アルべール様との昼食
「殿下。用意が整いました。ただいまよりこちらの馬車にお運びいたします」
と殿下の執事がそう言ってすぐに馬車の戸を閉めて料理を取りに行った。私は馬車で食事をすると聞いて疑問が浮かんだ。馬車は座る場所くらいしかなくランチをするためのテーブルなんてものは入る空間がないのだ。どのように食事を取るのかと不思議に思った。するとすぐにさっきの執事は料理を蓋付きのシルバートレイを持って馬車に入ってきた。
「お持ちいたしました。殿下、クリスティーヌ様失礼しいたします」
その執事はシルバートレイがギリギリ載せることができるような華奢なテーブルをどこからか取り出し、その上にトレイを置いた。そしてフタを開けた。すると中にはサンドウィッチがあったのだ。私は思わず声を出してしまった。
「! これは……」
「その反応を見るとクリスは食べたことがないみたいだね。これはサンドウィッチという食べ物だよ。僕は目が見えないから、普通の食事を一人でできないんだ。だから、僕の執事であるアンドレがこの料理を作ってくれたんだ」
殿下は私は初めて見る料理で驚いたと勘違いしてその料理について話した。そして、殿下は何かに気付いたようで、
「そういえば、僕の執事のアンドレとは挨拶してなかったね。君を連れてくるときすぐに馬車の中に乗せちゃったから紹介し損ねていたよ。アンドレ」
と言うと執事のアンドレは一礼して
「お初にお目にかかります。クリスティーヌ様。今後ともよろしくお願いいたします」
とだけ言ってすぐに馬車を出て行った。少し冷たい感じだった。
「ごめんね。いつもはあんな風じゃないんだけど……」
殿下が申し訳なさそうにそう言った。
「いえ、お気になさらないでください。それよりもこのサンドウィッチを食べましょう」
私はそんなことより、早くサンドウィッチを食べたかった。
「クリスは食いしん坊なのかな? じゃあ、さっそく食べようか」
殿下は私を見て微笑んだ。私は殿下の失礼な発言を訂正するよりすぐに食べたいという気持ちが勝ち食いしん坊という不名誉な汚名を甘んじて受け入れて、すぐにサンドウィッチを口に含んだ。前世ぶりのまともな食事の味に涙が溢れた。そう、久しぶりに美味しいという感覚を覚えたのだ。私が声を抑えて泣いていると、殿下は私の咽び泣く声が聞こえたのかハンカチを取り出し涙を拭いてくれた。
「いきなり、泣いてすみません。あまりにも美味しかったもので涙が出てしまいました」
「そうかい? いきなり泣いてびっくりしたよ。でもその気持ちは僕もわかるかな。僕もこの料理に感動したのを覚えているよ。僕はそれまで人に食べさしてもらうしかなかった。だけど、このサンドウィッチなら自分で食べることができる。とても嬉しかったよ、それこそ君のように泣いてしまいそうになるほど」
殿下は昔を懐かしむようにそう言った。殿下にとってこの料理は思い出深いもののようだ。私は一つ一つ大事に噛み締めてサンドウィッチを食べた。