花屋
たまに通りがかる花屋が閉店セールをしていた。
閉店――胸がぎゅっとなる言葉である。どのような経緯があって、どんな思いでそのような結論に至ったのか。お得意さんとなっていたお客さんの無念はいかばかりか。しかし客として訪れたこともない私にそれらを論じる資格はない。淡々と自らの欲に従い、半額セールに乗り込むだけである。
「花であるか」
武士はほとんど空っぽになった店内をしげしげと眺めていた。そういえば、江戸に花屋ってあったの?
「棒手振りがおったように思う。ああ、縁日では朝顔も売っておったぞ」
言われてみれば今でも入谷朝顔まつりがあるっけ。花を愛でたいって気持ちはどんな時代でも変わらないんだなぁ。
「ぬ、大家殿。これなどどうだ? 見たことはないが麗しき花だ」
えーと、それはブーゲンビリアか。
「舞幻美離愛」
暴走族の当て字か?
ちゃんと育てれば越冬もできるってさ。きれいだね。
「ふぅむふぅむ」
こっちは装飾コーナーだ。でっけぇ帆船が置いてあるけど、どうやって花に絡めて飾るんだろう。
「水に浮かべた花に添えるのではないか?」
え、お前花手水知ってるの? 意外に風流だね。
「鼻提灯?」
全然知らねぇじゃねぇかよ。奇跡の一言だったのかよ。
それで、あー……ここは植木鉢コーナーか。お、これいいな。来年アデニウムの植え替えをする時に良さそう。
「少々浅いのでは?」
アデニウムは根を横に広げるから浅い鉢でもいいって聞いたことある。これ買おうかな。
武士は何か買いたい物ある?
「船がよい」
うちには花手水スペースないから、風呂ぐらいしか浮かべられるところないぞ。
「某も共に浮かぶから」
どういうフォロー?




