タピオカ
ある日突然、武士に言われた。
「タキオカ殿が作る珍味を賞味したい」
誰だよ。
しばらく話して、タピオカドリンクのことだと理解した。
えー……じゃあコンビニで買ってきてやるか。
そう提案すると、武士は首を横に振った。
「こういったものは老舗で食すに限るだろう」
つまり専門店へ連れて行けということらしい。
武士の癖に生意気なヤツである。
そういう事情で、私達はタピオカドリンクを出す店へとやって来た。
「ほう! てれびで申しておった通り、なんと数が多いことよ!」
そしてやはりここでもはしゃぐ武士である。周りの女子高生の目が痛い。
ごめんよ、違うんだ。コイツはいい大人に見えるかもしれないけど、精神年齢は君たちより低いんだ。
「大家殿! 某は宇治抹茶にするぞ!」
袖を引き、武士は緑色の液体が入った容器を指差す。そうかそうかと頷き、レジに向かった。
「かしこまりました! お連れ様はどちらにされますか?」
溌剌とした笑顔の店員さんに尋ねられ、私は少しフリーズした。……そういや自分の分は考えてなかったな。なので慌てて一番人気のミルクティーをお願いした。
待つこと数分。
テンション高めの武士が、二人分のタピオカドリンクを持って帰ってきた。
店内を走るな!
「ほう、これがたぴおかか……! 噂に聞く、たぴおか……!」
なんだよその噂に聞くって。巷じゃどんな噂が飛びかってんだ。
「2019年はこれを食べないと年が越せない」
蕎麦か何かかな?
恐らく何かを勘違いしているのだろうけど、分かりそうで分からない。まあいいや。どうでもいい。
そうして武士を無視しつつ、一口飲んで驚いた。
うっま……!
え、何これコンビニで買うヤツと全然違うじゃん。もっちもち。もうもっちもち。あとほんのり甘い。なんか練り込まれてるのかな?
わー、すげぇ。専門店のタピオカってこんななの? えー、知らなかった。えー、美味しい。えー。
えー?
ふと顔を上げると、武士がニヤニヤしていた。
「な? やはり老舗が一番だろう?」
あの店が老舗かどうかは知らないが、専門店の凄さを思い知った日であった。あとこの時の武士のドヤ顔になんとなく腹が立ったので、軽いデコピンを食らわせておいたのである。