シチュー
シチューを作ってやったら、武士が感動した。
「美味い……」
美味しかったらしい。
ちなみに、シチューを食べるならば味が濃い方が好みである。大学時代、私がチーズをかけてシチューを食ってたのを見た友人が「お前もうそれグラタンを食えよ」と正論を吐いてきた。
違うんだって。シチューはシチューでグラタンはグラタン。そうだろ?
大人になるっていいよ。肉とチーズを山ほど入れたシチューを作って食べても、誰にも何も言われないんだからな。まあ無言で食べてたら、山小屋に住む人嫌いジイさんみたいな気持ちになる時あるけど。そこはそういうもんだと割り切ってだね。
「冷えた身にしみる」
うむ、全くである。
こたつに入り、半纏を着て、シチューをすする。絵面的には鍋が正解な気もするが、体が温まればそれでいいのだ。
「大家殿」
なんぞ?
「みかんが食べたい」
いや知ったことかと。
「あの箱……“れんぢ”で温めたヤツをだな、食べたくなった」
あー。
そうだな。武士に操作させるのが怖いから、まだ電子レンジは私を通してでないと使えないルールだった。
えー、面倒くせぇな。
つーかそれ今言う? 後にしようぜ。
「今食べないと風邪をひく気がする」
ンなわけねぇだろ。
武士の要求を軽くかわし、シチューを食べ続ける。
「大家殿」
今度はなんすか。
「“しちゅう”のおかわりが欲しい」
それはマジで自分で行けや!
コタツの中の足を蹴る。するとその隙にシチューの皿を交換された。
なんだコイツ! それが武士のやることか!
「腹が減っては戦ができぬ」
武士は食わねど高楊枝だろ!!
残るシチューを全部食ってやろうかと思ったが、腹が破裂するのでやめた。カレーにしろシチューにしろ、大抵二日分は食べられる量を作ってしまうものである。