お盆の水辺
思う存分飲み食いして、迎えた翌日。今日はいよいよ実家に帰る日だ!
「大家殿の家は、確か山の中であったな」
山の中すね。
「帰れるのか?」
田舎って車がライフラインなとこあるし、そこは心配しなくていい。冬だったらやばかったけど。
「冬だと帰れんのか? しかし土佐は北国ではなかろう」
北国じゃないけど山が多いんだよね。で、山は冬になると普通に雪が積もるから、場所によっては閉ざされることもある。……昔はあった。今はもっと道路が整備されてるのかも。
そんな話をしながら車を走らせる。二車線が一車線になり、緑の割合も多くなってきた。武士は窓の外を眺めて、時折「うむうむ」唸っている。
「川が流れておる。美しいな」
お目が高いですね。高知の川は仁淀川や四万十川などきれいな川が多いんだ。
「某も川で遊びたい。大家殿、ここはひとつ水に足を浸けに行こうぞ!」
うーん……それはちょっとやめたほうがいいかもな。
「な、なにゆえ?」
お前知らないのか? お盆の時期には水辺に近づくなって話。
「ぬ……! う、うっすらと聞いたことはあったが」
お盆になるとたくさんの霊があの世から帰ってくる……。そして水辺から生者を手招くんだ。こっちへこい、こっちへこいと……。
「ぬぬぬ……!」
まあ実際は台風や大雨、クラゲが発生する時期と重なってるからって説があるけどね。
「ほ、ほう、なるほど……。しかし、ここのところ大雨はなかった。ならば川には入れるのではないか?」
生憎とそうじゃない。なぜならこの時期は“出る”からだ。
「あやかしが……!?」
いや、
アブが。
「あぶ」
でかめのハエぐらいの大きさのハチだ。なお人の皮膚を噛み切って吸血するため、刺されると痛い。
「ぬおおっ」
経験上、この時期になるとアブが発生し始める。だから可能なら川には行かないほうがいいんだ……。
「そうであったか……。なんと恐ろしい」
お盆は水辺に近づくな……! 霊と違って、クラゲやアブは刺すぞ……!
「霊のほうが害がないのか?」