自転車、更にその後
悲報。武士、まだ自転車に乗れない。
「うぬぬ……しかし、恐ろしいのだ。大家殿……」
いつもの大雑把さなどどこへやら、自転車にまたがる武士はすっかり縮こまっている。
「何度もばたんと転んでしまったらもういかん。自転車はまこと重いのだ。某は手足にぶつけたら実に痛いと学んでしまった……」
「それに、どうしても、こう……足を回せぬのだ。足置きが重くてな……」
「ぬぬう……やはり某にこの車は乗りこなせぬのであろうか……」
ちょんまげが萎れるほどしょげてしまっている。乗りたい気持ちはあるのだろうけれど、自分が自転車に乗れるイメージがないのだろう。
思い込みって結構大事だ。たとえ周りからできないという評価を下されていたとしても、本人にできるビジョンが見えていれば上手くいくことがある。反対に成功率は十分見込めていたのに、自信がなかったせいで失敗する場合も多いもんな。どうせやるなら、勇気をもってやるべきだろう。
と、ここまではいつぞやの自転車練習の際に学んだはずだが……。
「ぬーん。ぬーん」
一度手痛い失敗をしてしまうと踏ん切りがつかないのだろう。武士はゆらゆらとゆっくり横に揺れていた。不気味な光景だ。SNSにアップしたらワンチャンバズるかもしれない。
だが私の承認欲求が満たせても、武士が自転車に乗れないのではいけない。そう思った私は、人類の叡智を頼ることにしました。
YouTubeの自転車解説動画です。
「なるほど、まずは転ぶ練習をするのか……」
その動画によると、まずは転ぶ恐怖を軽減させることが大事なのだそうだ。ペダルに片足をかけ、もう片方の足はパッと地面から離す。するとどちらかに傾くので、慌てず傾いたほうの足を出して転倒を防ぐ……とこういう理屈だ。
どうだ、武士?
「う、ううむ……ええい、ままよ!」
おおっ! 足を離した! えらいぞ!!
「ぬぬ、ぬぬぬぬっ!!」
すげぇ! 抜群の体幹とバランス感覚でどちらにも倒れない! あれこれもう自転車普通に乗れてるくない?
「そいやぁっ!!!!」
おおーっ! 倒れる前に同時に両足を地面についた!!
?
「はあっ、はあっ……! 大家殿! 某、やれたぞ!!」
?
うん……うん?
やれたっちゃやれた……うん?
まあ……嬉しそうだし、ええか……。