第十八章その5 嬉しい報告
俺たちU-15チームが地区大会に優勝してから数日が経った。
久しぶりの優勝にU-15のメンバーは学校のヒーローとして、連日すれ違う他の生徒から声をかけられていた。特に俺は最後に決勝点を入れたデブとして印象に残ったようで、強面の上級生から「将来絶対すごい選手になるから、今の内にサインくれ!」とラグビーボールとペンを渡されたこともあった。
それはハミッシュ・マクラーセンら学校代表についても同じだった。彼らは決勝戦でも相手を圧倒し、30-10のスコアで優勝を決めたのだった。
来月、学校代表チームはオークランド地区代表として全国大会に出場する。そこで10年ほど遠ざかっていた全国覇者の座を再び奪い返すべく、地区大会終了後は以前にも増して厳しいトレーニングに打ち込んでいた。
一方、それ以外の年代の生徒にとっては今年のラグビーシーズンは終了したも同然であり、半年間ラグビーに没頭してきた部員たちはすっかり腑抜けてしまい、顔から緊張感が抜け落ちてしまっていた。
そんな平日のある日のこと。
「ただいまー!」
今日の練習の疲れなどどこへやら、俺は足取り軽くウィリアムズ家に帰宅する。
「お帰り太一!」
そして待ち構えていたように、リビングのソファに座っていた南さんとアイリーンの二人がばっと立ち上がてこちらに顔を向けた。ふたりとも、嬉しさに頬は紅潮していた。
「U-15選出、おめでとう!」
そしてぱちぱちと拍手を俺に贈ったのだった。
今日、俺は嬉しすぎる通知を受け取った。なんとオークランド地区U-15選抜代表に抜擢されたのだ!
「うん、嬉しいよ。嬉しすぎてもしかしたら俺、明日死ぬんじゃないかって思ってる」
胸の内からいくらでも言葉が出てくるのに、感情が昂りすぎて頭で整理できない。
ただともかく、天にも舞い上がらん想いの一言に尽きる。なぜならこれは、俺のプレーがラグビーの本場ニュージーランドで評価されたということに他ならないのだから。
地区大会に出場したU-15チームの選手の中で、優れた活躍をした選手だけに送られる名誉ある通知だ。選ばれれば他の地区代表との交流試合を行なったり、時には海外遠征で同年代のチームと戦うこともある。
ちなみにU-15選抜には補欠も含めてうちの学校から複数名選出されており、その中にはクリストファー・モリスやジェイソン・リーだけでなく、和久田君、キム、ニカウら1年生も挙げられていた。フィアマルは怪我がなければ確実に選ばれていたであろうに、残念で仕方がない。
「それとさ、あれも楽しみだもんね」
勿体ぶるように話す南さんに、俺は「あれ?」と訊き返す。
「ほら、来週火曜日といえば」
「ああ、交流試合ね! もちろん楽しみだよ」
そう、来週は日本の中学選抜メンバーとの交流試合が控えているのだ。西川君や石井君といった過去に戦った相手がニュージーランドまで遠征してくるという思わぬ再戦の機会を、俺が忘れるはずがない。
公式記録には残らない上に12人での試合になるが、みんながどれほど強くなっているのか楽しみだ。当然、俺もより一層強くでっかくなったことを知らしめることができる。
「太一、あんまし西川君に写真とか送ってないでしょ。西川君てば私にニュージーランドでの太一の写真たくさん撮って送ってくれって言ってきたんだよ」
そう言って南さんはスマホを手に取り、画面をスッスとタップし始めた。
「俺の写真って、デブ写して何が楽しいんだよ」
「西川君だって心配しているんでしょ、太一がちゃんとニュージーランドで元気に過ごせているか」
俺の顔の前に南さんはスマホの画面をぐいっと見せつける。
そこに写っていたのは、バーベキューの串にかぶり付く俺、早朝のジョギングに勤しむ俺、そして決勝戦のゴール直後仲間たちと抱擁して喜ぶ俺。
「これ送るの? なんだか恥ずかしいな」
「ううん、もう送った」
「おいおい、いつの間に……西川君は何て?」
「まだまだ甘いな、俺ならひとりで1試合3本ドロップゴール決められるって」
いかにも彼らしいご回答だな。西川君もきっと日本で仲間たちと楽しみながらラグビーに励んでいることだろう。
「さあ今日は太一の地区代表選出を祝ってご馳走よ。お母さん、今美味しいラム肉買いに行ってるんだから」
突如アイリーンがパンと手を叩き、にこにこ顔を俺たちに向ける。この土曜日に優勝祝いで超巨大ステーキを食べたばっかりなのに。
聞いて南さんの笑顔がひきつった。
「私、こんなに短い間にこれだけお肉食べるの初めてだよ……」
体重を増やしたい俺にとっては嬉しいのだが、南さんにとって海外の食生活は毎日となると辛いものがあるかもしれない。
第三部は今回で終了します。
次回、ふりかえり登場人物紹介をはさんで第四部のスタートを予定しております。




