表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/276

第八章その6 VS最強フィジカル軍団

 翌日、練習試合2日目。


 俺たちは入念にパス練習や、サインの確認を行った。何せ大柄なメンバーで固めた福岡代表小倉南との一戦だ、激戦になることは間違いない。


 今日のスタメンは現時点でのうちの最強布陣だ。5年生はプロップの串田君だけで、他は全員6年生で組まれている。当然相手もガチのメンバー、現時点での本気の勝負というわけだ。


 試合開始早々、俺の嫌な予感は的中した。


 俺がボールを持って突破を図るも、相手は体重を乗せた鋭いタックルで簡単に押し倒してしまう。メンバーの内ひとりやふたりならともかく、全員がここまで強靱だと足の遅い俺はどのコースを走っても止められるしかない。


 体重とパワーでとにかく前に進むのが俺のプレースタイルだが、それは相手が自分より体格の劣る場合に使える戦い方。相手も自分と同じ体格自慢だと、アドバンテージがまるで活かせないのだ。


 前半13分過ぎ、コートのほぼ中央にいた俺の手元にボールがパスされる。目の前には2人の敵選手。俺のボールを奪わんと、まっすぐに走り込んでくる。


「小森君、こっち!」


 呼んだのは小柄なスクラムハーフの安藤君だった。彼は俺のほぼ真後ろでボールを受け止めんと両腕を広げている。


 俺は急いで安藤君にボールを投げた。それをキャッチした安藤君は、身を屈めた姿勢ですっと右斜め前へと走り出す。


 敵選手はターゲットを俺から138cmの彼に切り替え、地面を鳴らしながら駆け寄った。まるで小人を襲う巨人のようだ。


 だが安藤君は相手をギリギリまでひきつけると、すっと左方向に素早くパスを飛ばしたのだった。


 ライフル弾のように回転しながら空を切り裂く鋭いパスは、タッチラインギリギリまでまっすぐに伸びる。それを見越したように最後尾から駆け上がって受け止めたのは、我らがエース西川君だった。


 急に大きく揺さぶられ、さすがの小倉南の守備陣も対応が遅れる。薄くなった守りを西川君は難なく抜けると、そのまま誰もいない芝の上を独走したのだった。


「もらった!」


 金沢スクールの誰もがトライを確信し、にわかに沸き立つ。


 だがその時だった。走り抜ける西川君に怒涛の勢いで駆けつけ、強烈なタックルを叩き込んだ選手がいたのだ。


 大型スクラムハーフの和久田君だった。西川君より大柄でありながら、スプリントで追いついて止めてしまったのだ。


 さすがの西川君も自分より身体の大きな相手では体勢を維持できず、タッチラインの外に突き出される。


「おいおい、何だよあのスクラムハーフ!?」


 コート外の観客も同じくどよめいた。常識を逸脱した和久田君の身体能力に、誰もが驚きを隠せなかった。


 さて、西川君がボールを抱えたままタッチの外に出てしまったので、この場合は相手ボールでのラインアウトから再開となる。


 コートの外から投げ入れられたボールを受け取った相手フォワード。俺は押し倒してボールを奪うべく、そこに素早くタックルを入れた。


 だがそこでぐらついた仲間を支えんと別の敵フォワードが背中を押した。ここで立ったままの密集、モールが完成した。


 モールだと!? これはまずい!


 俺は力を入れて踏ん張るも、ふたりがかりでは押し返される一方。さらに後方には次から次へと重量級選手たちが密集に加わり、それが一塊になってぐいぐいと押し込んでくるのだ。その最後尾にはボールを抱えた和久田君が「もっと右!」と指示しながら効果的に密集を移動させる。


 俺の後ろから金沢のメンバーが加勢するも、大柄な選手で一気に押してくる小倉南にはまるで歯が立たなかった。


 モールの形成中は横からボールを奪いにタックルを入れると、オフサイドの反則を取られてしまう。一旦この状態になると後ろからこの密集に参加し、敵を押し返すか崩すかするまで止められないのだ。


 ついに俺たちは自陣深くまで押し戻される。そしてモール形成のため守りの薄くなったところを見計らい、和久田君は別選手にパスを送った。


 ボールを受け取ったウイングの選手は誰もいなくなったコートを走り抜け、余裕でトライを決める。


「くそ!」


 いっしょに密集に加わっていた西川君が吐き捨てた。ここまで一方的に押し込まれたのは、俺にとっても彼にとっても初めてだった。




 試合も残り時間わずか。俺たちは既に3つのトライを奪われていた。


 一方のこちらの得点は未だゼロ。金沢の敗北は確定的だった。


 だがせめて一矢、報いたい!


