかけられた。それと同時に体当たりも食らう。しかも結構痛い。こいつ野球部だから結構筋肉質なんだよな。そういうところしっかり考えてほしい。まぁアメフトとかやってないだけましなんだけどな。


「おはよう」


 そんなことを頭の片隅で考えながらぶっきらぼうに返事を返す。視線は本から1mmも動かさずに。ぶっちゃけてしまうと今めっちゃ良いところなので話しかけないでほしい。それと体当たりも控えてほしい。全く。本がグシャったらどうしてくれるんだ。そんなこと言ってもこの学年トップクラスのチャラ男に対しては意味ないんだろうけど。


「おはよう。神無月君」


 彼が過ぎて言った後、僕が小さくため息を吐いていると後ろから声をかけられた。また学年屈指の陽キャ君か。まぁ、さっきのチャラ男よりは好感が持てるからいいけど。


「ごめんな。春喜も悪気があるわけじゃ・・・・・ないこともないかもしれないけど、悪いやつじゃないから」


「・・・・・いや、悪気がある時点でいいやつではないだろ」


「あはは。それはそうかもね」


 フォロー・・・になってるのか微妙な言葉に少し悩んだ末にそう答える。ちょうどきりの良いところまで読んだしね。ってか普通フォローって言ったら悪気があるわけじゃないんだとかじゃないかな?いや、悪気があるのは知ってるんだけどさ。


 さっきの陽キャ、春喜は花恋のことが好きなのだ。だから彼女とよく一緒にいる僕が気に入らない。それで僕にちょっかいをかけてくるようになった。・・・一緒にいるって言っても幼馴染で家が近いってだけなんだけどなぁ。それだけで体当たり食らうとかとんだ迷惑である。花恋のことが好きなら本人に直接ちょっかいを出してほしい。それこそ小学生が好きな子をいじめちゃうみたいな感じで。まぁ、本当にいじめてら止めに入るけどさ。


「はぁ。君がそんなんだから彼女が苦労するんだよ・・・」


 彼は呟くようにそう言った。深いため息とともに。


「彼女って誰のことd」


「おっはよ~。智」


 僕が誰のことか聞こうとしたとき、誰かがいきなり彼、智に抱きついた。


「うわっ。なんだ雪菜か。驚いたじゃないか」


 そう言って智は雪菜を剥がす。その声は言ってることとは違い、驚くほどに落ち着いていた。普段からやられ慣れてるんだろうな。そのまま二人は仲良く去っていった。僕を残して。いやまぁ連れて行ってもらおうとかは考えてなかったけどさ。そんなことを考えていると、前を歩いている智と目が合った。彼は目だけで「すまない」と伝えてくる。・・・雪菜に気づかれないように。僕はそれに軽い会釈で返した。


 なにあの人。イケメンで、彼女持ちで、成績優秀で、そんでもっていい人。えーと、こういうとき何て言うんだっけな。・・・あ、そうだ。末永く爆発しやがれください。




「・・・ちゃん!な・・ちゃん!なーちゃんってば!」


 紅く染まった教室で僕はたたき起こされた。相も変らず元気いっぱいな幼馴染に。・・・あれ?紅く?


「なーちゃん。こんな遅くまでなにしてるの?」


 顔を上げると不思議そうに聞いてくる花恋の顔があった。えっと、最後の記憶が六限終了の鐘が鳴ったところでしょ?そんでもって今の時間が六時半過ぎだから三時間半近く寝てたことになるな。その事実を包み隠さず花恋に話す。


「起こしてくれる友達とかいないの?」


「・・・えっと、人間強度が下がるから友達は極力作らないことにしてるんだ」


「うん。よくわからないけど、いないってことだよね?」


僕の話を聞いていないのかこいつは。しかもなんか、蔑むような目を向けてくる。うん。やめて?僕結構メンタル弱いの。さっきの友達いない発言でもうぼろぼろなの。ライフ0なの。さすがにオーバーキルはやめて?自殺しちゃうよ?


「・・・まずは、友達の定義から話合おうか?」


 数秒考えに考え抜いた結果発した言葉はどうやら彼女には通じなかったようだ。だって首かしげながら「ていぎ?」とか言ってるし。ってか高二にもなって言葉の意味分からないってどういうことだよ。


「無実先輩。私たち、用事を思い出したので先に失礼しますね」


 花恋の後輩と思しき子達はそう言って去って行った。にやけ顔を隠す様子も無く。なんで笑ってんだろう?何かいいことでもあったのかな?


