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武士がいる  作者: 長埜 恵
2.武士がいる
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皆既月食を見た話

 そういえばすっかりこの話をするのを忘れていた。

 来る2025年9月7日。いや、8日か。午前1時半頃から約3年ぶりとなる皆既月食が起こっていた。皆既月食とは、地球が太陽と月の間に入ることで月が欠けて見える現象のことである。


 しかも当日はそれは見事な晴れっぷり! ゆえに、これは激務を押しても観測したいと思ったのだ。

 で、武士にもその話をしてみたのである。あとで「某も見たかった」とか言われるのは困るしね。だが返答は……。


「まったくそそられんな」


 非常にすげないものだった。

 えー、でもお前、皆既月食すげぇんだぜ? 段々満月がなくなっていくんだ。しかも完全に飲み込まれた時には赤い満月に見えるんだよ?


「ふん……月の満ち欠けに喜ぶのは、稚児か風流人ぐらいもの」


 どっちもそう貶し言葉じゃねぇだろ。


「某は分別のある者であるからな。いちいち驚いたり騒いだりはせぬのだ。そもそも真夜中のことであろう? 月なんぞ見ずに寝るべきだと某は思うぞ」


 なんだよ、情緒のないやつめ。

 いいよいいよ、皆既月食は私一人で見ることにするから。あとで「なにゆえ某を起こさなんだ!」って怒っても私は知らねぇぞ。


「ふぅむ、よほど某は見くびられておるの。左様なことなど起きるわけが」


 見くびるっつーかいつものパターンがそれなんだよ。自覚しろやチョンマゲ。




 そして、深夜。

 用事を終えた私が時計を見た時には、既にその針は午前1時半を差していた。

 お、もうそろそろ月が欠け始める頃かな。私はワクワクしながら窓の近くへと寄ったのだ。


 予想どおり、夜空に浮かんだ満月は今まさにその身を影に食わせているところだった。慣れ親しんだ月が少しずつ姿を変えていく。胸が踊るようなひとときだ。この時間をより楽しもうと、私は冷蔵庫にビールを取りに行こうとして……。


「ぬうっ」


 武士と鉢合わせをした。

 なんだお前! 寝てたんじゃなかったのか!


「某も見たかった! なにゆえ某を起こさなんだ!」


 私の予言を一息でフルコンプすな! 結局お前も見たかったんじゃねぇか!

 まあいいか。ほら、見てみろよ。ちょうど月が欠け始めたところだぞ。


「ぬおお……まことに月が食われておる。凶兆ではないのか?」


 大丈夫だよ、あれはそういう自然現象だから。


「ふおお……」


 武士は口を開けて皆既月食に見入っている。江戸時代でも起きた現象だろうけど、それこそ当時は興味関心より恐れをもって見る人が多かったのかもしれない。


「月が完全に食われる前に願いを三度唱えれば叶うのか?」


 流れ星のシステムじゃねぇんだよ。そんでだいぶ低いハードルだな。願いのフィーバータイムじゃん。

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