軽め登山(前半)
もしかすると、登山と呼べるほど大したものではないのかもしれない。武士と少し遠出をした際、標高300メートル程度の山があったからちょっと登ってみようと思い立っただけである。
ただ、雨上がりの山を舐めていたところがあった。それだけだ。
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「ううむ、良き山であるな!」
いつものようにジャージを身にまとった武士は、目を輝かせて山を見上げていた。これが我々が今から登る山である。この駐車場からなら、頂上まで大体20分程度だろうか。
「思えば山など久しく登っておらんかったからな。大家殿、しっかりと足に心構えをさせておくのだぞ」
準備運動のことだいぶ詩的に表現するんだな。でも確かに怪我をして下山できなくなったら洒落にならないから、足の筋は伸ばしておこう。
それにしても、雨が降ってなくてよかったな。
「今朝までは降っておったがな」
何なら今でもどんよりとした曇り空だけどな。
「しかも山の天気は変わりやすいと言うしな」
……。
「……」
帰るか。
「少し覗いてみるだけであるから! 少し覗いてみるだけであるから!」
まあ一応道もしっかりあるし、足場が悪いところもあんまりないみたいだし。気をつけて進めば問題ないと思うよ。
「うむ、では早速参ろうではないか!」
ははは、こどもみたいにはしゃぎおる。あんまり急ぐなよー。序盤飛ばしすぎて、途中でへばっても知らねぇかんな。
― 十分後 ―
死にそう。
「大家殿ーっ!」
やばいやばいやばい。これ多分絶対大したことない勾配だよね? なのにもう足が上がんない。一歩ごとに太ももに手を置いて「よいしょ」ってしないと前に進めない。
運動不足の勤労人ってこんなに体力がおしまいになるの?
「何をしておるか、大家殿ー! 某、もはや先に行ってしまいたいぞ!」
ちょっと待っ……いや、もういいや! 先行け! そのかわり帰りに私を拾って帰ってくれ!
「自身を落とし物のごとく申すでない」
面目ねぇ……。まあ実際私が落としたのは体力なんだけどね(笑)
「何を申したかちっとも聞こえんかった。先に行っておる」
ぐああー……!!