「え!あ、ちょ、ま・・・」


 花恋は急いで振り返ったが、そこにはもう彼女たちの姿は無かった。さすが陸上部。足がお早いようで。もう誰もいないドアを見ながら固まっている。先に帰られたのがそんなにショックだったのだろうか?まぁ何はともあれこんな時間だし家に帰るか。


「あ、ちょっと!おいて行かないでよ!」


 花恋そう言って僕を追いかけてくる。そんなことは気にせず僕は本を開いた。文字に目を通そうとした僕の視界から本そのものが消失する。驚いて辺りを見るとさっきまで僕が持っていた本を手にした花恋が目を細めていた。


「だんじょんがであいをもとめるのはまちがっているだろうか?」


「・・・どういう状況だよ」


「とりあえず、ながら歩きはだめだよ!ところでだんじょんってなに?」


 どうにか花恋から本を取り返して帰路に着く。いまどきダンジョンって言葉を知らない高校生がいるだと!?それでもお前は元本好きか!でもそういえばこいつが読んでたのは恋愛系の小説ばっかりだったな。


 そんなことを考えていると、いつの間にか僕はもう一回本を開いていた。もうこの行動が癖になってるみたいだ。花恋もいるし閉じるか。そう思ったところでいきなり頭を叩かれた。


「ながら歩きは危ないって言ってるでしょ!」


「危ないのはお前の暴力癖だよ」


 僕はそれだけ言うと少し早めに歩き始める。まぁ、花恋からしたらそこまで早くもないんだろうが。


「あ、ちょっと!先行かないでってば!」


 そう言って花恋は僕の横まで駆け足で来る。これじゃあ今日は帰りに本が読めないな。まぁ一日くらいならいいか。




 花恋は分かれるまでずっと僕の行動について注意してきたり、自慢話をしてきたり、とりあえず何かとしゃべり続けていた。それはもう幸せそうに。あんなにしゃべるの好きな子だったっけなぁ。


 まぁそんなこんなで僕は絶賛伸びてる最中なのである。無人のリビング。そこにたたずむ強敵《to invite the okota》の中で。もう無理。むちゃくちゃ疲れた。さっきまで学校で寝てたはずなのに。親の帰りが遅いことだけが唯一の救いだ。


 強き者は常に孤独。自身の意思を曲げずに突き進む者の周囲は常に敵の巣窟。信じられるのは自身だけ。強さは人を孤独にさせ、孤独は人を強くする。ということは、誰にも頼らず、自身のみを信じ、他者との関係をできる限り薄くする。それができるボッチは強者ということになるのではないだろうか。つまり、ボッチは最強なのである。Q.E.D.


 ピンポーン


僕がコタツの誘惑に負け大量の睡魔が襲ってきたまさにそのとき、家のインターホンが押された。僕はコタツの魔力を無理やり引き剥がし、やっとの思いで玄関までたどり着いた。正直居留守を使おうか真剣に悩んだが、電気がついているのに気づいて断念した。うぅ。コタツが私を呼んでいる。


「はーい」


 気の抜けた声返事をしながらドアを開けると、そこにはやせ気味で、なんとも不気味な雰囲気を纏った男が立っていた。その手には、そこそこ大きな箱を持っていた。


「白猫山手の宅急弁です。お荷物をお届けに参りました。サイン貰えますか?」


「あ、はい」


 僕は宅急弁の人にペンをもらい、指定された場所に記名する。


「ありゃっしたー」


 記名した紙を受け取った宅急弁の人はダンボールを置いて帰って行った。ヲイ。ちゃんと最後まで仕事して行け。はぁ、と小さくため息を吐きダンボールを持ち上げる。その予想外の軽さに僕は驚いた。というか落としそうになった。勢いよく持ち上げすぎて。・・・こんなに軽いって、一体何が入ってるんだろう?


 気になった僕は・・・とりあえずコタツに入ってから確かめることにした。コタツに潜り込み、ダンボールを確認する。そこで、僕はあることに気がついた。差出人の名前が空欄だったのだ。しかし、受取人の名前はしっかりと書き込まれていた。『神無月 納艮様』と。それを見た瞬間、僕の背筋がひやりと冷たくなった。例えるなら、突然後ろから親の怒声を浴びたときのような感じ。


「とりあえず、開けてみるか」


 そう言って僕は段ボールを持って自室へ向かう。なんとなく、自室のほうがいいと感じたからだ。部屋に入った僕は勉強机にダンボールを置き、カッターナイフでガムテープを切る。箱を開けると中にはなんと!木箱が入っていた。・・・なにかな?簡易版マトリョーシカかな?


