カスの体力
前回のあらすじ:私の体力がカス。
「まさかここまでとは……大家殿……」
ゴミ捨て場でゼェゼェと息を切らせる私に武士はドン引きである。嘲笑するでも慰めるでもなく、ドン引き。こんなに情けないことがあるだろうか。
いや、私だってあの残業を乗り越えてきたんだから体力はあるはずだ。きっと体力にも種類があるんだろうな。私に身についているのは残業体力であって、マラソン体力だけがついていないだけだから何も心配はいらな
「辻斬りに追われたら瞬く間に死ぬぞ」
ぐおっ。
「稚児らのほうがうまく逃げる」
ぐはっ。
「向かいのマサモト氏(御年75歳・杖あり)にも負けるだろう」
げほっ。
死体に鞭打って楽しいか、ちょんまげ!
「某は心配しておるのだ、大家殿。このままでは有事の際に何もできないまま命を落とすことになる」
それはだいぶ大げさな物言いだけど、確かに体力はあるに越したことはないよね。でもどうすんの? そんな一朝一夕で身につくもんじゃないでしょ。
「うむ。ゆえに、今後は朝晩走ることを推奨する」
却下ですぅ……。
「なにゆえ」
なにゆえも何も、私は働かなきゃいけないんだよ。日中仕事に使う体力をここで削るわけにはいかない。
「ふむ。ならばどうしたものか」
あとやっぱ急に走ると膝に来る……。できたらもっと緩やかにやりたいな。体と相談しながら徐々に負荷をかけていく感じで。
「注文が多いのう」
うるせぇ脳筋。代替案くれ。
「では、歩くところから始めようか」
お、ウォーキングか。それなら始めやすいな。
「朝5時に起きて、某と一時間歩くのである。そして朝餉を済ませて勤めに出かける」
……。
「そして帰ってきたら、もう1時間歩くのだ。これでゆくゆくはしっかりとした体の土台が」
却下です。
「なにゆえー!!」
朝は寝たいんだよ、ギリギリまで!
朝出社直前までだらだらすることがもはや生活の喜びのひとつになってんだよー! 朝だらで活力チャージしてんだよー!!
「まずはその不健康な認識から改めねばならんように思う」
イヤッ! イヤッ!