婚約破棄
王子達との出会いから、9年が経過した。私は相も変わらず、忙しく毎日を過ごした。まず、王妃教育が加わった。これは、王族付きの教師が派遣されてシュヴァリエ邸で行われた。この教師は典型的な貴族主義者であり、商人の血が混ざる私に強く当たった。さらに、私の他の勉強にも口出しお祖父様が送ってきた教師は全て排除された。そのため、9年間は憂鬱な日々であった。また、あれから第二王子殿下とは、月一で会うようになった。しかし、第二王子殿下の態度は依然として変わらず、毎回私が近況を話して終わるのがいつもの流れだった。そうこうしてあっという間にデビュタントの日が来た。
「はぁー、憂鬱だわ」
私はアンナにドレスの着付けをされながら、ため息をついた。
「お嬢様、ため息をつきますと幸せが逃げてしまいますよ。それに本日はお嬢様の晴れ舞台でございますよ。」
アンナは嬉しそうに私に言った。
「そうね、幸せが逃げちゃうわね。折角ここまで頑張って来たんだものしっかりとやらないといけないわね」
「その意気でございます。着付けが終わりました。では、馬車に向いましょう」
私は馬車へと向かった。本来であれば、第二王子殿下がエスコートをするためにいらっしゃる予定であった。しかし、急遽予定が入って第二王子殿下は来れなくてなり会場で合流することになったのだ。
私は、一人で馬車に乗り王城へと向かった。
(はぁ、最悪だわ。何でこんなことになってしまったのでしょう。上手くいかないことばかりで嫌になりそうだわ)
私はため息をついた。
馬車は、いつもの道をゆっくりと進んで行った。空は灰色がかった分厚い雲が覆っていた。それは私の気持ちを表しているかのようだった。夜会などは普通、パートナーを連れて入場するのだが、私は一人で入らなければいけない。それは、淑女にとってとても恥ずかしい行為なのだ。だから、私は憂鬱であった。
私の載っている馬車は、王城へ入りずらりと並ぶ他の馬車の最後尾について止まった。すると、御者が扉を開いた。
私は、御者の手を借り馬車を降りた。そして、私は王城に入場したのだった。私は、背筋を伸ばし完璧な淑女を演じ、堂々とした姿で歩く。しかし、そこら中から嘲笑が聞こえた。さらには、汚らわしいものをを見るような目線を多数感じた。まさに私は人寄せパンダだった。
私はこの状況を抜けだすために第二王子殿下を探した。しかし、会場中を探したが見つからず音楽が流れ始めた。夜会の始まりだ。すると第二王子殿下の声が聞こえた。
「クリスティーヌ・ド・シュヴァリエはどこにいる!!」
私は王子の所在が分かり、安堵して王子の方へ向かった。王子はホールの中心にいて、その隣には私と年の近い令嬢がいた。多分、今日デビューした令嬢だろう。私はなぜ王子の隣その令嬢がいるのか分からず困惑した。
「クリスティーヌ! お前のようなふしだらな女は私の隣に相応しくない!!」
王子の声がホールに響き渡った。
「……第二王子殿下、どういうことでございますか?」
「私が何も知らないとでも思ったのか! お前が男を取っ替え引っ換えしていることは聞いている!! 私は最初から思っていたのだ。お前のような下賤な者に王妃が務まるはずがないと」
王子は私を蔑む目で見ていた。周りからは、拍手が鳴り響き王子の意見が正しいと言わんばかりの様相を呈している。私は慌てて不名誉な事実を否定した。
「そのような事実はありません!!」
「嘘をつくな!! 私の新しい婚約者であるアリスが私を思ってこの事実を教えてくれたのだ。全て裏はとれている。今更何を言おうと意味はない!」
王子は確信を持っているようだ。その隣の令嬢は、私を小馬鹿にした表情をしている。私はどうしたらいいか分からず混乱していた。すると
「衛兵!! この者を追い出せ! この場に相応しくない」
すると衛兵は乱暴に私を掴み会場の外に出した。私は会場の外で呆然とした。全てが急なことであり、私には理解できないことばかりで頭が混乱しているせいか怒りも湧いてこなかった。
私は、ここにいても仕方がないと冷静に徹しながら判断し馬車に乗ってシュヴァリエ邸に戻った。