そんなことを考えながら僕はダンボールから木箱を取り出す。封も何もされていないただの木箱。ぶっちゃけ、シミだの何だのがついているのでめっちゃきたn・・・古い感じはするが、それ以外は普通だと思う。


「よし!」


しばらくじっと眺めていたが、唐突にそう呟いた。それと同時に頬を叩いて気を引き締め、木箱のふたに手をかける。ゆっくりと、慎重に、硬く瞼を閉じながら。完全に開けた後、僕はゆっくりと目を開ける。


「・・・なんだ?これ」


そこには大量の綿と、それに包まれた人に似た何かの手の木乃伊?のようなものが入っていた。それも、三本だけ指を立てた状態で。


僕は手の木乃伊をじっと見つめる。それぞれの指が人間のそれよりも少しばかり長く、親指と人差し指の間が結構開いている。確か猿の手がこんな感じの形をしていた気がする。手に持って確認してみたが、手の平を自分のほうに向けたとき、親指が右側に来ていた。つまり、右手ということになる。・・・はず。それを確認したとき、僕の頭にふとある物語が浮かんだ。


猿の手


 おそらく、多くの人が耳にしたことぐらいはあるであろう名前。イギリスの小説家、W・W・ジェイコブズの手がけた作品で、その後さまざまな作品の中で語られている怪異。猿の手


曰く、持ち主の願いを三つだけ叶える。

 曰く、ただし本人の望まぬ形で。


「いや、まさかね」


 僕はそう言って木乃伊を木箱の中に戻した。そんなものが存在するはずがない。そう言って、僕は木箱にふたをしようと手に取る。しかし、被せる前にふたを持った手が止まった。


「まぁ、試すだけならタダだもんな」


 そう言ってふたを机に置き、もう一度手の木乃伊を右の手で持ち上げる。しばらく、僕自身と周りにそこまで被害が及ばない願いというものを考えた結果、ひとつだけ思いついたのでそれを願ってみる事にした。


「春喜が僕に絡んでこないようにしてください」


 小さな声でそう呟いた。それからしばらく待ってみたが、手の木乃伊は何の反応も示さなかった。それを見た僕はため息を吐く。やっぱり、お話は所詮お話。フィクションなのだ。


「はぁ。何してんだろう。ばかばかしい」


 そう言って僕は手の木乃伊を木箱に戻し、クローゼットの奥深くにしまいこんだ。まったく。どこの誰かは知らないが、こんな物騒なもん送ってこないでほしいものだ。木乃伊ならもっとこう、ふわっふわな感じのりんご好きなかわいい子を送ってきてほしい。そのほうがまだ実用性があるってもんだ。


 そんなことを考えながら僕はいつも通り風呂に入ってから布団にもぐりこんだ。コタツでもいいけど、親が帰ってきたら五月蝿いからなぁ。ふぅ。今日はなんか異様に疲れたな。そう思いながら、一日の出来事を振り返る。


 ・・・うん。とりあえず花恋は僕みたいな陰キャじゃなくて、春喜とか智とつるむべきだと思う。僕の平穏のために。


 その後も数分間布団の上でぼけーっとしていると、次第に瞼が重くなってきた。あ、やば。ごはん・・・つくら・・・ない・・・と・・・ぐぅ。




 結局、昨日は晩御飯を食べることができなかった。朝、目が覚めて最初に聞いた音が『ぐぅ~』というお腹の鳴る音だったときの脱力感といったら、それはもう酷いものだった。リビングまで行くのが億劫になるほどに。・・・いや、行かないと親に怒られるからちゃんとリビングまで行ってご飯食べたんだけど・・・。


「おっはよ~ぅ!」


 ドンという音とともに強い衝撃が僕を襲う。またこいつは・・・。いったい何回同じことを言ったら気が済むんだ。読んでる最中の本がぐしゃぐしゃになったらどうしてくれるんだ!まったく。僕はそう考えながら花恋を睨み付ける。


