辺境までの旅路
私は、第一王子であるアルベール様の向かいの席に座った。つまり私は真正面にアルベール様がいることとなり、その尊顔をしっかり見ることになった。しっかり見るのは、私が初めて王城に上がったとき以来だ。アルベール様はプラチナブロンズの髪を肩まで伸ばしており、白い肌と相まって儚さを纏った女神のように美しいかった。以前見たときは天使のようであったが成長して女神になったようだ。私はあまりの綺麗さにじっーと殿下を見つめてしまった。
「どうした? 私の顔に何かついているかな?」
私は、はっとして自分の行いを恥じた。
「いえ、特にそのようなことはありません」
「そう? じゃあ、話を戻すよ」
「はい、ではまず殿下が辺境にいくことが決まった経緯を教えてください」
「分かったよ、さっき話通り、ダニエルが即位するための布石だよ。君は我が国の貴族派閥がどのようになっているか知っているかい?」
「はい、貴族主義を提唱する貴族派、商人と協力して富国を目指す融和派、どちらでもない中立派であったと記憶しております」
「そうだね。で、今回私を辺境に送ることに暗躍したのが貴族派なんだ。僕は融和派に人気があったから危険視されてしまったんだ。僕も一度中央から離れたいと思っていたから渡に船ではあったけどね」
「そのようなことが……」
「ちなみに君が今回婚約破棄されたのも貴族派の策略でだよ。君の祖父はあのベルナール卿だ。貴族派としては、君を次期王妃にはしたくなかったんだ」
私は疑問に思っていたことを殿下に聞いいた
「では、なぜ私が第二王子の婚約者として選ばれたのでしょう? 他にももっと身分が高くふさわしい令嬢がいらっしゃったはずです」
「それは、王家側の思惑だよ。近年、王家の求心力が衰え貴族たちが好き放題やるようになった。だから、力をつけ始めた商人の力を使い経済で貴族を抑えようと考えたんだよ。つまり、君を王室に入れることで君の祖父の力を借りて貴族たちを抑えようとしたんだ。だけど、ダニエルは貴族派の家庭教師の教えにどっぷり浸かってしまった。残念極まりない」
アルベール様は残念な顔をしてそう言った。
「つまり、私が婚約破棄されたのは政治的思惑によるものであると言うことですか?」
「詰まるところそう言うことだね」
私は今まで抱えていた謎が解けスッキリした気持ちになった。
(そっか、商人の血が混じる私は第二王子にとっては侮蔑の対象だったのね。私のせいで嫌われていたわけじゃなかったのね)
私の心から完全に蟠りがなくなった。
「他には質問はあるかい?」
殿下は次にそのように聞いてきた。
「では、殿下は私ではなく私の祖父をつけるために、家から追い出される私を連れて行くことにしたということですか?」
私は気が緩んでいたせいか思ったことをそのまま口に出してしまった。
「っ、申し訳ありません! 余計なことを口に出してしまいました」
私は席を立ち勢いよく頭を下げた。するとタイミング悪く馬車は跳ねた。その拍子で私は殿下の方に倒れてしまった。殿下は私の肩を掴み私を支えた。殿下と私の顔はキスをしてしまいそうな距離にあった。殿下はずっと閉じていた目を開けた。初めて見る殿下の瞳は快晴の空のような綺麗な青色をしていた。私は見入ってしまったが、すぐに事態の深刻さに気づきいた。
「申し訳ありません!! このような無礼な振る舞いをしてしまい」
私は顔をリンゴと同じくらい赤らめて何とかそう言った。しかし、私は前世でも今世でもこれほど男性と顔を近づけた経験がなかったので、頭はパニック状態でもう何が何だか分からなくなった。頭がいっぱいいっぱいになって目が回るとはまさにこのような状態を言うのだろう。すると殿下はイタズラ顔をして目を回している私の耳元でささやいた。
「随分とウブだね。あれほど社交界では、悪女と噂されていたのに。実際はこんなにも純真だなんて、可愛いね」
私はその言葉の破壊力に止めを刺されて、完全に意識を外の世界に持っていかれてしまった。