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第十九章その2 懐かしの再戦

「来た来た!」


 放課後、オークランドゼネラルハイスクールの駐車場に1台のバスが到着する。


 俺たちラグビー部員は「ようこそオークランドゼネラルハイスクールへ」と書かれた大きなパネルを掲げながら、停車するバスに手を振った。


 やがてバスのドアが開き、中からぞろぞろと人が降りてくる。胸元に日の丸がプリントされたジャージを着た、黒目黒髪の少年たちだった。


「小森!」


 バスから現れた少年のひとりが、手を振って呼びかける。


「西川君!」


 かつて同じチームでラグビーをプレーした西川君だった。彼は小学校の時よりも、見違えるほど背が高くなっていた。


「久しぶりやなぁ」


「ちいっす」


 続いて石井君と秦君もバスを降りる。


 石井君は相変わらずの関取体型で、ニカウと同程度の重量はありそうだ。秦君も身長を伸ばしたが、ラグビー選手の中ではまだ小柄だった。


 日本のラグビー少年たちが駐車場を横切って進む中、西川君はひとり俺の前までだっと走り寄って声をかけてきたのだった。


「よう、お前背ぇ縮んだか?」


「いや、西川君がでかくなったんだよ」


 中学に入ってからというもの、西川君は急激に成長していた。


 小学校卒業時点では170に届かなかった身長が、今は俺とほとんど同じ目線の高さだ。いや、もしかしたら彼の方が高いかもしれない。


「へへ、今日の試合負けねえぞ」


「おい西川、早く行くぞ」


 チームメイトに急かされ、「はーい」と向きを変える西川君。


「じゃ、あとでな!」




 両チーム準備を終えて学校併設のラグビーコートに出ると、周囲にはすでに別年代のラグビー部員や他の生徒が見学に訪れて、人だかりができあがっていた。


「頑張れー」


「負けんじゃねえぞオークランド!」


 ポジションの関係で今日の試合には出場できないキムやクリストファー・モリスが声援を贈る。


 そして両チーム挨拶を済ませ、いよいよ試合が始まる。キックオフを任されたのは、相手フルバックの西川君だ。


 西川君が大きく蹴り上げたボールを、オークランドU-15の長身ロックがキャッチする。だが日本サイドからはすでにフッカー石井君はじめフォワード陣が凄まじい勢いで突っ込んできていた。


 ロックはパスを送る暇は無いと判断したのか、この突進を真っ向から受け止めんと、自身も身を屈めて弾丸のごとく走り出す。


 石井君のタックルがモロに入り、ロックの身体が大きくぐらつく。それを後ろから支えるため、俺とニカウが駆けつけてモールが形成される。


 だが相手チームはバックスもこの密集に加わり、人数をかけて強引に押し込んできたのだ。


「だめだ、思ったより強い!」


 12人制になってフランカーとナンバーエイトがいないだけでこんなにやりづらいものなのか。普段との違いに戸惑う俺たちは、平均体重で劣る日本チームにぐいぐいと押されていた。


 このままではまずいと急いでボールを急いで最後尾に回す。そこにはすでにスクラムハーフ和久田君が待ち構えていた。


 和久田君はボールを受け取ると、すぐさま真横に鋭いパスを飛ばした。さすがオークランド地区U-15ナンバーワンスクラムハーフの早業だ。


 受け取ったウイングの選手は、密集に人員を割いたため守備の薄くなった逆サイドを颯爽と走り抜ける。


 だがゴール目前でフルバック西川君が横から強烈なタックルを入れてきたため、あっという間にボールを奪われてしまった。


 西川君は自らボールを抱えて駆け出し、一気に自陣を回復させる。そのダッシュを止めようと、オークランドのメンバーがだっと走り寄った。


 だが西川君は俺たちを十分に引き付けたところで、ボールを前に突き出して真下に落とす。そして得意のパントキックで、逆サイドへとボールを大きく移動させてしまったのだった。


 それを受け取ったのは、ステップ自慢のセンター秦君だった。まんまと相手の術中にはまってしまった俺たちは、慌てて逆サイドへと振れ戻り秦君を追った。


 しかし身長の伸びた秦君の足は、以前とは異次元と呼べるほどに速くなっていた。ストライドが伸びただけではない、足の回転も増している。


 守備の選手が必死に追い付いて腕を伸ばす。が、その指先が触れる直前に秦君はかくんと進行方向を切り替え、容易く守りを突破してしまった。そのステップのキレは、オークランド地区最強ウイングのエリオットにも劣らない。


