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第十三章その5 ポジション決定!

「アジアン3人組、全員なかなかスジが良いな」


 ミニゲーム後のミーティングで、ひとりひとりキャプテンから講評が述べられる。正規のポジションを勝ち取った者、補欠として選ばれる者、力を発揮できず部から外されるものなど様々だ。


 見た通り正直な感想なので辛辣な表現も時折含まれるが、その中でも俺たち3人はかなり高評価をいただけた。


「和久田はランニング能力とパスのスピードが抜きん出ている。身体は小さいのでフィジカルコンタクトになると弱いが、試合での貢献でいくらでも埋められる。スクラムハーフで決まりだ」


「ありがとうございます」


 2メートルの高さから見下ろされながら話しかけられるのはなかなかに威圧感があるだろう、和久田君はぴんと背筋を伸ばしながら声をうわずらせて答えた。彼は今現在身長は170cmあるかないかといったところで日本人の中学生として考えれば大きい方だが、このラグビー部の中ではかなり小柄な部類だ。


「キムは身体が強くどんな場面でも対応できる。中でも一番目を惹くのは強烈なタックルだ、フランカーにピッタリだな」


「はい、頑張ります!」


 希望通りのポジションに選ばれたことに喜んでか、キムは小さく拳を握りしめた。


 フランカーとはフォワードの一種で、スクラム最後尾の3列目で両端を任される。


 スクラムの中でも周りが良く見えて飛び出しやすい位置にあるため、敵がボールを持ったら真っ先に突っ込んで行ったり、味方がボールを持てば即座にサポートをすることが求められる。相手を押し倒すタックル力に、走り続ける持久力と、役割分担の進んだラグビーの中でも特に多くの能力が求められるポジションだ。


「そして小森、お前は体格と腕力からプロップで決定なのだが……希望は右だったな」


「はい」


 歯切れの悪いキャプテンの言葉に、俺は不安を覚えながらも頷いて返した。


 体重がチームで最も重かった俺は小学校の頃から右プロップを務めていた。中学でもそれは変わらず、大会でも最初から最後まで最前列の右を任されていた。


「このチームでは左プロップを務めてもらう。できるか?」


 まさかのポジションチェンジ。一瞬返事が遅れたものの、俺は「は、はい!」と了承した。


 ただこの結果はなんとなく予想がついていた。というのも入部希望者にはもうひとり、プロップの有力選手がいるからだ。


「右は任せたぞ、ニカウ」


「はいキャプテン」


 名前を呼ばれたのは浅黒い肌に黒い髪の、マオリ族の特徴を濃く醸し出す少年だった。


 175cmはあろう身長に、丸太のような腕と木の幹のような腿。それらがきれいにバランス良く全身にそろった、力士を彷彿させる立派な体格。体重なら俺を上回っているかもしれない。


「よろしくねぇ」


 ミーティング終了後、関取のような体格のニカウが俺に手を伸ばした。


 のんびりとした話し方。しかし彼が歩くと、一歩ごとに地面が揺れるようだ。


「うん、よろしく」


 俺は手を伸ばし返し、これから一緒に戦うことになる仲間と握手を交わした。希望が通らなかったのはちょっと悔しいが、この強力メンバーで正規の部員に選ばれたのなら十分だろう。


 そもそも右プロップは体重が重ければ重いほど有利なポジション、俺以上の体格を誇る彼を配置したところで誰も文句は言えない。


 フォワード最前列の左右を担当するプロップだが、同じ押し合い担当であってもその左側と右側は勝手が異なる。


 スクラムは自分から見て相手の左側に頭を入れて押し合うことになるため、左プロップは右肩だけなのに対し、右プロップは両肩が相手と接触するのだ。ゆえに左は中途半端な姿勢から押し込める体幹の強さと強靱な足腰、右はふたりを相手にして押し負けない踏ん張りと体重が必要になる。


「僕、昔っから『ヨコヅナ』って呼ばれてたんだぁ。だからそう呼んでくれたら嬉しいよ」


 俺と和久田君はそろって吹き出した。たしかにピッタリすぎるあだ名だな。


「詳しい意味は知らないけど、日本ではすごく名誉な称号なんだってねぇ」


 正直に教えようか?


