この年になると逆に見る目が死んでくる
先日、客先で優しそうなおばちゃんがいるなーと思ったら、まだ若いロングヘアのお兄さんでした。話しかけるまで本当に気づかなかったので、彼の野太い声に真顔で3センチほど飛び上がったことをここに白状しておきます。お兄さんには「突然のしゃっくりです」と伝えましたが、多分ごまかせていません。
「わかるぞ」
わかってくれるか、武士よ。
「某も先日行った銭湯で、どう見ても年寄りの女だと思った者が男であった」
それは心臓が跳ね上がるな。
っていうか、声かけたの?
「うむ。『おぬし、間違っておらんか?』と声をかけた」
チャレンジャーだな。
「心なしか周りの者もそわそわとしておったから」
そうしたら男だったと。
「そう。『わしが何を間違えとる?』としわがれた男の声で返された。其の者はただの肥えた爺だったのだ」
事実なんだろうけど悪口に聞こえちゃうのはどうしてかな。で、お前はどう言い訳したの?
「今まで黙っておったが、某、不測の事態に少々弱い」
それは知ってるけど。
「ゆえに、寸刻口ごもったあと『桶』と答えた」
パニクりすぎだろ!
「するとその爺、『おう、この桶お前さんのだったか』と快く某にその桶を渡してくれてな。某は、その日一日ずっと胸が痛んだのだ」
そ、そうか……いい人でよかったな、その爺さん。
「かたや、某は桶泥棒になるところであった」
嘘が下手だからって徹しようとすんな!