「もう、そんなに怒らないの!早死にしちゃうよ?」


「その怒りの元凶の発言とは思えないな!心配してくださってありがとうございまーす」


 花恋の発した言葉に、即座に突っ込みを入れる。まったく。最近のこいつは何でこう僕を怒らせるようなことばかりするんだ。他の人たちにはそんなことしてないのに。


「はぁ。」


「あぁ!ダメだよため息吐いちゃ!知らないの?ため息一回吐くごとに幸運が一つずつ逃げていくんだよ!」


「・・・あー、なんだ?おばあちゃんの知恵袋みたいだな」


「えへへ~」


「いや、別にほめてるわけじゃないんだけど・・・」


 そんな馬鹿みたいな会話を続けながら通学路を歩いていく。やばい。こいつとの会話めっちゃ疲れる。何で花恋はこんなに勢い良くしゃべっているのに疲れた様子がないどころか、ものすごくうれしそうなのか。いや、ちょっと待って?花恋さん?息継ぎしてる?もう二十秒近く話しっぱなしなんですけど・・・。


 まぁ、花恋が楽しいなら、それはそれでいいか。って、あれ?こいつ確か今日・・・


「なぁ花恋。お前、今日朝練は?」


 いつもとは違って、ずっと隣を歩いている花恋に聞いてみる。花恋は少しだけ首を傾げた後、ポケットから携帯電話を取り出す。あ、ガラパゴスだ。今時珍しいな。あれ一緒に選んだやつだっけ?懐かしいなぁ。


 花恋は、携帯の画面を見つめている。少しすると、青い顔をして僕の方を向いた。比喩表現じゃなくて、本当に青ざめていた。なに?どうしたの?


「ど、どどど、どっどどうしよう!遅れる!怒られちゃう!」


「ま、まぁ。なんというか、その・・・どんまい?」


 僕の返しに、「そんなぁ!」と言って頭を抱える花恋。そんなって言われても僕にはそれくらいしか言えないし。と言うかこいつ、あほだな。あほの子だ。


「ほら。早く行かないとなおさら怒られることになるぞ!」


「そ、それだけは絶対にいやだ!それじゃ!私先に行くから!ダスピダーニャぁぁぁぁぁぁ!」


 そう言いながら花恋は走り去っていった。いつもより早いんだけど。しかも何故か最後だけロシア語だし・・・。別にあいつロシア語にはまってたりはしなかったはずなんだけど。まぁいいか。




 珍しく春喜に絡まれずに教室の到着した僕がドアを開けると、中はいつも以上にざわついていた。何かあったのかと考えたが、どうせ僕には関係ないことだろうと割り切って自分の席に向かう。席に座ったとき、いつも近くで話している男子グループの声が聞こえた。こいつらのせいで、HR前に僕は寝られない毎日が続いている。少しは静かにしてほしいもんだ。


「なぁなぁ春喜が事故ったってマジ?」


「本当らしいぞ。それも結構なものだったらしくて、まだ意識が戻ってないらしい」


 男子グループやつらはそう話していた。あいつら、役に立つこともあるんだな。それはそうと、あの春喜が事故ねぇ。珍しいこともあるんだな。今まで風邪すら引いたことなかったのに。何はともあれ、これで春喜はしばらくの間僕に絡んでこれなくなったわけだ。これで僕の元に平穏な日常、が・・・


 そこまで考えたとき、僕は全身に鳥肌が立った。今、自分が考えていたことを振り返る。平穏な日常、春喜が事故った。僕に『絡んでこれなくなった』。答えにたどり着いた時、僕は無性に怖くなった。


 昨日、手の木乃伊に願ったもの。『春喜がかかわってこないようにしてほしい』。それが、叶ってしまったのだ。ただの偶然だ。偶々時期が重なっただけで、あの木乃伊が本物だなんてことはない。そう思っても、あの木乃伊のことが頭によぎる。


 曰く、持ち主の願いを三つだけ叶える。

 曰く、ただし持ち主の望まぬ形で。


 そんなことはありえない。あるはずがない。そう思えば思うほどに、その考えは僕の頭により深く根を張っていく。それに思考を持っていかれていたせいで、何度も教員に注意を受けたが今の僕にはそんなことを気にしている余裕はなかった。




学校の終わりを告げるチャイムが響く。それとほぼ同時に僕は教室を出た。早く家に帰って確認しなければいけないと。そう考えた僕は今までに出したこともないような速度で通学路を走っていた。


 心臓と体が悲鳴を上げる中、僕は何とか家に到着した。耳元でバクバクと心音鳴り響いている。しかし、そんなことは二の次だとでも言う様に、僕は階段を駆け上って自分の部屋に転がり込んだ。


「あった」


 クローゼットの中を確認した僕はそこにあった木箱を見て、声を上げた。僕はすぐに木箱をクローゼットから持ち出し、机の上に置く。そこまでしたところで僕は倒れこんだ。おそらく、酸欠だろう。それを自覚した僕は息を整えようと深呼吸を繰り返す。


