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第十三章その3 世界のラグビー仲間

 ニュージーランドにやって来てからしばらくの間、俺はアイリーンらウィリアムズ家の皆さんにオークランド市内各地を案内してもらいながら現地のマナーやルールを教えてもらった。


 そして数日後、とうとう初めての登校を迎える。


「広い……」


 自然公園のように広大な敷地。そこに聳えるレンガ造りの校舎はどれもこれも歴史を感じさせる趣きがあり、それが何棟も連なっている。


 オークランドゼネラルハイスクールは、まるでひとつの巨大なお城のようだった。


「ラグビークラスの授業はだいたいこの校舎で行われるわ。じゃあ、頑張ってね!」


 いっしょに登校してくれたアイリーンは足取り軽く自分のクラスへと向かう。久しぶりに友達と会えるのが楽しみなのだろう。


 入学式は行われず、いきなり授業が始まるのがニュージーランド式だ。またクラスごとに決まった教室も用意されておらず、生徒が授業の度に講義室を移動するという大学に似たシステムになっている。自由に使えるのは生徒各自に割り当てられるロッカーだけだ。


「ええと、俺の名前は……」


 ロッカールームで自分のロッカーを探している時のことだった。


「小森君!」


 しばらく振りに聞く日本語に、俺は思わずびくっと身体を震わせてしまった。


 顔を向けると、がっしりとした体格の黒目黒髪の少年がひとり、手を振ってこちらに小走りで近付いてきている。


「和久田君、久しぶり!」


 小倉南のスクラムハーフ、和久田君だ。久々の再会に俺は両手を振って返した。


「だいたい1年ぶりくらいかな?」


 自分もニュージーランドに行く。去年の全国大会でそう宣言した通り、彼は英語を猛勉強してニュージーランド留学を実現させた。


 俺が関東ラグビー協会を通して推薦されたプログラムと同じものを申し込んだそうで、和久田君も俺と同様4、5年かけてこの学校のラグビーコース卒業を目指すことになる。


 ただ、いくらラグビーを目的にした留学であっても俺たちはまだ13歳の子供、ラグビーばかりやっていていいわけではない。学校の普通の授業にももちろん参加しなくてはならないのだ。


 しかしここはニュージーランド、理科も歴史も当然、英語で授業が進められる。習ったことのない単語や固有名詞が頻繁に登場するので、少しでも授業を聞き逃すと訳が分からなくなるのは辛い。留学生向けの英語の授業も用意されているが、そこでも日常の会話はできて当たり前で、作文やことわざなどより高度な英語の使い方を身に着けていく。


 意外かもしれないが、1番面白いと感じたのは数学だった。なぜかと言うと、この教科だけはたとえ英語がわからなくとも何を言っているのか意味がちゃんと通じるからだ。数学は世界共通の言語だとどっかの超大物芸人が言ってた気がするが、まさにその通りだった。


 そしていよいよお待ちかね、ラグビー実技の授業の時間になる。


 授業の行われる校内併設のコートに出ると、すでに30人ほどのラグビークラスの新入生たちが各自ストレッチやランで体を温めていた。


 本校のラグビークラスには留学生も多く、アングロサクソン系や先住民系以外にもアフリカ系、ラテン系など様々な生徒が世界各地から集まっている。


「みんな、授業を始めるぞ」


 コートに現れた50過ぎくらいだが太い腕と腿の筋肉が逞しい白人男性が声を上げると、ばらけていた生徒たちは一瞬でひとつにまとまった。


「初めまして。ラグビークラスの実技授業を担当するオースティンだ」


 男性は挨拶もほどほどに、早速俺たちにランパス練習を行わせた。


 さすがラグビーをするために集まった生徒たち、どの子のパスも鋭く、素早く、受け手としての力量も高く、多少コースを外れても何てこと無いようにキャッチしてしまう。


 何本もランパスを繰り返していく中、俺はこのラグビークラスでは珍しいアジア系の、マッシュルームカットが特徴的な少年とボールを投げ合う機会があった。


 体格勝負のラグビーでは、小柄で線の細いアジア系はどうしても不利になる。だがこの少年は俺と同い年のはずなのに身長がもう180cm近くあり、太く逞しい骨格の持ち主であることがうかがい知れる。筋肉質な身体から生まれるパスは球威も強く、キャッチしたこちらの手がひりひりと痛みを感じるほどだ。


