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武士がいる  作者: 長埜 恵
2.武士がいる
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雨に打たれて

 これは先日のこと。


 会社から出るなり、湿った空気が私の鼻をついた。すっかり日が落ちた空は分厚い雲で覆われており、今にもその涙をこぼしそうだった。

 もしかしたら、タクシーで帰ったほうがいいのかもしれない。そう思ったのも束の間。

 私の鼻先を雨粒が叩いたかと思うと、一気に本降りの雨が襲ってきたのである。

 こうなるともうタクシーとかそういう問題じゃない。私は自転車でひたすら自宅を目指すしかなくなった。一瞬雨合羽を着るべきかと考えたが、もうパンツまで濡れているのだから無意味である。乾かさねばならないものが増えるだけだ。

 私は自転車のペダルに全体重を乗せ、思いっきり漕ぎ出した。


 ……思えば、こうして雨に降られるのは久しぶりである。いっそすがすがしいし、夏って感じがする。


 そう考えないと正気が保てないなと思いつつ自転車を漕ぐこと20分、私は無事アパートに到着した。

 武士は今の私の姿を見たらどう思うだろうか。笑うだろうか。はたまたドン引きするだろうか。バカにした瞬間背負い投げしようと覚悟を決めながら、自転車をとめていたところ……。


 自転車小屋の影から、ぬぼーっと落ち武者の霊が現れた。


 でででで、でたーーーーーー!!!!


「大家殿」


 そっすよね、まあうちの武士っすよね。

 どしたん、濡れ鼠になって。


「それは大家殿も同じでは……いや、某はきゅうりを買いに行っておったのだ。しかし傘を忘れたために、このザマよ」


 きゅうりも思いがけず新鮮な雨を浴びられて嬉しかっただろうな。


「して、大家殿はこの雨の中、自転車で帰ってきおったのか」


 まあタクシー使えるほど金銭に余裕はないよね。カバンも防水だし、私が濡れるぐらいならいいかと思って。


「夏とはいえ、体が濡れば冷えるぞ。とく我が家に帰ろう」


 そうだな。


「実はもし大家殿が今の某を見てバカにしようものなら、我が背中に大家殿を乗せてそのまま地面に叩きつけようと思っておった」


 へー、気が合うね。私も同じこと考えてたわ。ちなみにそれ背負い投げっていうんだよ。


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