「ふぅ」


 最後にさっきまでよりも大きく息を吐き、立ち上がる。まだ鼓動は早いが、さっきまでと比べればぜんぜんマシだ。僕は椅子に腰掛け、木箱に向かう。


「よし」


 僕は気合を入れて、ふたを開ける。中には、僕が昨日仕舞ったときと変わらない木乃伊が入っていた。いや。一つだけ。たった一つだけ、昨日とは違うところがあった。


 木乃伊の手。それが立てている指の本数。それが一本少なくなっていたのだ。昨日は立っていた人で言う薬指に当たる指。それがしっかりと折りたたまれていたのだ。それはまるで僕に向かって告げているようだった。




《残り二回だ》と。




 それに気がついた僕の体に戦慄が走った。無意識に体が震えだす。僕はもうこれが怪異であることを疑ってはいなかった。これは、『猿の手』であると。


 僕はすぐにふたを閉め、テープでそれを巻き始める。もう木の部分が見えないくらいに覆われた箱を持って、僕は家を飛び出した。向かった先は近所にある地域のごみ捨て場。たどり着いた僕は周囲に人がいないことを確認してから木箱を捨てる。見つからないように奥深くに埋めるように木箱を押し込んだ。


「あ!なーちゃんだ!何してるの?」


 ごみ捨て場から撤収しようとしたところで後ろから声をかけられた。僕は飛び上がりそうになるのを必死に堪えて、少しぎこちない動きで振り返る。そこに立っていたのは学校帰りの花恋だった。そのことに少し安心した僕はふぅと一息つくと、できるだけいつも通りを装いながら返事を返す。


「びっくりしただろ。心臓が止まるかと思ったぞ」


「え!あ、ご、ごめん!そんなに驚くと思ってなかった」


 僕の返答に花恋は素で謝罪をしてきた。いや、これについては冗談抜きで驚いた。本当に心臓が止まるかと思った。


「っていうかお前、部活は?」


 部活が終わるにしては時間が早すぎる。それなのに花恋は家の近所にあるごみ捨て場に来ている。別に今日は陸上部が休み、なんてことは無かったはずなんだけど・・・。


「あれ?聞いてない?最近不審者が出たとかでしばらく放課後の部活がなくなったんだよ!」


「へーそうだったのか」


 僕は花恋と話しながらごみ捨て場を後にする。花恋は楽しそうに僕の後ろをついてきた。どうやら僕が捨てた箱について何か聞いてくることは無いようだ。まぁ、捨てたのを見られるくらいなら大丈夫だと思うけど。


「そうだよ!部活無くなったからなーちゃんと一緒に帰ろうと思ってたのに教室にいないし!クラスの人たちに聞いても、誰それ?って返されるし!」


「あ、いや、えっと、ごめんなさい?」


 知られていなくてごめんなさいなんて、こんな虚しい謝罪をしたのは初めてである。って、何で僕が誤ってるんだ?いや、勢いに任せて謝った僕も悪いのかもしれないけども。


「反省してよね!祐崎君に聞いてやっと分かったんだよ!しかも、とっくに帰ったとか言われたし!結構時間かかったのに!反省しなさい!まったく。」


 花恋は怒ったように頬を膨らませ、そっぽを向いた。・・・何だ。このわざとらしい仕草は。


「そう言えば今更だけど、お前って智のこと苗字で呼ぶんだな。一応あいつも幼馴染の部類だろ?同じ小学校だし」


 僕と花恋、そして智は同じ小学校に通っていたのだ。智だけ受験したせいで中学は別だったが、それまでは結構仲良くしていたはずだ。


「祐崎君だけじゃないよ?なーちゃんと家族以外はみんな苗字呼びだよ?」


 そう言いながら花恋は僕を横目で見てくる。へー。そーだったのか。って


「なんで僕だけあだ名呼びなんだ?」


「ん~、まだ秘密!」


 僕が気になって聞いてみると、花恋はスキップしながらそう答えた。えぇなんか理由があるなら教えてほしいんだけど・・・。そういうのが一番気になる。でも、僕以外ともまともに話せるようになったんだな・・・。そんなことを考えながら、僕は目元を手で覆う。


「昔は誰かに話しかけられる度に僕の背中に隠れてたあの花恋が・・・成長したなぁ」


「ちょ、ちょっと!そんな前の話ししないでよ!」


 僕がしみじみと言うと、花恋はあわてたようにバタバタしながらそう言ってきた。性格とかが変わっても慌てたときの反応は昔から変わんないな。なんか安心した。


「いやね。花恋は花恋の、レンちゃんのままだなぁって思っただけだよ」


 僕は花恋を昔の、小学校のころの呼び名で呼んだ。ほんとに久しぶりだな。この呼び方。最後にこの名前で呼んだのいつだっけ?