 俺がアイコンタクトで和久田君に尋ねると、彼は首を横に振った。




 帰り道、俺たちアジアン3人組はニカウも誘って4人でいつものバーガーショップへと立ち寄った。


「いやぁ、今のニュージーランドは強いからねぇ。でもオーストラリアに1トライ差で食らいついてた日本なら、いつか優勝もできると思うよ」


 ヨコヅナことニカウが持つと、ビッグサイズのバーガーもミニチュアの玩具に見えてしまう。


 そんな彼も昨年のワールドカップはしっかりテレビで視聴していたようで、ニュージーランドが2大会ぶりに優勝した時には深夜にも関わらず大絶叫して家の外に飛び出したそうだ。そうしたら他の家からも同じように住民が飛び出して大歓声を上げていたというのは、ラグビー大好き国家らしい光景だろう。


「次の大会の抽選会は11月だったかな。どういう組み合わせになるか楽しみだね」


 和久田君がストローでアイスコーヒーを飲みながら話した。最近はここのコーヒーがマイブームらしい。


 2027年大会はアルゼンチンで開催される。初めての南米開催とあって、近隣諸国でのラグビー普及に期待がかかっている。


「組み合わせと言えば、新しくどこの国が出てくるかも見ておかないとな。どこの国も必死だから」


 キムがぼうっと天井を見上げて呟く。


 2027年大会は以前も説明した通り、24か国が出場する。2023年大会の上位12か国は予選を免除されるので、下記の国々は出場がすでに確定している。


 2023年フランス大会結果

 優勝 ニュージーランド

 準優勝 オーストラリア

 3位 南アフリカ

 4位 アイルランド

 ベスト8 フランス 日本 イングランド ウェールズ

 各グループ3位 フィジー アルゼンチン スコットランド イタリア


 ここに南太平洋の強豪トンガとサモア。ヨーロッパで安定した強さを見せるジョージアとルーマニア。そしてアメリカ、カナダ、ウルグアイ、ナミビアら常連組は当然出場するものとして、残る4か国の枠にどこが食い込むかで世界のラグビーファンは激しい議論を交わしていた。


 ヨーロッパの候補はやはり2番手グループの一員で過去の大会で出場経験もあるスペイン、ポルトガル、ロシアあたりが有力だ。少し実力は落ちるがベルギーやオランダといった国々も侮れない。


 南米もかなりの激戦区だ。ブラジル、チリ、コロンビアは実力が拮抗しており、どこが上がってきてもおかしくはない。


 アフリカでもジンバブエ、ケニアは出場を狙える位置にあり、コートジボワールも久々の出場のため強化を進めている。


 そしてもう1枠増えると噂されているアジア枠。順当にいけば韓国か香港か、大穴でフィリピンかマレーシアか。キムにとっては気が気でならないトピックだろう。


 ともかく今まで実力差のためにワールドカップ出場が遠かった国々にとって、今回の増枠はまたとないチャンスだ。ワールドカップ出場を契機に国内での競技人口を増やそうと、各国のラグビー協会は躍起になっていた。


「にしてもあのキャプテン、すごい身長だったねぇ。まだ16歳であれって、なかなかいないよ」


 ニカウが思い出したように話す。やはりニュージーランドでもあのサイズは規格外らしい。


「ああ、韓国でもあんな高校生はいなかったな」


「日本にもいないよ。そもそもあそこまで背が高かったら、ラグビーより先にバスケやってる」


 大抵の日本人に身長が有利になるスポーツと訊いたら、バスケかバレーと答えるだろうな。ラグビーでもロックというスクラム2列目のポジションは長身の選手が有利になるが、それを知っているならかなりのラグビー通だろう。


「お前らプロップだろ? ラインアウトではあの2メートル級のを持ち上げないといけないから、せいぜい鍛えておけよ」


「うわ、手滑らせたら殺されるな。2メートルの高さから振り下ろされるゲンコツだ」


「それほとんど隕石だよぉ」


 ここで俺たちは一斉に笑い声をあげた。


 日本を出る前は少なからず不安もあったが、このメンバーならここでも楽しくラグビーをプレーできそうだ。

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