その後
私は屋敷から戻ってからずっとぼーっとしていた。昨日は気を張り詰めていたせいか、寝る支度を済ませて瞳を閉じたら、眠っていた。
昨日のことは悪い夢だと思いたいが、カレンダーの日付けはしっかりと進んでいるようだ。アンナ達も私に気を使ってか朝から誰かが起こしに来ることもない。
私はただ平凡な幸せを手に入れたいだけなのになぜこのような事になってしまったのかと考える。しかし、いくら考えても理由がわからない。私は今まで誰か男性と外を歩いたこともないし、そもそも王城に行くときくらいしか屋敷を出ることのない私がどうしてそのような噂を立てられるのか全く以て検討がつかない。
あまりの理不尽な第二王子方の言い分に怒りと悲しみが募った。分からないことだけだ。なぜあれほど私を嫌うのか、さらにはなぜあの女の言うことを一方的に支持するのか。
そんなことを考えていると段々思いが爆発した。抑えきれない悲しみが私を襲い、私の目は涙で濡れていた。今になってようやく感情が追いついてきたみたいだ。
確かに第二王子と私は、毎月少し会うのだけの関係だったし、それほど仲良くなれた気はしていなかった。もちろん私は、第二王子と仲良くなれるように短い時間で色々な話題を振って王子の好みや好きなことを調べたりと努力をした。
しかし、その努力も実らずこのような結果になってしまった。この先何年も時間をかけて、私は少しずつ王子と仲良くなろうと思っていたが、それでは遅すぎたみたいだ。様々な感情が溢れて頭の中はぐちゃぐちゃになった。いくら冷静になろうとしても涙は止まらないし、第二王子ダニエルに対する負の感情は収まらない。
(私が何をしたと言うの!! なんでこんな仕打ちを受けないといけないの……)
私は、ベットの上で体を丸めで体育座りをした。前世でよくやっていた座り方だ。ここに生まれてからやっていなかった。私は膝に額をくっつけて私は大丈夫、私は大丈夫と何回も唱えた。
しばらくして涙が枯れたのか涙は出なくなった。さらに、頭も少しすっきりしていた。未だにダニエルに対する理不尽な行いに苛立ちを覚えるが、頭を切り替えることにした。それよりもこれからのことだ。私は、ダニエルに婚約破棄をされた。さらには、あのような悪評まで流されてしまった。この先私に良縁はあり得ないだろう。どこぞの年寄りの後妻がいいところであろう。私は、幸せな人生を送りたいと思っている。だけど、それは必ずしも誰かと結婚して子供を産む人生のことだけではないのだ。そう、何も結婚に囚われる必要はないのだ。このことに今なって気づき、私の心はスッーとさっきより軽くなった気がした。
(そうだ、私は例えどこかの貴族に嫁いだとしても、自由にやればいいだけだ。私ならやれる。いや、やってみせる!!)
私は心に固く誓った。
ノックの音がした。外を見ると暗くなっており、時間は夕方になっていたことに気づいた。私はどうやらかなりの時間考え込んでいたみたいだ。
「お嬢様、アンナでございます。お加減はよろしいでしょうか」
「えぇ、だいぶよくなったわ」
アンナはドアを開けて私の顔を伺った。
「それは、宜しゅうございました。急なことなのですが、奥様がお呼びでございます」
アンナは心配そうに私の顔を見た。
「分かったわ。案内して」
そうして、私はアンナについて行った。するとアンナは、何か覚悟を決めたように言った。
「お嬢様、何があっても、私はお嬢様の味方でございます。どこまでもお嬢様について参ります。どうかお独りだとは思わないでくださいませ」
「えぇ、分かったわ。ありがとう、アンナ。貴方はずっと私のメイドよ」
私は、アンナの思いを知りあまりにも嬉しく笑みが溢れてしまった。だが、彼女を私の茨の人生に連れて行きたくないとも思う。こんなに私を想ってくれる人がいると思うと胸が温かくなった。
そんな話をしていると私は母がいる部屋の前に着いた。