「そ、そう・・・かな。え、えーと、あ!用事!用事思い出した!ご、ごめん。先に帰るね!」


 そういって花恋は帰路を爆走していった。嵐みたいなやつだな。って言うか、用事があるのにわざわざ僕のこと探してたのか。・・・なんか・・・ごめん。


花恋と分かれてしばらくして、僕は家に到着した。途中で学校に戻っていく花恋とすれ違った。どうやら家の鍵を学校に忘れてきたようだ。ドジっ子なところも変わってはいないみたいだな。


「ただいま」


 誰もいない家に声が吸い込まれていく。僕はすぐに自分の部屋に戻る。一仕事終えたような心地よい疲労感が僕を布団に誘ったからである。もう、今すぐにおねんねしたい。


 しかし、部屋に入った瞬間にその眠気と疲労感はどこかへ消えていった。その代わりに、あの戦慄が僕を支配する。そのあまりの恐怖に手足の震えがとまらない。僕がドアを開けた先、勉強机の上にさっき手放したはずの、捨ててきたはずの木乃伊が、指を二本立てた猿の手の木乃伊があったのだ。何で、どうして。そんなことを考えるより先に体が動いた。


 木乃伊をつかみベランダに出て、投げ飛ばしたのだ。宙を舞うそれが地面についたのを確認してから、僕は部屋に戻る。しかし、そこには変わらず、手の木乃伊が置いてあった。さっきと同じ場所に、同じ形で。


「何なんだよ・・・。何なんだよ!」


 そういってもう一度外に投げる。さっきより大きく振りかぶり、遠くに飛ぶように投げ飛ばす。しかし、何度投げ飛ばそうと、どこまで飛ばそうと、手の木乃伊は必ず机の上に戻ってきた。


 その後もいろいろ試したが意味が無い。もう一度ごみ捨て場にも置いてきたが、やはりそれは僕の机に戻ってきた。手の木乃伊は僕の試す一切を受け付けなかった。切れないし、焼けないし、折れないし、つぶれない。打つ手が無くなった僕は袋に包み、テープで巻き、ゴミ箱に放り込んだ。


 すぐに机を確認すると、手の木乃伊は戻ってきていなかった。やっと終わったと僕は息を吐く。すると突然睡魔が襲い掛かってきた。そう言えば、今日は木乃伊のことが気になって学校で寝られなかったんだ。それにさっきまで木乃伊と格闘していたのだ。おそらくその疲れもあるのだろう。


 僕は布団に入ってもう一度机の上を確認する。そこには、なにも乗っていなかった。それを見た僕は瞼を閉じる。胸に残る不吉な予感を拭えぬまま。




 翌朝、目が覚めて一番に机の上を確認した。しかし、そこに手の木乃伊は見当たらない。僕はふぅと小さく息を吐き、部屋を出た。ご飯を食べ、着替えて、家を出る。いつもとまったく同じ平穏な日々が過ぎていく。まるで昨日あった出来事が全て嘘であるかのように。もしかしたら、昨日のことは全部夢だったのかも知れない。猿の手なんて無かったんじゃないか。そんなことを思いながら学校へ向かう。


「おっはよ~」


 そういって花恋が僕にぶつかってくる。こいつはいつも僕の後ろから来るけど、もっと早くに家を出れば走って学校に行く必要ないんじゃないか?


「おはよう。そう言えば、昨日言ってた用事ってなんだったんだ?」


「え?・・・あ!な、なんでもない!なんでもないよ!少なくともなーちゃんが気にすることではないよ!」


「そ、そうか」


 花恋はあわてたように返して来る。・・・こいつ、今一瞬用事があったこと忘れてたな。置いていっておいてそれは無いんじゃないかなぁ。


「じゃあ私先行くね!バイバイ!」


 そう言って、花恋は走っていった。何で毎朝走っていかなきゃいけないのに僕なんかにかまってるんだ。もっと早く起きろよ。


「あ、戻ってきた」


 さっき去っていった花恋がなぜか猛スピードで戻ってきた。部活あるんじゃないの?


