第四十八章その2 祝福のスペシャルマッチ
「実況は私、浜崎徹と」
「解説は駅前中華店のハルキがお送りしまーす」
放送席に陣取ったふたりの声が会場に響き渡る。てか浜崎はまだしも、ハルキに解説なんてできるのか?
コートの上にはすでに赤と青の二手に分かれた30人が散らばっていた。新郎新婦、そしてゲストの皆さんは観客席から試合を観戦する。
「試合は前後半無しの15分のみ。それでは太一君と亜希奈さんに捧げるスペシャルマッチの、始まり始まりー」
キックオフはチーム新婦のスタンドオフ坂本さんだ。余興の一環とは思えぬほど、高く強くボールが蹴り上げられる。それをキャッチしたのはチーム新郎のロック、ローレンス・リドリーだった。
ローレンスはボールを、ウェールズからやってきたフィリップさんに送る。フィリップさんは自陣を回復すべく、ボールを敵陣めがけ蹴り上げ、見事ワンバウンド後にタッチラインを割らせたのだった。
試合の途中、ボール争奪戦のもみくちゃでトラブルが発生したのか、キム・シノと石井君が互いに胸ぐらをつかみ合う。
「あっとこれはいけませんねー、乱闘です」
だが数秒後、間にジェローンさんが割り込むと、なぜかお互い握手を交わしているのだった。
「お、でも仲直りしましたよ。これぞスポーツマンシップですねー」
「何だよこの茶番」
包み隠さないわざとらしさに俺が口を尖らせる一方、ゲストたちは爆笑に腹を抱えていた。
「いいじゃない、おもしろいし」
亜希奈さんもふふふと笑いながらこちらに顔を向ける。
しかし世界レベルのメンバーが集まっているだけあって、余興の一種とはいえすさまじい迫力だった。
ボールを奪ったハミッシュがバックス陣を蹴散らし、圧巻の独走トライを決める。さらにフルバックのジェイソン・リーがコンバージョンキックを決め、チーム新婦が7点リードだ。
だがチーム新郎も黙ってはいない。ハミッシュのトライから3分後、西川君のキックパスをキャッチした馬原さんが相手を振り切って芝を駆け抜けてトライを奪い返した。そしてセンターを任されていたリカルド・カルバハルのコンバージョンキックで、チーム新郎も7-7の同点に追い付いたのだった。
そして結果は7-7のドロー。夢のような15分は、あっという間に終わってしまった。
「どうだったよ?」
コートを去る際に、手を振りながら大声で尋ねる西川君。そんな彼らに、俺は「最高の……気分だよ!」と拍手を返したのだった。
「良かったね太一。こんなに祝ってもらえて、私たち幸せ者だよ」
細い指を目に当てながら、笑みをこぼす亜希奈さん。
「うん、その通りだよ」
ラグビーやってて良かった。この時ほど心底そう思ったことは、これまでも一度として無い。
第八部はこれにて終了です。
ここまでお読みくださった皆様、ありがとうございます。
次回、一旦振り返り登場人物紹介をはさんだ後、最終編である第九部をスタートさせたいと思います。
これまで日本代表はオーストラリア、イングランド、そして南アフリカと世界の名だたる強豪を破ってきました。となると残る最後の敵は、あそこしかないですよね。
完結まではもうしばらくかかりますが、是非とも最後までお付き合いください。今後ともよろしくお願い申し上げます。




