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第十二章その6 さらば2023

 2023年ももうすぐ終わろうという12月のこと。


「はあ、もうお前と練習できるのも最後かと思うと寂しいよ」


「小森、絶対負けんじゃねえぞ」


 練習を終えた俺と浜崎、チアゴの3人は近くのラーメン屋のカウンターに並んで座り、海苔とほうれん草、メンマにチャーシューの盛りつけられたラーメンをずずずとすすっていた。


 横浜家系ラーメンの定番と言えるトッピング。原点にして頂点とはまさにこのこと、ラグビー馬鹿の中学生なら大盛2杯くらい余裕で平らげてしまう。


 中学に入ってからも、俺は金沢スクールでラグビーを続けた。


 中学世代では西川君や安藤、石井君のように中学のラグビー部に専念する子も多い。大会も部活とスクールでは別のレギュレーションで行われるため、小学校ほどトップクラスがひとつに集まるわけではないのが実情だ。これは学校のサッカー部と、Jリーグのユース世代の関係にも似ている。


 とはいえやはりまだ中学1年でも上にいけるほどラグビーの世界は甘くない。3年生主体のメンバーを組んだ金沢スクールは、関東大会で全国出場をギリギリ逃してしまったのだった。


 中学は男子が成長期を迎え、急激に身長を伸ばす子も多い。3年生にもなれば俺の体格を上回る選手も珍しくなく、俺はまだまだ三下であることを痛感させられた。


「ワールドカップ、お前の出る日を待ってるからな」


 すっかり空っぽになったどんぶりをカウンターに置き、2杯目を待っていた浜崎が俺に話しかける。


「何言ってんだよ、浜崎もチアゴも出ようよ。いっしょに日本代表入ろうぜ」


「それなんだけど俺、中学卒業したらブラジルに帰るんだ」


 麺をすすっていたチアゴが突如ぼそっと言い放ち、俺と浜崎は「ええっ!?」と叫んだ。店内の客の視線が一気に注がれる。


「父さんがブラジルの工場に呼ばれててさ。なんか偉い役職に就けるらしい。母さんもついていくみたいだから、俺もそうしようと思う」


 まさかの告白に俺も浜崎も固まってしまい、言い返したくても口が動かなかった。ラーメン屋でそんな大暴露して、お前平気なのか?


 そんな俺たちのことなどまるで意に介さず、チアゴはこちらを向く。その眼には決意の炎が宿っていた。


「でもラグビーは続けるよ。俺、ブラジル代表をワールドカップに出場させるってのを目標にしてるからよ」


 チアゴの母国であるブラジルは、ワールドカップ出場経験はまだ無いものの、近年急激に力をつけている。


 南米においてラグビー人気はサッカーの後塵を拝しているが、アルゼンチンやウルグアイなど強豪に成長した国も多い。最近は世界ランキングでもブラジルとチリがワールドカップ出場を狙える位置にまで上がってきている。


 ちなみにこの2023年はフランスでワールドカップの開かれた年でもある。


 前回大会で加熱したラグビー人気は今年も再燃し、遠くフランスで戦う桜の戦士たちを応援せんと日本中が熱狂に包まれた。


 グループリーグの結果は以下の通りで、日本は見事グループ2位に入り決勝トーナメントに進出した。


 グループA順位

 1 イングランド

 2 フランス

 3 フィジー

 4 ジョージア

 5 ロシア


 グループB順位

 1 ニュージーランド

 2 アイルランド

 3 アルゼンチン

 4 アメリカ

 5 スペイン


 グループC順位

 1 オーストラリア

 2 南アフリカ

 3 スコットランド

 4 サモア

 5 ウルグアイ


 グループD順位

 1 ウェールズ

 2 日本

 3 イタリア

 4 トンガ

 5 ナミビア


 しかし決勝トーナメントでは南半球の強豪オーストラリアに力負けを喫してしまい、またしても決勝トーナメント初の1勝はおあずけになってしまったのだった。ニュージーランドは前回逃した優勝を奪還し、ラグビー王国としての誇りを世界に見せつけた結果となった。


 決勝トーナメント結果

 優勝 ニュージーランド

 準優勝 オーストラリア

 3位 南アフリカ

 4位 アイルランド

 ベスト8 フランス 日本 イングランド ウェールズ


 とはいえ日本にとっては初の他国開催での決勝トーナメント進出とまずまずの結果だろう。世界ランキングも8位以内から陥落することは無かったので、実質的にティア1の仲間入りを果たしたと言ってよい。


 そして一番嬉しいのが、来年2024年夏から南半球6か国対抗戦に正式に参加できるようになったことだ。


 これまではニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、アルゼンチンの南半球4か国で行われていたザ・ラグビーチャンピオンシップに日本とフィジーを加え、6か国での対抗戦が毎年開催される。


 毎年冬の欧州最強を決定するシックス・ネイションズに対して南半球最強を決める戦いに日本も参戦することで、世界から日本がラグビー一流国であると認められるのだ。


「ああ、お前がキャプテンのブラジル代表に、100対0で勝ってやるよ」


 やっぱりチアゴはチアゴだ。俺はそう言ってやると、チアゴは「バーカ」と悪態で返した。


「そりゃこっちのセリフだ、ブラジルの人口どれだけいると思ってんだよ。最強タレント軍団作ってやるわい」




 仲間との最後のラーメンを終えた帰り道。ポケットでスマホがブブブと振動した。


「お、南さんからだ」


 取り出して画面をタップすると、SNSのメッセージが表示される。


『クリスマス前、予定空いてる?』


 あー、これはまた横浜駅の近くで買い物に付き合わされるパターンかな?


「空いてるよ、と」


 立ち止まった俺はすぐに返信を送る。


 もう日本を出るまで1か月を切っている。せめて残りわずかな間は日本のみんなといっしょに過ごしたいものだ。

このエピソードで第二部は終了とさせていただきます。

次回、一度ふりかえりの登場人物紹介を掲載しますが、そこからは第三部のプロットを組むために数日間投稿を中断させていただきます。


普段から応援してくださる読者の皆様にはご迷惑おかけしますが、何卒よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「お、南さんからだ」 結局、恋人を「亜希奈」と呼べないヘタレの小森くんw
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