「言い忘れてたけど、私は昨日後輩君に告られたのだよ!つまり私はモテモテということなのさ!敬いたまえ、崇めたまえ。えっへん!」


 そういってドヤ顔をした花恋は胸を張った。


「いや、その話も気になるんだけどさ、朝練は「あぁ!やばい!怒られちゃう!じゃ!今度こそバイバイ!」・・・」


 僕が途中まで言うと、花恋はあわてて走り去っていく。いや、あの、せめてさ。最後まで言わせてくれてもいいんじゃないかな?


 ってか、花恋がついに告白されたのか。大勢の親衛隊がいる中で花恋に告白するなんて。そんな勇気があるやつがいたとは・・・。尊敬に値するな。まぁ、今日のうちに親衛隊にボコボコにされるだろうが・・・。ご愁傷様。勇気ある少年よ。


 それにしても、花恋が告白されたのか。まぁ、顔はかわいい部類だし、性格(という名の外面)も人当たりがよく、元気で活発な女の子って感じ出しモテ無いことはないと思うけど・・・。てか、結局返事どうしたんだろう。やっぱり OK出したのかな?ことあるごとに彼氏が欲しいって言ってたしなぁ。ちくしょう。まさか花恋に先を越されるなんて。親衛隊のせいでできるのは高校卒業した後だと思ってたのに・・・。


「告白か。されてみたいなぁ」


 何も考えずに、ふとそうつぶやいた。それと同時に右手が『何か』をつかむ。『何か』は乾ききったようにパサパサしていて、それでいてずしりと重たい。全身から汗が吹き出る。だって、僕はその感触を知っていたから。忘れるはずもない。つい昨日、僕自身が『それ』を廃棄しようと四苦八苦していたのだから。


「なん・・で?」


 僕の手には指を「一本」立てた木乃伊が、猿の手が握られていた。


「何で・・・」


 僕は木乃伊を鞄に押し込む。どうして僕の手元にあるのか。何で指が一本しか立っていないのか。そんなことが頭の中をぐるぐると回りだす。猿の手はどんな願いを叶えようとしているのか。


「どんな願いって・・・」


 そんなのひとつに決まってる。僕がさっき口にした独り言。「告白をされてみたい」というそんな青春真っ盛りな高校生なら一度は考えたことがあるんじゃないかというくらいにはありふれた、他愛のない願い。それを猿の手は聞き入れてしまった。


 曰く、それは本人の望まぬ形で。


 猿の手がどうやってその願いを叶えるのかはわからないが、それは最悪の形になるだろう。かといって、僕が猿の手に「さっきの願いを取り消す」ことを願って、その人、もしくは僕自身が死んでしまったら元も子もない。・・・。


せめて大嫌いな奴に告白されるくらいになってくれるといいんだけどなぁ。


 心の中の不安を誤魔化すようにそんなことを考えた





「起立、気をつけ。礼」


「「「さよならー」」」


 何の変哲もない時間が過ぎていった。学校にいる間は特に何か起こるなんてことはなく、帰りのHRが終わった。しかし、僕の中の不安はだんだんと大きくなっていく。


 学校内で起こる事件や事故はたかが知れているが、外となると話は変わってくる。最近は事故も多いようだし、何かの事件に巻き込まれる可能性もぐっと上がるからだ。


 そう考えた僕は挨拶が終わった後すぐに教室から駆け出した。早く家に着けば、何かに巻き込まれることはないと思ったからだ。家に向かう途中、僕は鞄の中を確認する。今日何度目かわからないこの行動に、僕は深いため息を吐いた。猿の手がないんじゃないかという淡い期待を込めて幾度となく確認しているのだが、木乃伊はその願いを嘲笑うようにそこに存在した。それでも信じたくないと、幻覚なのだはないかと手を伸ばしてみるのだが、掌から伝わるその感覚が、決して夢でないことを伝える。


「とにかく、急いで帰ろう」


 そう口に出してさっきよりも少し足早く帰路を駆ける。道路を照らす青い光が点滅し始めた。僕は色が変わる前に足を踏み出す。


「危ない!」


 何が?


