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第三十一章その4 地球の裏側へGO!

 6月、インターナショナルネイションズカップに参戦するため、ジュニアジャパンの選手たちは成田空港から飛行機で飛び立った。


 この大会はティア2のワールドカップという異名の通り、ラグビーの普及を目指す国々が持ち回りで開催している。


 今回の開催地はブラジル。日本から見てちょうど地球の裏側だ。


「ヨーロッパは遠征で行ったことあるけど、アメリカ大陸は初めてだな」


 199㎝の身体を折り曲げるようにして座席に腰かけた中尾さんが、飛行機の窓から眼下を見下ろす。


 今はちょうど太平洋のど真ん中くらいだろう、外には見渡す限りの水平線が広がっている。大昔、ポリネシア人の祖先は星の動きだけを頼りに、この大海原へとカヌーで挑んだそうだ。当然、進む先に陸地があるという保証は無い。今から考えても恐ろしいほどのチャレンジ精神だよ。


 さて、16か国が優勝を争うこの大会には、日本とフィジー以外は各国最強メンバーをそろえたフル代表が出場する。そしてその中には、俺もよく知る顔ぶれが含まれていた。


 改めて出場国を確認しておこう。


プールA

ブラジル(開催地) 日本A ポルトガル 韓国


プールB

フィジーA トンガ ウルグアイ ロシア


プールC

ジョージア アメリカ スペイン ナミビア


プールD

サモア カナダ ルーマニア 香港


 日本代表は予選プールで3か国と戦うことになるが、その内韓国とブラジルは、俺にとっても並みならぬ思い入れがあった。


 韓国代表にはオークランドゼネラルハイスクールでいっしょにラグビーをし、現在Rリーグ大阪ファイアボールズに所属しているキム・シノが選ばれている。またワールドツアーの際に香港で対戦したパク・ミョンホも、期待のナンバーエイトとして選出されているそうだ。彼は現在日本の大学に留学しており、彼以外にも日本のプロクラブや大学でプレーしている選手を多く揃えている。


 そしてブラジル代表選手には、なんとチアゴ・モリモトが含まれていた。小学校の時に金沢スクールでいっしょに全国を制覇した、あのチアゴだ。


 当時の彼はスクラム最前列の真ん中でフッカーを任されていたが、現在はフォワードの花形であるナンバーエイトにコンバートしているらしい。彼は金沢スクールで誰よりも早く、ナショナルチームのフル代表に選ばれたのだった。


 さらに他のプールでもカナダ代表にジェイソン・リーが、ジョージア代表にアレクサンドル・ガブニアが選出されているそうだ。対戦するとしたらプール戦後の決勝トーナメントだ。


 現在、日本からブラジルへの直行便は就航していない。俺たちはアメリカのシアトルで一度降り、そこでリオデジャネイロ行きのフライトに乗り継ぐ。


 目的地まで最短でも24時間。80日間で世界一周していた時代に比べれば驚異的な短縮だが、それでもしんどいものはしんどい。


「小森、俺らもいつかプライベート機で行き来できるようになろう」


 シアトルに降り立った頃には、中尾さんの足取りは生まれたばかりの小鹿のようだった。


「ですね」


 ぶんぶんと腕を振り回し、俺もぎっちぎちになった身体をほぐす。まるで紐で縛られた上に真空パックに包装されたボンレスハムの気分だよ。


 ヨーロッパの強豪サッカークラブとかだと、移動はプライベートジェットてのもよくある話なんだな……ラグビー協会のお偉いさん、何でもしますからプライベートジェット用意してください。




 リオデジャネイロに到着した俺たちは、この日はホテルに直行した。移動の負担が大きかったので、練習は明日からだ。


 夕食後、シングルルームをあてがわれていた俺は、ベッドの上で寝転がりながら各種サインとセットプレー時の作戦についてまとめられた書類に目を通していた。


 その時、ベッド脇の小棚に置いたスマホが激しく振動した。電話の着信だ。


 反射的に手を伸ばし、画面をタップした俺は「もしもーし」と応答する。


「よう小森、ブラジルにはもう着いたか?」


 電話の相手は西川君だった。


 西川君らU20日本代表はワールドラグビーU20チャンピオンシップに出場するため、既に開催地であるイタリアに乗り込んでいた。時差を考えれば、あっちはだいぶ夜遅い時間だろう。


「うん、ホテルの料理も美味しかったよ」


 俺にとっては日程がしんどい遠征でも、世界各国のうまいもん食えると思うと楽しくなるよ。


「お前、本当に食いもんばっかだな、南が泣くぞ」


「なんでそこで南さんの名前が出てくるんだよ。大丈夫だよ、お土産買って買って帰るし」


「お前、土産のセンスねーから不安だよ。マオリ族の木彫りの置物とか渡されてもミスマッチ過ぎて部屋に置けねーんだよ」


「まだ根に持ってたのかよ。もう4年前だろ、忘れてくれよ」


 スピーカーの向こうから西川君の笑い声が聞こえる。にしてもあの置物、そんなにダサかったかな?


「ところで小森、そっちの大会、チアゴが出るんだって?」


「ああ、今は敵同士だから会えないけど、試合終わったらアフターマッチファンクションで会う予定だよ。もちろん勝った後で」


「手心加えてやれよ、あいつこの大会が代表デビュー戦なんだから」


「そりゃ無理だよ、こちとら全勝で優勝狙ってんだから」


 コートの上で手加減は不要!


 俺がにししと笑うと、西川君も対抗した。


「お前がそう出るならこっちはベスト4だ。去年のU20より、高みまで近付いてやるぜ」


 そして互いの健闘を誓い合い、俺は電話を切った。


 西川君の闘志むき出しの声を聞くと、なんだかこっちまでやる気がみなぎってくる。彼も頑張っているんだ、こちらも負けてはいられない。


「よし、やるか!」


 俺はぐっと力を込めて立ち上がる。


 さて、明日も早くから練習なので、シャワー浴びてさっさと寝るか。

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― 新着の感想 ―
[一言] おお、私が大好きなジェイソン・リーも出てくるのですね。 モテモテになっているのかな?
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