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武士がいる  作者: 長埜 恵
2.武士がいる
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正月も大掃除もあるんだよ

「正月があるのか!?」


 本日の武士は、よく分からないことで驚いていた。

 あるよ。あるに決まってんだろ。ありまくるよ。


 むしろなんで消えたと思ってたんだよ。


 尋ねると、武士は手振り付きで説明してくれた。


「大家殿は、大掃除も年越しの準備も何もしていなかったではないか! 三太殿を迎える準備ばかりで……!」


 それはお前だろ。

 うっきうきでサンタクロースの分のケーキまで取り分けやがって。


 あとな、大掃除は今日するんです。

 そしてお前も手伝うんだ。


「店も三太殿ばかり祝っておって……ここ最近なのだ……正月の気配が見え始めたのは……」


 あ、それは分かる。

 スーパーってそういうとこあるよね。仕方ないんだよ、年末はイベントが目白押しなんだ。


 聞くと、武士が江戸にいた頃は十一月辺りから新年を迎える準備が始まっていたらしい。浅草で開かれる市で色々買ったりとか、十二月半ばには大掃除をしたりとか。


 が、武士にとっては珍しく、テンションが上がるばかりのイベントでも無かったようだ。


「正月は、某のような身分の者にとってはなかなか大変な行事であってな。登城するなどして挨拶に回らねばならんかったのだ」


 あー、なるほど。結構しんどそうだな。

 え、でも、正月ってこう、「絶対に働かねぇ! 休む! 遊ぶ!」みたいなイベントじゃないの?


「それは町人の方である。前もってアレコレと用意をして歳神様を迎える準備をしたら、正月はのんびりして過ごす。しかしあの師走の賑わいは、某も見ていてどこか心が跳ねるような気持ちになったものだ」


 へー、そうなのか。やっぱ武士って楽じゃないんだな。


 そう思って眺めていたら、ふとコイツがどこか懐かしい目をしていることに気づいた。

 そういや、数ヶ月帰ってないんだもんな。


 なぁ、そろそろガチで帰りたくなったんじゃないか?


「いや?」


 まっすぐな目ェしてやがんな。


「前にも言ったが、今から帰っては面倒なことばかりなのだ。その上、正月の“いべんと”まで待ち構えている。帰るにしても、せめて年が明けて落ち着くまではここでのんびりしたい」


 のんびりしたいって言っちゃった。

 いつもあくせく働く私の目の前で、居候のコイツのんびりしたいって言っちゃった。


「そういうわけだ! 本日は煤払いの日なのだろう!? 大家殿の貸してくれる住まいを掃除するのは店子の仕事である! 張り切って参ろうぞ!」


 そして武士は腕まくりをして意気込んでいる。多分これ失言に気づいて私が怒る前にごまかしたな。いっちょまえに顔色察するようになりやがって。


 まぁいいや。許そう。

 代わりに今日は存分に働いてもらおう。


 そうして私は、武士にお掃除セットを手渡したのである。

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― 新着の感想 ―
[一言] 10月のハロウィンからはじまって、クリスマス→正月の流れは本当忙しそうだなって思う。
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