 僕は半ば反射的に声の方を向いた。そんな僕の目に飛び込んできたのは、迫りくる大型トラック。居眠り運転でもしているのか、ブレーキを踏んでいる様子は無く、真っ直ぐに僕のほうに突っ込んでくる。その光景を前に、僕は動けずにいた。いや、動こうとはしたのだがどうにも足が固まってしまったかのように動かないのだ。


 もうだめだ。そう思った瞬間、僕は背中に衝撃を感じた。それは、何かがぶつかってきたときのような激しいものではなく、無理やり押し出されるような感覚。あまりにも突然のことで、何の抵抗もできずに僕はこけそうになりながら数歩前に進んだ。


 ぐしゃ


 様々な音が飛び交う中、何かが激突するような轟音とともにそんな音が妙にはっきりと僕の耳に届いた。


「キャーーー」


 誰かの叫び声が響き渡る。僕は何が起こったのかわからないが、とりあえず後ろを振り返った。そこには、電柱にぶつかって酷く凹んでしまった大型トラックと、その近くに転がっている一人の少女。


 僕はすぐにその少女に駆け寄る。これはなけなしの正義感とか、誰かに感謝されたいとかそんな気持ちからの行動じゃない。体が勝手に動いたのだ。というか、動かずにはいられなかったのだ。その少女に見覚えがあったから。


「花恋!」


 そこに横たわっているのは僕の幼馴染である花恋だった。彼女の腕は普段ならあり得ない方向に曲がっており、決して少なくない量の血を流している。


 僕は花恋のもとに着くと、彼女をそっと持ち上げた。目も当てられないような姿の彼女は荒い呼吸を繰り返す中、それでも苦渋の表情の中に笑みを見せた。


「昨日、一緒に帰ろ、って言ったじゃん」


「そんなこと言ってる場合じゃ!」


 僕は救急車を呼ぼうと、携帯を取り出す。しかし、血にまみれた手ではタブレット式の携帯電話をうまく操作することができなかった。僕はすぐに顔を上げて叫ぶ。


「誰か!誰か助けて!早く病院に!」


 必死に叫ぶ僕の目に飛び込んできたのは、動こうとしない、または面白半分に写真や動画を取っている人たちの姿。いや、実際には動こうとする者や、すでに行動を起こしている者もいたが、そんなものは視界に写ってはいなかった。


 なんでだよ。なんでこの状況でそんなことができるんだよ。こんなに必死で頼んでるのに。こんなに苦しそうなのになんでそんなに笑ってられんだよ。なんで誰も動いてくれないんだよ。なんで。なんで。なんでなんでなんでなんでなんで


「おちついて」


 そんな声ともに花恋のひんやりとした手が僕の頬に触れた。


「いつも、みたいに、クールでいなきゃ、ね?」


 途切れ途切れでそんな言葉を紡ぐ彼女は指で僕の目元を拭った。そのまま花恋は震える唇で言葉を紡ぎだした。


「もっと、いっしょに、いたかった、なー」


 やめてくれ。


「わたしね、じつはね」


 やめてくれ。その先は聞きたくない。


「ずっと、なーちゃんのこと、好きだったんだぁ」


 今だけは聞きたくなかった言葉が紡がれた。


「ぁ、ぁあ」


 今まで言われたいと思っていた言葉、しかし、今は、今だけは聞きたくなかった、言ってほしくなかった言葉。

 僕の、せいなのか。僕があんなことを願ったからなのか。僕が願わなければ、僕がもっと注意していれば、僕が逃げ出そうとなんてしなければ、こんなことにならなかったのか?彼女が僕を庇って轢かれることはなかったのか?



「十年前から、ずっと大好きでした」


 彼女はいままでに見たことないくらいに優しく、何よりもうれしそうな笑顔でそう言った。そして、僕の頬に置かれていた手から力が抜け、地面に落ちた。


「か、れん、花恋!」


 僕は静かになった花恋を揺さぶりながら声をかけ続ける。しかし、彼女は何も言わずにゆっくり、しかし確実に冷えて行く。


 ぴちゃ


 そんなとき、奴が現れた。真っ赤に染まる水たまりの上に、しかし汚れることもなく。ただ一本残った指を突き立てて。




「如何でしたでしょうか。今宵お出しした料理『猿の手」は」


「御口に合っていればよいのですが・・・」


「私共にできるのはここまででございます」


「後はお客様方にお任せするだけ」


「食材は殆ど用意させていただきましたので、残るはただ一つ」


「お客様の意志にございます」


「では、私はここで」





「またのお越しをお待ちしております」


オイふざけんな!

どこで切ってんだ糞野郎!

って思ってもらえたなら最高です。私の思い通りです。存分に悔しがってください。うぇーい。


すみません!怒らないでください!

長々とした物語ですが読んでくださった皆様に心からの感謝を。


すみません。読者さんに短編小説に詳しい方いらっしゃられましたら書き方を教えてください。

・・・もう部長にどやされたくないぃぃぃぃぃぃ!

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