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武士がいる  作者: 長埜 恵
2.武士がいる
663/676

タイトル未定2025/09/25 16:15

「今日こそ大家殿は休日であるな?」


 ……。

 いや……違う。


「なんと? しかし、本日は……」


 そう、土曜日。完全週休二日を謳う弊社であれば、当然休みであるはずだ。

 だが違う。

 取引先で同僚がちょっとしたやらかしをしたので、そのリカバリーのため出勤できる者は皆行かねばならないのだ。


「ならぬ! 大家殿は今日は昼間から某と銭湯に……!」


 わかってくれ、武士! 業務すっぽかして武士と銭湯行ってたのがバレた日には、定年まで無限にネタにされることになる! 弊社はそういうノリの会社だ!


「ろくでもないな」


 弊社、娯楽少ないから……。

 よって、行ってきます。


「しかし、まだ手はあるかもしれん」


 出勤せずに、お前と真っ昼間銭湯&アルコール摂取ができる方法? ないよ、そんなん。よしんば今からいきなり風邪をひいたところで、結局銭湯には行けないだろ。


「否、大家殿。勤めを断り、さりとて誰にも気づかれぬことなく銭湯に行けるすべがひとつだけあるのだ」


 なに?

 ……聞かせてくれ。


「うむ。それこそ――変化の術!」


 変化の術?

 ……あ、変装ってこと!?


「おう! 幸い大家殿はさほど太っておらん。そこで大きめの着物を着て、中に綿を詰めれば別人のようになるぞ!」


 おお!

 でも、顔は……!?


「筆で化粧を施そう!」


 雑ゥ!

 でも本当の顔がわからなければいいのか!

 よーし、これで私の本当の姿がごまかせるぞ! 早速銭湯に……。


 行けるかぁ!!!! 追い返されるわ!!!! もし追い返されなくても銭湯行きゃどうせ全部脱ぐんだから変装意味ねぇだろ!!!!


「抜かったー」


 わかってただろ!!

 くそー、アホな会話してたらもうこんな時間! 行ってきます!!


「気をつけて行くのだぞ」


 おうよ!!!!

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