表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武士がいる  作者: 長埜 恵
2.武士がいる
647/677

歯磨き粉の話

 武士が初めて歯磨き粉を使った時は面白かったな。


「ナ゛ヴァッ゛!!!!」


 歯磨き粉を背後にきゅうりを発見した猫のごとく吹っ飛んだ。無理もない。江戸時代にミントはなかったからな。


「なんぞ、これは……! 某の口の中に爽やかな風が吹いておる!」


 武士は口を大きく開けて深呼吸を繰り返している。

 よかったな、涼を感じられて。


「怖い」


 ミント知らない人ってこんな反応するんだ。まあしばらくは爽快感が続くと思うよ。楽しみな。


「深く呼吸をするたび、口の中にひんやりとした風が送られるのだ……。氷を噛んでいる時すらこれほどではなかった。何が起こっている?」


 ええと、それはミントが……。


「そうだ。うだるような暑い日には、この粉を全身に塗り込んで出かければよいのでは?」


 それはそれで別の商品があるからちゃんと歯磨き粉として使いな。


「うむぅ」


 しばらく口を開けて涼を楽しんでいた武士だったが、やがて微妙な顔でこちらを向いた。


「大家殿、やはり某にこれは合わんと思うのだ」


 お、そう? なんで?


「口に雪を詰め込んだかのようだ」


 口の中で処理できる情報量じゃなかったか……。そんならこっちの歯磨き粉使ってみる? 前に試供品としてもらったけど、好みじゃなくてまるまる残ってるんだ。


「ほう、愛らしい猫の絵が描かれておるな」


 新しい歯磨き粉を手に取ると、早速武士はにゅーんとチューブを絞った。そしてためらいなく歯ブラシを口に突っ込む。瞬間、目を見開いた。


「うまい! 甘い! 菓子か、これは!?」


 子供用の歯磨き粉だよ。りんご味。菓子じゃないよ。


「ううむ、ううむ……これはよい! いくらでも食べられるぞ!」


 だから食いもんじゃねぇんだって。歯磨き粉なんだよ。


「もう一杯!」


 かけそばじゃねぇから! 腹壊すぞ!


 以降、武士はずっと子供用の歯磨き粉を使っているのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