歯磨き
武士は歯磨きが好きである。
というか、歯磨き粉が好きである。
ご飯を食べ終わったら、嬉々としてクリアクリーンをつけてシャコシャコ歯を磨いている。口の中の爽快感がたまらないらしい。めっちゃつける。お前それ食うの? ってぐらいつける。
ホイップクリームじゃねぇんだぞ。
しかしこんなに歯磨きが好きだというなら、江戸時代に生きていた頃はさぞ不便を感じていただろう。
そう思い尋ねてみると、意外な言葉が返ってきた。
「江戸時代にもはみがきはあったぞ?」
あったの!?
え!? このシャコシャコが!?
「そうだとも。房楊枝とぐぐってみるがい」
武士がググる言うな。現代日本に染まりやがって。
しかし言われた通りインターネットで調べてみたら、なるほど確かに歯磨きをする女性の絵が出てきた。
あー、これが。へぇー。
使いにくそうだな。
「歯の裏側は磨きにくい」
だよなぁ。
「だが磨き心地は悪くない」
ほぉー。
「本当は一度使い終わればすぐ捨てるべきらしいんだがな、我が家は祖父の遺言でそれはできない決まりなのだ」
いやどんな死に様だよ。
『歯ブラシは……毛先がボロボロになるまで使え……ガクッ』『おじいちゃーん!』みたいな感じか。歯ブラシに祟られたのかお前の爺ちゃん。
ティッシュの時といい、ちょんまげのことといい、なんか変な家だなぁ。
それか案外こんなものなのだろうか。武士の家って。
まあそれはそれとして、ヤツは歯磨きがとても好きらしい。あんまり磨き過ぎたら歯が傷むぞーとも思うが、それを言ってやるほど親密なわけではない。面倒くさい。
武士よ、存分に磨くがいい。
私は会社に行く。