 そしてゴールポストの下に走り込むと、秦君は余裕のトライを決めたのだった。


 先制トライを決めて互いにハイタッチする日本チーム。そんな彼らを眺めながら、俺たちオークランドチームは「まずいな」と漏らした。


「みんな、すごく強くなってるね」


 隣に立った和久田君が話しかける。


 当たり前と言えば当たり前だが、俺たちがこっちに来ている間にも日本で彼らは切磋琢磨し合っていたのだ。


「それなら俺たちも強くなったところを見せてやろう」


 そう言って俺は和久田君に顔を向ける。すぐに彼は「だよね」とにやっと笑い返した。


 試合は俺たちのキックで再開され、蹴り上げられたボールを石井君がキャッチする。


 あちらが先ほど速攻で来たのだから、こちらも同じ手で返してやろう。すでに相手陣内まで走り込んでいた俺とニカウは、ボールをキャッチしたばかりの石井君にまっすぐタックルを入れた。


「うお!?」


 思わぬ急襲に石井君の巨体がぐらりと揺れる。だがそこはさすが石井君、彼はタックルを受けながらも身体を捻らせると、ボールを後ろの仲間に素早く回したのだった。


 だがその流れを先読みしていたように、ボールを受け取ったばかりの日本選手に長身のロックが突っこんだ。180cmを優に超える選手のタックルを受け、圧倒的体格差の前に日本選手はいとも簡単に倒されてしまう。


 ロックが選手を押し倒すよりも先に、俺は既に立ち上がっていた。そして仰向けに倒れた相手の抱えたボールに両手をかけると、その楕円球を力づくでもぎ取ってしまったのだった。ジャッカル大成功だ。


 奪ったボールを脇に抱えた俺はドスドスと地面を踏んで、相手陣のゴールを目指す。だが俺の目の前には、素早く日本チームの守備ラインが形成されていた。


 俺はまっすぐ、その長城のような守備ラインに突っ込んでいく。選手ふたりから連続でタックルを受け、倒されるまではいかなかったものの体格自慢の俺の足もついに止まってしまう。左右からはさらに数名の選手が、俺にトドメを刺そうと向かってきていた。


 だがこの機会を待っていた。俺ひとりにこれだけ敵選手がくっついているなら、他の守備はもうガラガラだ。


「ジェイソン、パス!」


 俺は身を捻らせてすぐさまボールを投げ、自陣から上がってきていたフルバックのジェイソン・リーにパスをつなぐ。


 しっかりとボールを受け止めたジェイソンは一気にギアを上げ、薄くなった守備ラインをすり抜けてしまった。彼の能力といえば抜きん出たキック技術に目が行きがちだが、それ以外の基本的な走力やパス技術も優れており、ウイングやセンターの役割も十分にこなせてしまうのが彼の魅力だ。


 そして相手守備ラインを置き去りにしたジェイソン。そんな彼からゴールを守る日本最後の砦こそ、横浜の星フルバック西川君だ。


 ゴール目前で展開される15番同士の直接対決。西川君はだっと飛び出し、まっすぐに突進してくるジェイソンに向けてタックルを仕掛ける。


 だがその直前、ジェイソンは足元にボールを落とすと、足でこつんと軽く蹴りを入れたのだ。ボールは不規則に芝の上をバウンドし、一瞬のうちに西川君の後方まではね転がってしまった。


 しまった、と慌てて振り返る西川君。だが彼の背後で跳ねまわるボールには、すでに逆サイドから並走していたスクラムハーフ和久田君が追いついていた。


 さすがの西川君でも、既に加速している和久田君の足には敵わない。和久田君はゴールポストのすぐ下まで一目散に駆け込むと、ボールを地面にグランディングさせる。


「トライ!」


 審判のコールとともに湧き起こる観衆の大歓声。先日の地区大会をスタジアムで見ていた本校の生徒たちは、ここ学校のラグビー場でも俺たちに喝采を贈った。


「日本人コンビ大活躍だな」


 俺と和久田君は駆けつけたチームメイトから称賛される。俺のジャッカルから始まって和久田君のトライまで、まるで事前に示し合わせたのかと俺たち自身が疑うほどの無駄のないプレーだった。


「いや、まさかこんなにうまくいくなんて……」


「おい、俺も忘れんじゃねえぞ」


 照れる俺と和久田君の間にジェイソンが割り込み、自分を親指で示しながら観客たちにアピールする。


「カッコイイよー!」


「最高のキックだったわ!」


 直後、歓声に混じって女子からジェイソンに対する賛辞がちらほらと挙がった。途端、ジェイソンはふと目を閉じ、じーんと物思いに耽るような顔を見せたのだった。


「ああ俺、この時のためにラグビーしてきたんだ……今なら死んでもいい」


「何バカ言ってんだ、試合はまだ終わってねえんだぞ」


 当然ながら、ジェイソンはチームメイトからのツッコミと尻キックを同時に食らってしまったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ジェイソンはもうちょっとまともな性格ならすごいモテるだろうにw
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