制汗剤
昨日の話を書いていたら思い出したことがあった。武士が初めて制汗剤を使ったときのことだ。
あれはそう、やはり死ぬほど暑い日だった。それでも武士は鍛錬のために神社に行くと言って聞かず、しゃーなしに私は彼の体に制汗剤を吹きかけたのだ。
「死ぞーーーーーーーっ!!!!」
大げさな。
「某の身に何をした大家殿!? 背中が燃えたが!? 否、これは……氷……!?」
未知の刺激に脳が混乱しているようだ。
大丈夫、体に害はないよ。スースーするだけ。
「スースー!? 某の背中に氷が貼りついておるが!? 」
いや、別に氷は貼りついてないんだよ。
でも涼しいだろ? 熱中症対策になるかと思って。
「ぬおお、ぞくぞくする。一体何を使ったのだ」
制汗剤だよ。
「生還罪?」
生きて帰ってきてしまった罪? 違うよ。
「精悍罪?」
お前がたくましい男過ぎて罪? 違うよ。
「静観罪?」
静かに状況を見守っていた罪? 違うよ。
っていうかお前、私の善意を罰と認識してんの?
「この暑い中、某が鍛錬に行くと言って聞かんから」
心配はしてるけど架空の罪を作って罰を与えるつもりはないよ。失礼だな。
まあでもこれで多少は熱中症も防げるだろ。いってらっしゃーい。
「うむ」
よしよし、大人しく出ていったな。
あ、でも制汗剤って基本運動したあとに使ってたイメージだな。運動前に使ってもよかったんだろうか。念の為調べてみるか……。
……。
あ!!? 制汗剤は発汗を抑えるから体に熱がこもって熱中症になりやすい!!???
武士ーーーっ!!!! 帰ってこい武士ーーーーっ!!!! シャワー浴びて制汗剤落としてから改めて鍛錬に向かってくれ武士ーーーーーっ!!!!!!
なんとか私の制止は間に合い、武士は制汗剤を落として無事鍛錬に向かうことになりました。
武士は怒ることなく、爽やかに笑いながらこう言いました。
「つまり大家殿は静観罪にを免れたということだな」
やかましいわ。大変失礼いたしました。
賢明なる皆様におかれましては大丈夫だとは思いますが、お気をつけを。