 最後の攻撃というこの時間に、幸運にも俺の手元にボールが渡る。目の前の守備は薄く、なんとか切り抜けられるかもしれない。


 俺はもう考えるのをやめた。残り時間とか、味方がどこにいるかとかあらゆる情報をシャットアウトして、残る力全てを太い二本の脚に込めてひたすら前に進んだ。


 チャンスは今しかない!


 そしてあと少しでゴールラインというまさにその時、俺の腰に強い衝撃が走った。素早く反応した和久田君が、タックルを入れてきたのだ!


 俺はただ踏ん張った。見たところ和久田君は体重70キロくらいだろうが、こちらは95キロ、耐えられないことは無い!


 そして俺はなんとか倒されなかった。タックルの入りが甘かったというラッキーもあったが、このチャンスを活かさない術はない!


 俺は全身の力を両脚に注ぎ、一歩、二歩と前に進んだ。バインドする和久田君の身体をずるずると引きずる。観客からは信じられないと言った驚きと歓声が同時に起こった。


 そしてトライ! ゴールラインの上に倒れ込んだ俺は、そのままボールを地面に叩き込んだのだった。


 同時に試合終了のホイッスルが響き、全身の力を使い果たした俺は芝の上に倒れ込んだまま仰向けになってぜえぜえと新鮮な空気を肺に送っていた。 


「小森、よくやったぞ!」


 浜崎が駆け寄って手を伸ばすも、その手を握り返す気力さえ湧かない。火事場のクソ力でなんとかねじ込んだトライだ、こんなの繰り返していると本気で死んでしまう。


「くそ!」


「ここまで差があるのか」


 コートでは金沢のメンバーがあちこちで悔しがっている。鬼頭君世代が抜けたばかりとはいえ……これほどの完敗はさすがに堪えたようだ。


 その後、本郷との試合でも小倉南は勝利を収め、2日間に渡っての練習試合はすべて終わった。


 最終的な順位は以下の通り、小倉南の全勝での優勝となった。


1位 小倉南スクール(3勝)

2位 門真スクール(1勝1敗1分)

3位 金沢スクール(1勝1敗1分)

4位 本郷スクール(3敗)


 門真はトライの本数で金沢を上回っていたため、勝敗は同じでも順位が上になっている。


 今ひとつ振るわない結果に落胆して帰宅する金沢の面々。


「小森」


 夕焼けに染まる海岸通りを歩いている時のことだった。隣をずっと神妙な面持ちで歩いていた西川君が、話しかけてきたのだ。


「受験期間中はさすがの俺もラグビーはできない、参加できるのは関東大会のセカンドステージからだ」


 やはり彼にとっても心配のタネはそこだった。受験のためにスポーツを一時的に中断する小学生は多い。仕方ないとはいえ、チームにとって戦力ダウンは避けられないのだ。


「金沢にとってはお前が頼りだ。何が何でも、勝ち進んでくれよ」


 西川君はそう言うと拳を突き出した。俺はその拳に握り拳を当てると、「もちろん」と頷いて返した。


「ああ、そして全国できっちり借りをかえしてやろうぜ!」




 ゴールデンウィークが過ぎ去り、初夏の爽やかな空気もいよいよ夏の暑さを帯び始める。


 普段はラグビーに専念する俺たちだが、ここ最近6年生はやたらと浮足立っていた。


 5月末は修学旅行だ。何を買うのか、何を食べるのか、誰と一緒に自由行動するのか、楽しみで誰しもが興奮を抑えられないでいた。


 そんなある日、スクールの練習中に俺はコーチにひとり更衣室に呼び出された。


「小森、お前これからラグビーはどう続けていくか考えているか?」


「はい、中学にラグビー部が無いので、金沢スクールで続けていこうと思います。高校はどこに行くかなんてまだ考えていませんが、ラグビー部のあるところに行きたいなって思っています」


「そうか、ラグビーをこれからも続けていきたいんだな……」


 はきはきと答える俺に、コーチは頭を掻いた。え、何この空気。不穏な話はよしてほしいんだけど……。


「小森、覚えてるかな? この前の練習試合、関東ラグビー協会の役員も来てただろ?」


「はい」


「あの視察の目的なんだがな、実は……お前なんだよ」


 思いもよらぬ発言に、「へ?」と絶句する。協会のお偉いさんが、なぜこんなデブを見に?


「日本ではお前ほどの大型フォワードは珍しい。将来お前はもっと大きくなるだろうが、そこまでの育成のノウハウが日本のジュニアクラスではまだ十分とは言えない。そこでだ」


 茫然とする俺を尻目に、コーチは一枚の紙を取り出した。


 そこには『中学生ラグビー留学プログラム』とデカデカと印刷されていた。


「中学2年からになるんだが、ニュージーランド留学、行ってみないか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] まさかの展開 一体どうなるのか!
[一言] ニュージーランド入学。 すれば実力は間違いなく伸びるだろうけど南さんとお別れになりかねないのは悩ましいですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