方向音痴
私は結構な方向音痴だ。
一旦建物の中に入ると、出てきた時にはどちらが北か皆目見当つかなくなる。何ならどちらから来たのかも怪しいぐらいだし、正直常に私の正面を北としてほしい。
だから、外出時にはカーナビが欠かせないのだ。実にありがたい文明の機器である。私ときたら三途の川でも迷子になりそうだから、よければ一緒に埋葬してほしいとすら思う。
ぶっちゃけ武士も似たような方向感覚なので、この私の言葉は大いに賛同されるだろうと思ったのだが……。
「大家殿、次は右に曲がるがよい」
武士を乗せて運転していたところ、ふいにそう指示された。
え、なんでよ。この道はいつもまっすぐ行くじゃん。
「そうだが、ここで右に曲がるほうが近道なのである」
そうなの? え、でもカーナビではここ行き止まりになってるけど……。
「左様。しかし、この道は以前より工事を行っておっての。それがつい先日完成し、今では自由に行き来できるようになっておるのだ」
へー、マジか。それは知らなんだ。
でもまっすぐ進みますね。
「なにゆえ!」
カーナビに乗ってない道は怖いんだよ……! 私じゃリカバリーできないからな。
「某がおるではないか! その先の道も案内しようぞ。心安く頼るが良い」
なんでお前そんなに自信満々なんだよ。脳みそに最新のカーナビでもインストールできた? 普段はWind◯ws Meみたいな性能を伺わせるのに。
「悪口であることはなんとなくわかるぞ。だが構わぬ。なぜならば大家殿は今、某の命をも預かる身……。慎重にならねばならぬゆえ、気が立つのも理解できる」
心が広いな。
「しかしひとたび車から降りれば立場は同じ。目にもの見せてくれよう」
やべぇ、終わった。降車後全力で逃げないと。
「とにかく、某はこのあたりを散歩することもあるのだ。それゆえ、道にも明るいのである」
へー、そうなんだ。こんなとこまで散歩に来ることあんだね、お前。
……。
ここ、車で30分かかる場所なんだけど?
「そこを左に曲がればまんじゅう屋があるぞ」
お前普段どんだけお散歩してんの? あ、まさか道に迷いまくった結果、練り歩くことになって逆に詳しくなったとか……!
「そろそろ車を止めぬか?」
嫌です。