 その後のタックル練習でも、その少年は周囲を驚かせた。タックルバッグを持った俺よりも身体のでかい選手を、なんと一度のタックルで押し倒してしまったのだ。


 その時のドスンという鈍い音。軽自動車が事故でも起こしたのかと思ったくらいだ。


「君、強いね」


 別の選手のタックルを受けるべく隣でタックルバッグを構えていた俺は思わず目を奪われてしまい、彼に話しかけた。


「サンキュー、タックルは誰にも負けない自信あるからな」


 少年は屈託ない笑顔で答えた。


「僕は小森太一、日本から来たよ。君は?」


「俺はキム・シノ。韓国のソウルから」




 全ての授業が終わった後、俺と和久田君、そしてキムの3人は近くのバーガーショップへ立ち寄った。


 ニュージーランドでもハンバーガーは大人気で、素材にこだわったローカルなチェーンも広く普及している。多種多様な民族が共生するお国柄らしく、牛肉だけでなくラム肉のバーガーやベジタリアン向けのメニューも用意されているのは驚かされた。


「韓国ではラグビーやってるって言っても何それって感じで寂しい。いつか韓国代表としてワールドカップに出て、みんなにラグビーのおもしろさを知ってもらうのが俺の夢なんだ」


 ポテトフライを食べながらキムが意気込む。


 日本では人気の高まりつつあるラグビーだが、アジア全体での知名度は正直なところ低いと表現するしかない。


 かつては日本代表と韓国代表がアジアの頂点を争っていたものの、2000年代前半からは日本の一強状態が続いている。ワールドカップでもアジア代表枠がひとつ設けられているが、第一回大会からずっと日本が出場枠を独占し続けていることから他国との差は一目瞭然だろう。


 とはいえ韓国代表には海外の強豪チームに所属する選手も多く在籍しており、日本のRリーグでも韓国出身選手の活躍が目立つ。世界ランキングで見てもワールドカップ出場は十分狙える位置につけているので、強豪国になり得るポテンシャルは十分に秘めているだろう。


 俺の記憶が正しければ、2027年大会からワールドカップ出場国が24か国に増えたことで、アジア枠がもう1か国分増枠した。そこで韓国がアジア最終予選で香港との激闘を制し、初出場を叶えたことを覚えている。


「叶うよ、きっと」


 俺はビッグサイズのバーガーを頬張りながら頷いた。


 競技の普及とともに世界のレベルは確実に上がっていく。日本もうかうかしてはいられない。実際に前の人生で、順調に強化が進むアメリカやロシアに追い抜かれていく様を見ているのだから。


「もちろんキムもラグビー部に入るよね?」


「当たり前だろ。ラグビー部の入部受け付けが始まったら、すぐに行かないとな」


「そのことなんだけど、ラグビー部はいつも希望者が多いから入部テストがあるみたいだよ」


 コーラをすすっていた和久田君の一言に、俺とキムは「え?」と目を丸めた。


「入部テスト?」


「うん、しかもかなりレベル高いみたい。ラグビーコースじゃない生徒でも、とんでもなく強い子がいたりするみたいだから」


 なんだよそれ、土俵に上がる前に選別されるってことかよ。


 ラグビーのため留学に来てるのに、ここで落ちたら何のために来たんだってなるわな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 日本だとスポーツ系でも部活の参加人数に制限はないですが、外国だと入部テストによる制限が普通にあるようですからね。 しかしここで落ちたら話が終了してしまうw
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